マジカル☆ドリーマーズの再来!

 さてキャシーは唐突に現れたサカイスミコに戸惑っていたものの、それでもやはり不敵な笑みを浮かべたのだった。


「お前の存在に私が気付いていないとでも思ったか? こそこそとネズミのように我らの行動を嗅ぎまわっていたと思ったら……大きく出たな」

「そう言っていられるのも今のうちかもしれないよ?」


 ネズミ呼ばわりされた事など意に介さず、サカイ先輩は笑い返す。長い髪がざわざわと揺れ、触手のように蠢くのが見えた。


「べ、別の世界でのあなた達のやった事を罰するつもりは私にもないわ。で、でもっ、妹分をいじめて、それでその友達であるマジカル☆ドリーマーズや他の人を巻き込もうとすると解っていて、黙って見れはいられないわ。

 もうあなたは暴れる事は出来ない。大人しく降参して。そうでないと……醒める事の無い悪夢に囚われるかもしれないよ?」

「こ……この人は?」

「大丈夫ですよ城ケ崎さん。サカイ先輩は私たちの味方なので」


 たじろぐ悠花をフォックスはなだめる。サカイ先輩も臆せず妖気を放っていたので、キャシーに負けず劣らず禍々しい存在に見えてしまったのだろう。妖怪である源吾郎たちですら、時に彼女が恐ろしいと思う事があるくらいなのだ。魔法少女だったと言えども、人間である悠花たちが戸惑うのも無理からぬ話だ。


「どいつもこいつも聞き分けの無い輩ばかりだな……ともあれ、マザープロテイン・ネオの力を受けるが良い」


 余裕ぶった物言いであるようだが、キャシーも中々気短な性質であるらしい。彼は臆せず迷わず今再び宝珠に念を込めたのだ。宝珠は今一度強い光を放ち、あろうことかサカイ先輩に直撃したのである。


「さぁさぁお前もマッチョになるが良い。良いマッチョに仕上がると思うぞ」

「ぐっ……ああうぅ……」


 サカイ先輩は膝をつき、胸元を押さえていた。荒い息を押さえようとも、えずくのをこらえているようにも見えた。その間にも彼女の身体は変質していく。ボコボコと膨らみ、マッチョに置き換わろうとしていたのだ。幸いな事にモヒカンにはならなかったが。

 サカイ先輩の変異・変質はたっぷり十秒ばかりかかった。他のマッチョたちよりも時間がかかったのは、サカイ先輩もおのれの妖力で堪えていたからに他ならない。現に今、彼女から放出された妖気が結界の中に漂っているのだから。

 膝をついたまま、サカイ先輩はキャシーを睨んでいる。キャシーは驚き、さも感心した様子で呟いた。


「マッチョ化は成功したが、洗脳魔法は効果が無かったようだな」

「あ、生憎と……私はそう言う魔法と!」

「何者かは解らぬが、流石は上級魔導士クラスの力を持つだけあるな……手駒に出来なかったのが残念だが」

「こいつ、よくもサカイ先輩を……」

「落ち着いてサンダー。ひとまずサカイ先輩の様子を確認しないと」


 激するサンダーをなだめたフォックスであったが、サカイ先輩が戦闘不能である事は何となく察していた。あの禍々しい空気が幾分薄らいでいるのだから。

 ごめんね。サカイ先輩は野太い声で申し訳なさそうに告げた。


「洗脳されなかったけど……のよ。私、やっぱりすきま女だから……」


 サカイ先輩にしてみれば、マッチョ化されたのが相当なダメージだったらしい。フォックスはややあってからその効果がどのようなものか気付いた。すきま女であるサカイ先輩は、様々な隙間を味方につけて力を発揮している節がある。狭い所ほど強大な力を振るえるが、広々とした場所ではその力を発揮する事は難しい。

 今回も、結界と言う狭い場所を造り出した事によって、サカイ先輩は闘えると豪語していたのだ。ところがマザープロテイン・ネオのビームを受けた彼女は、その効果でマッチョと化してしまったのだ。物理的に大きくなってしまったがために、すきま女としてしてしまったのだろう。


