千佳山千嗣、もしくはちーたん


俺が通されたのは、受付のような玄関、ではなく、その奥にある居間。畳が敷いてあり、テレビがあり、冷蔵庫の横にはキッチンもある。見かけは全く一般家庭のそれであった。


先に奥に引っ込んでいた男が戻ってきた。


「菊原はどうした」

「寝かせてきた。彼女も疲れてるだろうと思ってね」


死んでいるヤツに疲れているも何もないだろう。もう、この異常な空気に慣れてしまった自分に呆れる。冷蔵庫に人間が貯蔵してあっても何も驚かないだろう。


「ごめんね、今日は。色々と驚かせた」


男は深々と頭を下げた。先ほどまでの軽い口調でなく、謝罪の念がこもっている。空っぽでなく、重みのある言葉。


「さて、君にはどこから話すべき、かな」

「なら、まずはお前のことから教えてくれ。俺はお前の名前も知らないんだよ」


そう、未だコイツの正体が掴めないのだ。名前もわからない、と言うのは大きな点だ。誠意を見せるつもりならば、名乗るくらいはしてほしいのだが


「おや、それは失礼した。まだ名乗ってなかったのか」


困った子だねぇ私も、と他人事のように呟き


「じゃあ改めて…私の名前は千佳山千嗣。ちーたんと呼んでくれ」

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