大団円! 終わりよければ全てヨシ!!

 金上の配下であるチンピラたちがいる中で闘うのか否か……バタフライが悩みマジカル☆ドリーマーズとファントム☆ウィザードがおろおろと様子を見届ける丁度その時、異変が立て続けに発生した。

 まずパトカーのサイレン音が聞こえてきたのだ。フォックスや雪羽は聴力が良いからたまたま聞こえた訳ではない。何しろ、サイレン音は確実に近づいてきていたのだから。

 次に、サカイ先輩が構築していた結界が局所的に爆ぜ、穴が開いたのだ。全部が解除されたわけではなく、一部分だけが切り抜いたかのように。


「サカイ先輩……?」


 思わずサカイ先輩に問いかけようとしたフォックスだったが、そこから更に思いがけぬ事が発生した。結界が切り抜かれた箇所に、あつらえたようにワームホールが発生したのだ。青白い稲妻の輪が広がり、そこから更にマッチョが姿を現したのだ。

 マッチョに次ぐマッチョの登場である。小規模なワームホールだったためか、登場したのは僅かに十五名ほど。それでも彼らは鍛え抜かれた筋肉の鎧をまとう、マッチョ戦士である事には変わりない。薄着、或いは上半身裸なので一層筋肉が目立った。

 先導するマッチョもまた見事な筋肉の持ち主であったが……他のマッチョ戦士よりも若々しい。ともすると少年のようにも見える。筋肉が解りやすい服装であったが、


「ちょっとマッチョ! あなたはもしや……ぷっちょ君?」


 先陣を切る若きマッチョを見たプリンセスとイノセントが声を上げる。動きのシンクロ度合いは流石に姉妹だった。

 ぷっちょ君とは誰だろう。フォックスと雪羽(興奮しすぎて少年の姿に戻っていたのだ)は顔を見合わせた。

 そんな中で、ぷっちょ君と呼ばれた若者はその顔に爽やかな笑みを浮かべたのだった。プリンセス・マッチョです。いずれはキングになりますが。


「お久し振りです、マジカル☆ドリーマーズの皆さん。そして申し訳ありません。あなた方にはマッスルキングダムを救って頂いたにもかかわらず、国民の一人がまたこうしてご迷惑をおかけする事になって……」

「な……わ……そんな……」


 先程まで強気だったキャシーは一転し、へたり込んでぶるぶる震えている。別段バタフライから攻撃を受けた訳でもない。ただ彼は、ぷっちょ君ことプリンセス・マッチョとマッチョ戦士たちに恐れをなしていたのだ。

 気付けばリーサたちが結界で封じ込めた宝珠も、マッチョ戦士たちに強奪されている。


「蝶介にやられたヒーヨワーが更生していたので油断してましたが、まさか弟であるあなたがヒーヨワーの意志を受け継いでいたとは……」

「違う! 私は兄に唆されたんじゃない。兄を超えたくて、それで国家転覆を狙っただけだ。あいつは……兄は関係ないんだ……」

「とりあえず、詳しい話はPS(警察署)で聞く事にするぞ。何、余罪は色々あるだろうに」


 すっかり抵抗する気を無くしたキャシーは、そのままマッチョ戦士に取り囲まれ、身柄を確保されたのだ。そして真っ先にワームホールに放り込まれ、それっきりだった。雑な扱いなようにも見えるが、きっと警察署に相当する場所に転移されたのだろう。

 マッチョ戦士たちはそのままキャシーに操られていたマッスルキングダムの国民たちをも護送し(こちらはかなり丁重な扱いだった)、ぷっちょ君は魔法少女たちに礼を述べてから部下と一緒にワームホールの向こうへと消えていった。


「筋肉勝負はお預けか……」


 閉ざされたワームホールのあった方角を眺め、蝶介はぽつりと呟く。サカイ先輩の結界は完全に消え去っており、マジカル☆ドリーマーズたちと精霊たちは元の姿に戻っていたのである。

 闘いが終わった感を出している蝶介たちと源吾郎たちであったが、しかしまだ危機は去っていないはずだ。マッチョたちは然るべき場所に連行された。だが金上と彼の部下らしいチンピラたちが残っているではないか。

 金上を、チンピラたちをどうにかせねば! 半ば焦りながら源吾郎はステージを降りようとした。


「お巡りさんこいつです! こいつが悪玉で、女の子とか若い子を攫ってマッチョにした犯罪者なんです! あとチンピラとか暴走族を私たちにけしかけました」

「待て待て待て! 俺はただあのマッチョに騙されただけなんだって。おい、金なら出すから見逃してくれ。おい! 誰か、誰かいないのか」


 ステージの下、観客席の騒動も大方収束していた。いつの間にか警察官が現場に押し寄せており、チンピラたちを大方逮捕してしまっていたのだ。金上を指差して犯罪者だと知らせているのは我らが鳥園寺飛鳥だった。


「金上英太さんですね。ひとまず署までご同行願えますか。お仲間も一緒なので寂しくありませんよ」

「あんなのと一緒にするなーっ! 放せ、放してくれーっ!」


 その金上も警察官に捕まり、獲れたてのマグロよろしくパトカーに押し込まれていったのだった。

――全部が終わったのだ。去っていくパトカーたちを見ながら、源吾郎は静かに思った。


 マッチョ襲来などのアクシデントがあったものの、どうにかご当地イベントは無事に終了する事が出来た。サカイ先輩の結界と認識阻害により、キャシー率いるマッチョ集団との闘いは単なる芝居であると皆に思わせる事が出来たのだ。

 途中で金上の部下であるチンピラの襲来を誤魔化す事は流石に出来なかった。それでもサカイ先輩と飛鳥は先に手を打っていた。飛鳥が警察に通報していたのだ。それもまたサカイ先輩の助言によるものだった。マッチョたちとの戦闘を魔法少女たちに任せる傍らで、彼女はマッスルキングダムに連絡を取っていたのだ。ぷっちょ君たちがスムーズにこちらにやってくる事が出来たのも、彼女の暗躍あっての事だった。

 ともあれ、全てが解決したので丸く収まった訳であるが。


「島崎君に雷園寺君。そして鳥園寺さんとサカイさん。今回は本当にありがとうございました」


 眼鏡がマッチョのアクセントになっている海原博士は、やや改まった様子で源吾郎たち一行に礼を述べた。いえそんな……源吾郎たちが照れている間にも、マジカル☆ドリーマーズの面々が話しかけてくる。


「私たち、実はもう魔法少女に変身する機会は無いだろうなって思ってたんです。だけどまた魔法少女として活躍出来て……本当に夢みたいだったわ」

「……マッスルキングダムのプリンス・マッチョも立派に育っていたのが見れたしな。もしかしたら、俺と秀雄もまた彼らにトレーニング指導を要請されるかもしれんし」

「今回ヒーヨワーの弟が襲ってくるのは予想外だったけど、島崎君たちが、ファントム☆ウィザードも力を合わせてくれたから、それが本当に嬉しかったわ」

「皆さん……本当にありがとうございます」


 それじゃあ、またいつか――! 晴れやかな挨拶と共に、源吾郎たち一行は夢見丘を後にしたのだ。


 マジカル☆ドリーマーズとファントム☆ウィザードが共闘するシーンを編集した特撮の円盤が飛ぶように売れただとか、蝶介がブロンズマンジムをマッスルキングダムにも誘致しようと考え始めたというのは、また別の話である。


魔法少女マジカル☆ドリーマーズとファントム☆ウィザード! 強さの秘訣はMPなのか? 完

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