「安心して下さい、サカイ先輩。敵は俺が討つ!」

「ええ、私も覚悟が決まりました」


 結局の所は自分たちが闘う他ないのだ。フォックスとサンダーは今一度覚悟を決めたのである。先輩が倒れたとあって、ここで動かなければ名門妖怪の名折れだ。ここで闘って悪をくじく事こそが漢の本懐であろう。源吾郎はそう思っていたし、雪羽もまた同じ考えだろう。

(自分たちが今は魔法少女である事を忘れ、ついつい漢の本懐と思ってしまったのだ)


「二人とも少し待って!」


 改めて臨戦態勢となったファントム☆ウィザードたちの背後から声がかかった。声の主はマジカル王女のリーサである。隣には王女のマーヤとゆうちゃんが控え、更には観客として紛れ込んでいた四人の精霊たちもいる。

 王女姉妹を見たフォックスは瞠目した。彼女たちから膨大な魔力が立ち上るのを見たからだ。


「私たちも闘います。魔法少女として――今なら魔法が使えるみたいだから」

「た、多分……この結界はあともって三十分ほどなの……」


 魔法が使えるという言葉に呼応し、サカイ先輩が補足説明してくれた。三十分あれば上等だ、と言うのは精霊マッスルの言である。彼もまた、他人を洗脳しマッチョにするというキャシーの所業に烈しく憤慨していた一人でもあった。


「サカイスミコさんでしたか。ひとまず安全な所でお休みください」


 精霊クリスタルがサカイ先輩にねぎらいの言葉をかけている。他の精霊たちも、そしてマジカル☆ドリーマーズの面々の士気も上がっているのを感じた。


「サカイさんが下さったチャンスを無駄には出来ん……みんな、変身するぞ」


 音頭を取ったのはリーダー格のミックスアイである。それと共に精霊たちが自分のペアの許に近付いていく。蝶介の傍にはマッスルが、悠花の傍にはセンチュリーが、海原博士の傍にはクリスタル、そしてマーヤの傍にはミックスアイと言う組み合わせである。リーサにはペアになる精霊はいなかったが、弟分であるゆうちゃんがさり気なく傍に近付いている。


「マジカル・ドリームチェンジ!」


 変身のトリガーとなる五人の叫びが、綺麗に重なり合った。五色のまばゆい光が発生し、ファントム☆ウィザードもキャシーたちもマッチョたちも思わず目を細める。

(その間にキャシーたちは襲撃しなかったのだ! 幸いな事に)


「あ、な……これは!」

「すごい、凄すぎるぜこれは!」

「あ、新手のプロジェクションマッピングかな」


 光が収まった所で、すっかり観客と化した面々が結界の外から声を上げている。蝶介たちマジカル☆ドリーマーズは、何と十年の歳月を経て今再び魔法少女として変身を遂げたのだ。

 しかも彼らは、精霊たちと融合した最終形態エレメント・スタイルだったのだ。

 マッスル・バタフライは筋骨隆々とした体躯(特に上半身がすごい)と可憐な面立ちが印象的なムキムキ魔法少女になっていた。

 センチュリー・エターナルはジェーモン大暮を彷彿とさせるフェイスペイントが特徴的な魔法少女に。

 クリスタル・オーシャンは白衣を着た魔法少女と言う事で先の二人よりも大きな特徴は無い。だが……使い方が無限大の白衣の威力が凄まじい事を、フォックスたちは知っていた。

 そしてミックスアイ・イノセントは、後光にも鈍器にもなる電飾を背負った姿での登場である。


「そうか……結界内に魔力が充満しているから、お前らも魔法少女に変身したのか。まぁ良い。いけマッチョ軍団よ! 魔法少女と闘うのだ!」


 キャシーは半ば驚きつつもモヒカンマッチョに指示を出す。モヒカンマッチョが動くのと、二組の魔法少女たちが動いたのはほぼ同時だった。

 いや……気付けばいつの間にか魔法少女サンダーは獣の姿に戻っていたのだ。「先輩たちが最終形態だから、俺も最終形態になるぜゴルァ」と言う事だったのだが。

 やれやれ、雷園寺も敵を前に興奮しているな……そう思いつつも、魔法少女フォックスもまた、闘志の焔が燃え上がるのを感じていた。

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