ジレンマ、衝突、そして
俺の頭上から、菊原桐李という化け物の声がする。笑っているのか、それとも憐れんでいるのか。わからない。ただ確かなことは、俺はコイツにとってあまりに無力で、そしてコイツにとって、俺は被食者に等しい存在ということ。指先ひとつ、否、コイツの神経の細動のみで、俺の死は確定するのだ。
どうやったら生き残れる?どうすれば、何を言えば。いや、もう生き残るなんて次元の話なのか?
何で、俺がこんな目に遭わなくてはならないのだろう。これはきっと、思いがけない災難に直面した多くの人間が思うことだ。
運が悪かったのかもしれない。誰かの悪意があったのかもしれない。もしかしたらこの世に神がいて、その御心とやらのせいなのかもしれない。
ならば、人はその災いの意のままになるしかないのか?その手中で、その顔色を伺うことでしか、弱い人間は生きられないのか?
きっとそうなのだ。だからこそ、悲劇というものは生まれる。
だけど、俺はそうでありたくない。降りかかる火の粉も、落ちる雷すら、その全てを振り切りたい。どうかその理不尽を全部、全部打ち滅ぼしてしまいたい。
ごろり、と俺は仰向けになる。ちょうど彼女が拳を振り上げたところだ。辺りは暗くなり、その表情すら俺は拝めない。
そして、彼女が拳を振り下ろす。先ほどと同じ、構えも何もない、ただの力の衝突が俺に迫る。
ああ、これだ。俺は“これ”が
世界で一番、嫌いだ。
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