それは空の赤い日だった【裏】

はあくびに大きく口を開けながら、階段を登る。窓からは夕焼けが差し込み、私の頬を朱く照らす。

いつもは生徒のひとりふたりとすれ違うものだが…今日はどうやら、部活動中止の日らしい。学校に残って勉強する奴もいてもいいと思うのだが…そういう人間は大体塾の自習室なんかに行っているのだろう。学校で教師に質問するよりも、そちらの方がよっぽど効率がいいとも聞いたことがある。


まぁ、なんにせよ自分にとって好都合なのは変わらない。これなら日課を迅速に終えられそうである。まぁ、まさか学校に残って、自分に直接告白する人間がいるなんて予想外であったが。最近の子はLINEやらで済ませるのではないのか。

それについても、完全な予想外、ではない。正直、自分はだいぶ顔のいい方だと思っている。

都会の街を歩けばスカウトされてもおかしくはないくらい。


だからこそ目立たぬように色んな策を講じてきたのだが───


「いやぁ、まさかあんな初々しく告白してくるなんてまぁ!いいもんを見たいいもんを見た!」


そんな気分じゃない、なんて素っ気ない言葉なんかじゃなく、もう少し丁寧に断ればよかったなぁ。


なんて一抹の後悔。青春っていうのはこういうほろ苦さあってなのだろう───柄でもなくそう思った。


立ち入り禁止の柵を跨ぎ、屋上に繋がる唯一のドアには仰々しい鎖が結ばれている。前は乱暴にちぎったからもっと強固なのを使うことにしたんだろう。こういうのってプロレスラーが首に掛けてるやつじゃないの?


ため息をついて、私はそれをまた引きちぎる。鎖って大体いくらぐらいするんだろ。


屋上に出れば、夕焼けに照らされ、朱色に染まった街が見える。冬の、澄み切った空は、私の思う中で最も美しいものだ。


ふわぁ、と私はまたあくびに口を開ける。昨夜少々夜更かしをしてしまったからか。もう少ししゃっきりとこの瞬間を迎えたかったなぁ。


目を閉じれば、瞼の裏に先ほどの男子が浮かぶ。顔を真っ赤にして───そう、この夕焼けのように──『菊原桐李、お前が好きだ』なんて。


荒削りだけど、この世のどんな言葉よりも誠意のある言葉。ふふ、とついついにやけてしまう。


いいじゃん、恋するって。



「恋せよ若人!世界は、君のために開いている!!」


誰がいるわけでもないのに、私は朗々と叫んだ。うん、スッキリした。

私は柵を乗り越える。背中からは澄み切った風。


今日こそは、うまく死ねたらいいなぁ


とん、と軽くステップするように、私は背中を地面に向けて、風に乗った。

目を瞑り、いずれ来たるその瞬間に期待して。


だが、その願いは思いもよらぬ、そして私が最も望まぬ要因によって阻まれることになったのだった。

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