興味津々! マジカル☆ドリーマーズ

 さて二組の魔法少女たち(男女混合)の顔合わせも無事に終わった。海原博士の超天才ぶりはすさまじく、源吾郎たちが実は物語としてマジカル☆ドリーマーズの事を知っていたという事実さえも受け入れてくれたのだ。

 そのため源吾郎たちは気負う事なく持参したお土産をマジカル☆ドリーマーズに渡す準備が出来たのである。海原博士たちも来客である源吾郎たちに飲み物を出してくれたのだが、それらがプロテインドリンク(蝶介運営する「ブロンズマン・ジム」の名物だった)のは言うまでもない。


「マジカル☆ドリーマーズの皆様が気に入っていただけるものをと思ってお土産を用意したんですが、結構てんでバラバラの品になっちゃいました。

 気に入っていただければ嬉しいんですが」


 すっかりリーダー格になったトリニキこと飛鳥は、はにかみつつ持参した土産の品をテーブルに乗せた。特に示し合わせた訳でもないのだが、内容が被らなかったのである意味良かったのかもしれない。

 飛鳥が用意したのは缶入りのクリームカルルスと言う神戸発の焼き菓子であった。マッチョを意識したわけでは無かろうが、詰め合わせの中には抹茶味も含まれている。

 源吾郎が準備したのは二冊のどっしりとした書籍だった。それぞれ表紙には「図解・筋肉のすべて」「これで分かる! 魔法少女の歴史」と言うタイトルが躍っている。マジカル☆ドリーマーズが魔法少女である事、マッチョが三名在籍している事を踏まえたラインナップだった。

 だがインパクトと言う観点から見れば、雪羽の持参した手土産がぶっちぎり一位であろう。彼が持ってきたものは何とマンドレイクだったのだ。錬金術師御用達のアレである。根の形が人体に似ているという噂にたがわす、雪羽が持参したそれも、人面の高麗人参のような様相を見せている。

 貸農園で栽培していたものをこの日のために引っこ抜いてきたのだ。得意げに語る雪羽の面には、子供のような無邪気な笑みが広がっていた。


「何せマンドレイクと言えば、昔から魔法や錬金術に縁深い植物です。マジカル王国の皆様や、魔法を研究している海原博士にピッタリかと思いまして……」


 手土産の解説を行う雪羽の表情は、もはや笑顔を通り越して若干ドヤ顔気味でもあった。こっそりと目配せする飛鳥と源吾郎の顔には微苦笑が浮かんでいた。マンドレイクはまだ可愛い方ではあるよな、などと源吾郎は内心では思ってもいたのだ。と言うのも、ガチの魔導書を用意しようかなどと雪羽が言っていたのを源吾郎は知っているからだ。

 突飛な品物ながらも抜かりなくモストマスキュラ―(ポージングの一種だよ!)をしているマッチョみたいな形のマンドレイクを海原博士に勧める所が何となく雪羽らしかった。マッチョマンドレイクは海原博士に、普通の(?)ノーマルな形のマンドレイクはリーサとマーヤに雪羽は贈呈していた。

 マンドレイクと言うのは引き抜いた時に絶叫を放ち、それを耳にすると死んだり発狂したりするという事で有名な植物でもある。しかし、雷獣である雪羽にしてみればマンドレイクを引き抜く事は容易い事でもあった。一時的に聴覚を遮断した状態で引き抜けば、どれだけマンドレイクが叫ぼうと影響は無いのだから。


 手土産の紹介やマンドレイクの話が一段落してから、一行は地下のトレーニングルームに移動していた。地下にトレーニングルームがある事については源吾郎も雪羽も特に驚いたりはしない。職場も地下室は訓練室として使っているのだから。

 但し、こちらのトレーニングルームは若干器械が多い。具体的に言えばベンチプレスやぶら下がり健康具、ウェイトリフティング用のダンベルなどである。まさしくジムのトレーニングルームと言って遜色なかった。


「島崎君と雷園寺君。今度は私たちに魔法少女の秘密を教えて欲しいんです!」


 ここで真っ先に声をかけてきたのは、城ケ崎悠花だった。勢いのある口調と共にやや前のめり気味に源吾郎たちに向き合っている。魔法少女ファントム☆ウィザードの謎や秘密を知り尽くしたい。そうした熱意がひしひしと伝わってきた。

 委員長……蝶介が懐かしそうに呟くと、悠花は慌てて居住まいを正した。


「あ、ごめんなさい。私ってばまたちょっと興奮しちゃって……あのね、秘密と言っても企業秘密とかコンプライアンス的に話せない事は話さなくて大丈夫よ」

「お気遣いありがとうございます。ファントム☆ウィザードについては特に企業秘密とかは無いので大丈夫です」

「ファントム☆ウィザードは島崎君とユキ君、いえ雷園寺君が趣味でやってるユニットで、インディーズバンドみたいな感じなんですね。別に営利目的でもないし、私たちは違う世界からやって来てるから、多分著作権とか商標とかの問題も大丈夫だと思うんです」


 悠花のやや畏まった言葉に対して、源吾郎と飛鳥はにこやかに応じた。企業秘密とかコンプライアンスと言うビジネス的な部分を気にするあたりが大人の会話だなと源吾郎は密かに思っていた。悠花は大人でビジネスパーソンなのだから当然の話だけど。

 少しばかり間を置いてから口を開いたのが雪羽だった。ちょっと申し訳なさそうな、それでいて面白がっているような表情を見せている。


「あ、でも城ケ崎さん。もしかしたら魔法少女の事について、僕らでは上手く説明できない所もあるかもしれないんです。魔法少女への変身とか、妖術……魔法とかはあんまり意識せずに使っている所もありますので」

