飛び降りるなら、別の場所でお願いします。

 

飛び降りるなら、別の場所でお願いします。

上司「なんであの子を止めなかったんだ?」


部下「だって、ああいう人は止めたところで、場所や方法を変えて自殺しますよ。そんな人止める必要ないじゃないですか」


上司「じゃあ、君はどうして柵を乗り越えてまであの子を追いかけたんだ」


部下「警備員が棒立ちしてるわけにもいきませんしね。それと、確認してたんですよ」


上司「確認?何の確認だ?」


部下「下に人がいないかの確認です」


上司「で、いなかったから止めなかったのか」


部下「はい、そうです。これで二次被害は防げました。巻き添えになる人もいなかったし、現場を見て、PTSDになる人もいなかった。本当に良かったです」


上司「何が良かった、だ。いいわけないだろう。人が一人死んでるんだぞ。それも君のせいで」


部下「馬鹿な自殺志願者がただ自殺しただけの話じゃないですか。それを僕のせいにしないでくださいよ」


上司「でも、それが君の仕事じゃないか。自殺志願者に君がどんな感情を持っていようが関係ない。屋上の警備をする。それが君の使命だった。しかし、君はそれを放棄した。だから、今日で君はクビだ」


部下「クビの理由は、自殺志願者を止めず見殺しにしたことですか?」


上司「いや違う。このビルを事故物件にしてしまったことだよ」


部下「どっちも似たようなもんじゃないですか」


上司「根本的に違うよ。僕にとって大切なものは、このビルの物質的価値であって、人の命じゃない。僕の言いたいことわかるかい?」


部下「今の発言でよくわかりました。佐藤さん、僕よりクズですね」


上司「君もビルのオーナーになったら、僕の気持ちが痛いほどよくわかるよ。はぁ、もう本当に。飛び降りて死ぬんだったら、東尋坊にでも行って死ねよ、マジで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛び降りるなら、別の場所でお願いします。   @hanashiro_himeka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