衝撃、そして土の味

ならば───俺は落ちた枝を拾う。冬でも身の詰まった、ある程度の重量感のある健康な枝だ。


俺は右手に枝を構え、走らずに、動きを読まれぬようゆっくりと歩く。枝は90センチくらい。まぁまぁ間合いはとれる。


半径10メートルほどに迫った時、俺は一歩を大きく踏み出した。懐に潜り、薙ぎ払うように、枝を振った。ヤツはノーガード。両手をぶら下げている。


無論これがヒットするとは思っていない。俺の予想通り、乾いた音と共に枝が粉砕された。少し腕を振った程度にしか見えなかった。


しかしこれが俺の狙い。更に懐に潜り込む。そして一瞬だけスペースの空いた鎖骨に向かって肘鉄を叩き込む。


「やるね」


しかし───肘を拳で打ち返される。こちらは飛び上がるような動きを伴ったはずだ。しかし構えも何もない、ただの振り下ろされた拳に、俺の上半身は叩きつけられる。


俺の咽頭から、空気の塊が吐き出された。肺を強く打ち、呼吸が止まる。立ち上がろうにも、先程打ち返された腕はびくともしない。骨がやられたらしいことは分かった。

土の匂いと、ざらりとした感覚が俺の頬に感じられた。


畜生、と俺は声にならない声を吐き出した。死ぬ、と初めて心から思った。


「あら、やり過ぎちゃったね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る