ファム・ファタール
もはや痛みはない。しかし人体に明らかなダメージを負っていることは言いようのない事実。普段の、再生能力が十全な桐李にとっても決して小さくはない。
だがなおも桐李は立ち続ける。そして血をこぼしても、未だその口角は上がり続けたままであった。
いい、この状況が、いい。
それは声になったのか、彼女自身にもわからなかった。しかし右手で、天見の肩を掴む。拳を握るよりも強く、指が肩に刺さるほどに。麻痺が収まり、段々と激しい痛みが肉体を襲うが、その力は一切衰えない。
「痛みなんてね、天見くん」
しかし声は安らかに。まるで───恋人に言い聞かせるように。
「体の痛みなんて、どうにでもなるんだよ、天見くん。確かに君は強いし、今、私は泣きそうなくらいに痛いんだ。許すなら、赤ちゃんくらい、大きな声で喚けるくらい」
そして、彼女はひとつのリミッターを外す。戦闘時にすら出さなかった、不死なる彼女に溜め込まれたその力を、その左腕に漲らせる。傷だらけのそれからは、彩光が迸っていた。
「だけど、どうでもいい。本当に、どうでも、どうでもいい」
その左手は、彼の背に触れた。指先と彼との接触点は、絵の具のような液体が滴り落ちる。
緩く抱きしめる姿勢で、彼女は続けた。
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