禁忌、それは、血の味とともに

ああ、そっか、聞こえてないのか、なら、言ってもいいかな。


「天見くん、そうだね、あの時は君のこと、あんなふうにフっちゃったけど」


一歩、前に出る。


「今なら言える。君は、私の運命の人だって。君がああやって、私に告白しなければ、そして私に殺されなければ、君の秘めた、その才能に気づくこともなかった」


昨夜、彼女はある罪を犯した。それは何よりも彼女の忌避していた───殺人。

化け物として、決して彼女が破るまいとしていた禁忌。

それはあるひとつの恋心が起因となり、そして結果として、想い人のせいで、その未来を失った。


そして、その化け物──菊原桐李はその罪を償わずに、あるイカサマをした。この世の理に反する、許されざるイカサマを。

彼女の呪われた血は、彼の舌を伝い、そして体内に染み込む。


それは死した肉体に、魂を繋ぎ止める外法。菊原桐李の眷属として、新たな化け物として、彼はこの世で輪廻の輪を潜った。人としての生と、その淡い恋心を主である少女に奪われて。



何かをするつもりである、と本能的に感じた、天見が飛びかかってくる。桐李は避けることも、防ぐこともしない。心臓を抉るその一撃を、甘んじて受けた。


その漆黒の爪は確かに、こちらの胸板を貫き、肋骨を砕き、そして心臓までも達した。

喉から血が込み上げてくる。堪えられず、口の端から鮮血が溢れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る