「確かにそうかも」


 意識していない所であるから説明が難しい。これには源吾郎も同じ意見だった。ひょいと簡単に出来る事についてあれこれと意識を巡らせないのは人間も妖怪も変わらない所だからだ。

 そんな風に思っていると、雪羽のほっそりとした手指が源吾郎の肩に添えられた。さり気ない動きながらも妙に力が籠っている。雪羽は再び口を開いた。マジカル☆ドリーマーズの面々に輝く瞳を向け、満面の笑みを咲き開かせながら。


「それよか何か申し訳ないですね。海原博士や番所さんがいらっしゃると言えども、魔法少女と言えば可愛い女の子をイメージなさってたんじゃないでしょうか。僕らは、そんな魔法少女の基とは似ても似つかぬ存在ですし」

「雷園寺君!」


 別にそんな事を言わんでもええやん。源吾郎は内心そう思っていた。しかしマジカル☆ドリーマーズの面々がいるために、雪羽の名を呼ぶだけに留めておいたのだ。

 源吾郎や雪羽が漢である事は変えようのない真実であるし、何よりマジカル☆ドリーマーズとて男女混合の魔法少女ユニットではないか。

 もしかすると、雪羽は漢ばかりの魔法少女ユニットについて言及される事を恐れているのかもしれない。そう思うと源吾郎も少しだけ心が穏やかになった。何のかんの言いつつも、雪羽は女子変化を始めてから日が浅い。人間で言えば思春期の若者でもある彼にしてみれば、気恥ずかしさが先立つ事もあるのかもしれない。

 そんな事ないわ。悠花はしっかりとした態度で応じてくれた。


「正直なところ、ファントム☆ウィザードが男の子たちのユニットって聞いてびっくりしたわ。だけど島崎君たちを見て思ったの。ギャップ萌えがすごそうって! もう、カッコいい男の子の姿から可愛い魔法少女に変身するって思っただけで……私……」

「悠花! 大丈夫か!」

「あらやだ。私ったらまた悪い癖が……」


 熱っぽく語る悠花に後ろから声をかけたのは、白塗りの顔が特徴的な精霊だった。白塗りの精霊ことセンチュリーは、悠花にポケットティッシュを二つ手渡していた。白衣で超頭脳を持つというクリスタルが用意した物だったのかもしれない。


「二人とも大丈夫。私たち、男の子が魔法少女になるからってもう驚いたりしないわ」


 男子が魔法少女になっても驚かない。にっこりと微笑んでそう言ったのはリーサだった。マジカル王国の第一王女の言葉に、源吾郎も雪羽も背筋を伸ばした。妖怪たちの中でも貴族の立場にある彼らだからこそ、彼らなりに魔法界の王女に敬意を表したのだ。

 緊張しなくても大丈夫なのに。懐っこそうな仕草と口調でリーサは静かに言い添えた。


「私も最初は、魔法少女は女の子だけだって思ってたわ。だけどね、マジカル☆ドリーマーズの最初の魔法少女は蝶介だったの。蝶介は男の子だし、今よりも控えめだけど物凄い筋肉モリモリだったのよ」

「魔法少女か、懐かしいな……」


 口数少なくもはっきりと言い放つ蝶介の姿に源吾郎たちは釘付けになった。マッチョである事そのものは海原博士も同じだ。しかしそれでも、タンクトップにズボンというラフな姿のために、蝶介の筋肉は圧倒的な存在感を放っていた。

 と、その蝶介が静かに源吾郎たちに問いかけた。


「ところで、二人は魔法少女になる時、喋った言葉とかは変換されちゃうのか?」


 変換。その言葉を聞いた源吾郎と雪羽は静かに顔を見合わせた。(筋肉モリモリな)男子が魔法少女に変身する事もあるマジカル☆ドリーマーズであるが、変身時彼らの言葉は女の子らしい言葉に変換されてしまうのだ。「俺」と言っても「私」と言っているように変換されると言った塩梅である。

 明らかに漢である源吾郎と雪羽の場合はどうなのだろうか? 蝶介はその辺りを気遣ってくれたようだった。

 変換って男口調での言葉が女の子の言葉に変わるアレですよね? 一度確認を取ってから、源吾郎はおもむろに答えた。


「僕たちは妖術……自分の魔法で変身しているので女の子の言葉に変換される事は無いんです。なので雷園寺君、いえサンダーとかは結構気を抜くと男口調になっちゃうんですよ。僕も最初は指導してたんですが、何かもうボーイッシュ路線で行くみたいなんでまぁ良いかなって思ってます」


 素性がボーイ(男子)なのにボーイッシュとは洒落が効いてるな。源吾郎はそう思ってついつい笑ってしまっていた。男口調とかしゃあないやん。雪羽も笑いながらツッコミを入れている。


「島崎君。君は……フォックスはどんな感じなんだ? やっぱり時々男口調になっちゃうのか?」


 案の定蝶介が質問を続けた。強面ながらも興味津々と言った様子が見え隠れしている。そんな事は無いですよ。源吾郎はドヤ顔で応じたのだった。


「僕は普段は男口調ですけれど、女子変化には自信がありましてね。女の子に変化している時はちゃんと女の子の口調で統一しています。なので安心してください」

「そうか……」


 蝶介の表情が僅かに揺らぐ。魔法少女が漢たちだけだったと知った時よりも、今の方が驚きが大きいようだった。

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