うわさ話

「昨日学校の近くの、ほら、あのつぶれた工場で火事があっただろ?それがその、放火だったらしいんだわ」

それに───と、徐にツネアキはきょろきょろと辺りを見回す。教室にはまだまだ生徒が多かった。人のいないベランダに移動し、ほら、あそこだよ、とツネアキが指差した方を見れば、確かに見慣れていた建物が黒く焦げ、屋根に点々と穴が空いている。


「それに、どうやらヤクザが関わってたんだとよ」

目を凝らせば、確かに忙しなく警察が動いている。黒と黄色の規制線が、田園風景にはやけに不自然に見えた。


ま、全部噂なんだけどな。と、教室に入り、ツネアキと俺は荷物を持った。


早く行こうぜ、と玄関に早歩きするツネアキを追おうと俺も足を早めた。しかしそのときであった。

聞きなれたメロディが鳴る。校内放送だ。


“1年3組、天見あまみナノヤくん、校内にいましたら、二階、化学室まで来てください。繰り返します───”


俺の名前が呼ばれた。もしかすると、学校に入って初めてかもしれない。これといった問題も、多くの人に誉められるようなこともしてこなかったから。


「おう、ごめんな、さっき放送で呼ばれたから」

マジか、と軽く落胆するツネアキに、重ねてごめん、とこちらも軽く手のひらを合わせる

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