老化


一瞬、二人の間に沈黙が流れる。調子の合うようで全く揃わない二人の足音のみが、延々と響く。


昨日もそう言えば、同じような状況だった。違うのは俺の前にいるのが長身の男か、俺と同い年の女子なのかの違いだけだ。

いや、同い年ではないのだっけか。俺よりもずっと前から生きている───つまり


「婆さん…?」

「なに」


ぎゅるん、と、かなりの速さで菊原の首が回る。初めて明確な殺意を、彼女から感じた気がする。


「さっき、なんて言った?」


ちょうど街灯が前にあり、逆光で彼女の表情を隠す。きらり、と赤っぽい瞳だけが顔に浮かんでいた。

やばい、地雷を踏んだ、と感じた、俺と菊原との間がびりびりと揺れる。

指一本、動けば俺は瞬時に身構えていただろう。昨日と違うのは、10:0で俺が悪いということだ。


「って」


ふっ、と菊原から軽やかな吐息が漏れる。緊張感が、解けて消える。

あっっははははは、と甲高い声が辺りに響く。周りは田園、民家すらないのだから。


「本当にビビってんじゃん!なに?私がそんな、年寄り呼ばわりくらいでキレるとでも!?」

キャハハ、と身を捩らせて笑う。じゃあさっきの殺気はなんなんだよ。あとビンタ。忘れてねぇからな。

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