うわの空
俺は一日を上の空で過ごした。数学の問題は間違えまくり、国語の朗読では漢字を何度も何度も噛んだ。英文は全く頭に入ってこない。教師からは何か叱責を受けた気もするが、あまり覚えていない。
記憶喪失への疑念だけが、俺の心中を支配していた。
「なぁ、今日マジで大丈夫か?先生も半分呆れてたぞ?」
相当、俺のことを気にかけていたのだろう。ツネアキはホームルームが終わるとすぐに俺に声を掛けてきた。
別に大丈夫だから、と俺は言った。実際、件の記憶喪失のせいでそんなことは屁にも思っていなかった。
ツネアキは俺の肩を叩いて「まぁ、元気出せや」と言う。そして
「それよりもさ、今日マック行かね?アプリでクーポンもらってたんだわ」
「は?お前部活、サッカー大丈夫なのかよ」
そう、コイツは一年生にしてサッカー部のレギュラーである。なんとも名のある学校にお誘いが来たらしいのだが───「いやうち、お袋と二人暮らしなんで。お誘いは嬉しいんっすけどね」と断った。
実力のみを見ればコイツはチームの中でもトップであるとのことだった。そんな奴が俺と飯を食うために休むなんて許されるはずがあるまい。
「お前放送聞いてなかったか?今日も部活中止だってよ」
マジか。今日“も”、ということは昨日もだったらしい。そこを深掘りするのはやめておいた。また微妙な空気になるだろう。
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