罪の水圧


どう考えても真剣ではない。男の真意を測りあぐねていると、ふたつめ、と中指を折る


「泣き寝入り。私はこのまま去り、君は…いや、ここまで証拠を残したんじゃあこの町に居られないね。始発でここを脱出。めでたく逃亡生活だ。まるでどっかの映画みたいだね。大体なんとも言えないエンドになるけど」


ふざけている、のか。どこまでも読み切れない男に俺が業を煮やしていると、みっつめ、と、彼が最後に残った人差し指を折る。


不意に、男の雰囲気が変わった


「君を殺すか」


笑顔は残っている。しかしおどけた口調は、その痕跡すら残さずに。口調のみで、全く人が変わったかのようだった。


「困った子だったけど。言った通り家族でね。どうも、他の奴に任せるのは釈然としない。無罪放免なんて以ての外」


ランタンが倒れる。彼の表情が、また闇に包まれる。


「見たところ、心臓をやられてるっぽいんだよね。………可哀想に。痛かったろう。最悪でもこいつには」


同じ目に、ね。


白い手が伸びてくる。俺は今更、罪を自覚した。冷めた頭はもうどこにも無い。真っ黒な罪の海に溺れ、水圧で息の詰まっている俺だけがそこにいて───


手は、ランタンを掴んだ。

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