夕焼け小焼け、そして化け物

彼女の口角が上がる。美少女と言うにふさわしい、あどけなく、しかしどこか艶やかさまで感じさせるような表情。


やっぱり?やっぱりってなんだ。まるで───まるでこうなることを、俺が昨日の記憶を失ったことを知っていたような口ぶりじゃないか。


「何か、知ってるのか?なぁ」


彼女は笑顔のまま、こちらを見つめている。まるで小動物が喚くのを憐れんでいるかのようにも見えた。

俺はつかつかと彼女の目の前まで近づく。


「おい答えろよ。おい!」

声を荒げたのは怒りからであると信じたかった。湧き上がる恐怖心を誤魔化すためではないと。


先生は来ない。もしかしてこれもまた、コイツの仕組んだことなのか?気づいた時、ぞわりと背中が粟だった。

美しい笑顔も、まるで妖の化けの皮にしか見えない。


思わずその肩を掴もうとしたとき、俺の目線が10センチほど持ち上がった。喉が締め上げられるような感覚で、俺は胸ぐらを掴まれ、そして吊り下げられていることを理解する。


彼女のどこにそんな筋力があるのか。今にでも折れてしまいそうな、その白くて細い腕に。

色素の薄く、セピア色のようなその2つの大きな瞳が俺を見つめている。笑みを崩さぬまま、彼女は───菊原桐李という化け物は言った。


「ダメだなぁ天見くん。女の子と喋ってるのにそんな情けない顔じゃあ。そんなんじゃ」


どんなに好きでも振り向いてもらえないよ?

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