血爪

「これはこれは…」

厄介ね、と溢す。どちらにも敗走はない。こちらが逃げればあちらは殺すまでこちらを追うだろう。あちらはこちらを殺すまで逃げないだろう。


尚且つあちらに傷はなく、こちらはいくつかの出血がある。首を撫ぜれば、手のひらが粘度のある赤にべったり染まった。


普通に考えれば負け濃厚。ともすればデッドエンド。


あちらが動く。こちらの対応は遅れもしなかった。腕で急所を守った。

はずなのに、瞬きを置いて、額から血が噴き出た。遅れてきた衝撃に、数歩だけ蹌踉めく。


黒いセーラー服、そしてスカートは血を吸ってすっかり重くなっていた。それらを絞れば、ぽたぽたと、ほんの数滴のみが自分の指指を伝って地に落ちた。ざらざらとした感触から、その多くがすっかり乾いたことがわかった。


前髪がちくちくする。どうやら髪にも染み込み、そして乾いているらしい。


「血ってさ、案外取れにくいんだよ?結構固まりやすくて、水混ぜたらなんかぬるぬるするし…

聞いてる?君に言ってるんだけど」


いや、聞いてるわけないでしょ、と苦笑する。

闇に溶け込んだ彼は、その紅い目のみを血走らせてこちらを見据えている。

次の一撃は、私の命を刈り取るものになるだろう。

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