怪異と警告色
行こっか、と菊原はまたあちらを向く。
「菊原」
俺は思わず声をかけた。このままにしておくのはどうにも俺の収まりがつかない気がして。
なに、と足を止める菊原。何かを言いたかったが、一体なにを言えばいいのかわからない。
「お前がなにを抱えてるのかわかんないけど」
無理すんなよ。ババアなんだから
また、鋭い殺気が俺を滅多刺しにする。やっぱり怒ってるじゃないか。
『アヤカシってのは、ある程度の強さとか勢力を持つようになるとあるひとつの場に留まろうとする習性がある。河とか沼とか、あるいは廃墟なんかにも。そう、それこそがいわゆるヌシってやつだ。彼らはナワバリ意識が強くてね。領域内に入った存在を否応なく殺す。殺意高めのヤンキーだよ言わば』
「って、千嗣が言ってた」
なるほど、つまり菊原は俺を殺す気なのか。
一瞬、感傷的になった俺が馬鹿だったらしい。
「いやいや、死なないために君を連れてきたんだからその辺り誤解しないでよ。しかもそんなに強くないし」
こいつはそう言うが───俺は目の前の廃工場を見上げる。壁は点々と焼け落ち、炭化している。屋根の淵は欠け、中からは夜空が見えることだろう。何より、この真っ暗闇でも見えるのは、黄色と黒の警告色。
未だ警察が調査しているのだろう。
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