キッキング・キッキング

女に手を出すのは憚られるが、一発なら、俺が受けた仕打ちに比べれば、一発程度なら許されるだろう。


俺は姿勢を取り直す。両足で踏ん張れるように、そして拳を顔の前で握る。



「やーっとやる気になってくれたね。じゃ」


やろっか。その言葉がゴング代わりだった。俺は先程まで一方的にボコられていたとは思えないほどに軽やかに、地面を蹴って駆け出した。一陣の風と同じか、それよりも速く。

その勢いのままに、俺はソイツに向かって拳を突き出した。


傷だらけになった拳がソイツの眼前に迫る───決まった、と確信した時だった。

微笑みながら、ソイツが俺の視界から消える。予備動作もないそれに、俺の思考は一瞬だけ止まった。


俺は無意識に、体を丸めて攻撃を防御の姿勢に入る。そして一秒もない、瞬きに横から強い衝撃が俺を襲った。


腕越しに頭に響く、横向きの力。蹴られたのだ、と分かったのは背中から桜の木に衝突した時だった。そうダメージにならなかったのは、丸めた姿勢が衝撃を逃したからだろう。


俺はまた立ち上がる。先程の蹴りは回避のための動きをそのまま蹴りに生かしたものだ。恐らく同じように正面から攻撃しても、またカウンターを食らうのみ。

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