百足怒涛

その通りに上を向く。天井は平らなものであった。変わった建物なだけ、か。とまた納得しかけた俺であったが───いや、俺が外から見た建物はこんな形状をしていない。違う、同じ形はしていたはずだ。ただ、上下が反転しているのである。


おい、と俺が菊原に声をかけようとした刹那、激しい衝撃と共に、視界がぐるぐると回転する。壁に背が当たり、咳き込みそうになる中。


伏せて!!!


音ではない菊原の声が脳内に響く。言う通りに地に腹をつけ、闇の中でぐるぐると視界を回す。突然のことで何も理解できない。しかし砂埃の中、何かの影がずるずると地を這うように動いている。ぎゅ、ぎゅぎゅギュ、と硬いものと硬いものが擦れ合うような不快な音を立てながら。


俺はその音に、非常に覚えがあった。つい最近、昨夜山の中で聴いた音とまるで同じ。しかしこんなものはあり得るはずがない。


シルエットは土埃をかき分け、こちらに突進してくる。いくつもの関節部分を折り曲げ、夥しいまでの足を動かして。


ああ、そうだ。その姿は。あまりにも巨大なその蟲は



多くの人々の嫌悪を集めてきた、ムカデ。

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宵闇メイロウ奇譚 @richokarasuva

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