伽藍堂、住むにはどうにも不都合だ


涼しい顔で言い放つ。しかし見られても、と言うのは本当だろうか。この季節に着流の、しかも丸いサングラスだぞ?その辺りを歩いていても神経質な人は通報するだろう。

それが民家に入ってきているならば尚更なはずだ。嘘を吐いているようには見えないが、本当のことを言っているようにも見えない。言葉の全てに重みがない。しかし伽藍堂だとは言い切れない、どこか不気味さすら孕んでいる。


「君さ、もしかしてとんでもなくシツレイなこと考えてるだろ」


こんなふうにこちらの心境をやけに読んでくるのも気持ち悪い。



気づけば、湿った空気が辺りを満たしている。決して町の匂いではない。もっと青臭くて、虫や、獣、いろんな生物と、腐乱した植物との匂いの混じったもの。

どうやらこればかりは本当であったらしい。


やはり、この男は読めない。


「ほら、あそこが私の家だ」


彼の指差した先には、古ぼけた、少し大きな掘建小屋がひとつ。地面に刺さって立っている柱はいかにも腐っていて、正直後何年、あと何ヶ月持つかすら疑わしい。


壁の部分の木材も悲惨なものだ。所々崩れ、この季節は隙間風が辛そうだ。

屋根も───いや、もう言うのはやめておこう。とにかく、住むにはこれ以上なく不適切である、ということがわかる。

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