第8話 白い本の正体と....。

 家に帰って、しばらくして峰から電話が掛かって来た。

「陽菜ちゃんと友達になれた!!」

 電話に出るなり、大きな声で話すからびっくりしたが、とりあえず俺は峰を電話越しだが「落ち着け」といい、ようやく事の経緯を知った。

「...そうか、よかったな」

「....うん。.....でも、ちょっと悔しいかも」

「悔しい?なんでだ?」

 峰は少しの間を開けてからこう言った。

「だって......。あの事で私がどんなに悩んだのかも知らないで、こんなにもあっさりと知られちゃったんだもん。......それにいじられたし.......。」

「え?なんだって?最後の方聞えなかった」

「いや。なんでもない。それより―――」

 峰の声を遮るかのように玄関のドアが開く音がした。父だろう。

「峰、ごめん。父さんが帰ってきたから、後でな」

 そう言うと峰は「あぁ、また」とだけ言って電話を切った。峰の話も気になるが、俺は父に見つかる前に“あの本”を部屋に持ち込まないといけない。

 これより 第一回「父に見つからずに本を持ち込む作戦」を開始する。

これは少し遡った後の話だ。

 学校の帰り道、古本屋に立ち寄った。どうやら、もう少ししたら内閣の偉い人が来て、教育関係以外の全ての本を押収するという通知が来ていたらしく、本に興味が無い俺が来た理由はただ一つ、ここに本居が来ると確信していたからだ。......だが、30分くらいまっても来なかった。

 これは待ってる間に話好きの店主が話してくれたこと。そして、諦めて帰ろうとしたら店主が欲しい本があったらあげるよと言って、俺は偶然見つけたのだ。昔、母がよく読んでいたあの白い本に、それは古本と呼ぶには新しすぎて、新本のようにきれいな白色、母の血が付いて一度は赤くなったあの本とは、一緒だが違う。

 俺はこの本の正体を知っている。この本のおかげで、俺は幼馴染の陽菜を救えた。

だけど、その前の本の内容、もしもあれが本当なら.......。

 そんなことを考えていると店主が「それが欲しいんじゃろ。持って行きなさい。その方が、この本も嬉しいだろう」と言い、丁寧にカバーを付けてくれて、紙袋の中に入れてくれた。しかし、一冊にしては重いなと思い、見てみると、数冊の本が袋の中に入ってた。

「最初で最後の特大サービスじゃよ。どのみち処分されるんじゃから、持って行きなさい」

 半ば強制的に受け取り、今に至る。

 いつも鞄を玄関の隅に置いているから、勉強の教材を持って行くという口実でこっそり持って行こう。そうすれば、怪しまれない。

 そう思って俺は部屋を出た。

一方、さっきよりも更に遡った本居は家に帰る最中だった。

 いつものように本を読んでいた。いつもの古本屋に寄って、店の店主からなんと無料でたくさんの本を貰った。幸せだ。

 聞けば、例の措置でもうすぐほとんどの本が亡くなるのだとか。俺はそのお陰でたくさんの本を貰えた。

 両手いっぱいに紙袋を抱えて、歩いている。

「お?それ本か?」

 ふと一人の男が話しかけてきた。俺は面倒だからそれを無視した。だが腕を掴まれて、紙袋を奪われた。

「やっぱり本だな。......お前さん、災難だな」

 すると、その男は残りの全ての本が入った大きな紙袋を奪った。

「っ.....返せ!!」

 奪われた紙袋に手を伸ばした。だが腹に強烈な蹴りを入れられ、俺は地面に腹を抱えてうずくまる。

「悪いな。お前も知ってるだろ?特別措置があるから、これは返せない」

「....その本をどうするつもりだ!」

 その男は当然だとでもいうような顔で「もちろん。燃やすさ」といい、歩き始める。

 俺は最後の力を振り絞って、最初に取られた紙袋をとって、全力で逃げた。

 後ろから「まあ、いいか」と言う声が聞こえて、少しの安心して涙が出て、もう走らなくてもいいのに、走って、走って、小さな紙袋に入った数冊の本を取られないように必死に走って、家に着いた。

 そして、紙袋の中の本を一冊一冊丁寧に取り出して、カバーを外す。

 入っていたのは店主が俺におすすめと言って渡してくれた数冊の本だった。

 大きい方の紙袋には俺が選んだ本が入っていたのだ。

 だけど、この時の俺はそんなのどうでも良かった。今、目の前にある数冊の本にこそ価値があるんだ。

 取り出した本をまた紙袋に戻して、部屋に持っていった。

 涙は一向に収まらない。帰ってきたらきっと親が心配するだろうから、後で廊下を雑巾で拭かないといけないなと思い。本を読んでいる。

 店主からもらった本はどうやら新刊らしい。作者を見たが、覚えていないだけかもしれないが、その名前に見覚えが無いからだ。俺は読んだ作者のペンネームをしっかりと覚えているつもりだ。

 きっとこの作者も不幸だろうな。今や自分が必死に書いた小説や漫画が、誰にも読まれずに死んでいくのだから。

 元々の政府の活躍について、興味は無かった。また、いつものようにある程度の反対意見がある中で、いつものようにそれを実施して、国民の信頼なんて得られるはずもないのに、あれやこれやと考えて、それを実行する。

 政府は国民の嫌われ者を担っているのだ。どんなに真面目に、それこそ汚職なんて縁もゆかりもないやつが議員でも、国民がそもそも期待していないから、上下関係があるから、理由なんて挙げれば無限に出てくる。そうして、いつしか自分の意見なんて通るはずがないというそんな考えに陥って、努力することを忘れる。そして、こんな事になっても誰一人として声をあげて抵抗しない。みんなどこかで分かっているはずなのに、誰一人として「こんなのはおかしい」と指摘すらしない。

 毎日、俺みたいな愛読者が悲惨な現実を突きつけられて、それを誰一人として手を差し伸べないんだ。

 見方を変えれば...。こう考えれば...。そんなことを言う奴らに俺はこう言いたい。

いつからこんな他人行儀な考えが広まった?

いつから別の視点から見て考えてみようなんて風習ができた?

いつから、こんなにも悲しいことが起きるようになった?

 「──政府なんて...。大嫌いだ」

今日、この日。初めて政府への嫌悪を抱いた。

泣きながら、机に突っ伏して、じんわりと痛みを発する右の脇腹のことなんて、今はどうでもよかった。...ただ、あの男に奪われた本の結末を知ってしまったから、こんなにも悲しいのだ。

「―もちろん。燃やすさ」

名前も知らない男の声が頭をよぎって、店主から厚意で貰った本を奪われて、手元に残ったのはその中でも数冊の本。 どうすることも出来ない悔しさをこれでもかと言うくらいに歯ぎしりしながら、惨めに泣くこと数分。泣きながら読んでいた本の最初のページにしみがたくさん出来ていた。

その本にしおりを挟んで机に置いた。(とりあえず...掃除しよう)俺はそう思って部屋を出た。

一方、その頃

「──久しぶりに会えたのに...。残念じゃのぅ」

そういうのは店の店主...なのだが。

「大きくなったのぅ。...正義」

久しぶりに会えた"孫"に喜びを感じつつ、私は白い本を読む。

本来、これはこの世にあってはならないものなのだが、存在を消す前に"死んでしまった"から消せなくなった。

だから、その存在自体を捻じ曲げて、存在しても良いようにした。

結局、いろんなところから怒られて、こうして度々、この本の"作者"として、この本を一応監視の名目で、特別にこの人間世界に来ている。...のだが

「ふむ。...そうか。こうなるのか」

本にはこう書かれていた。

君の孫は...●●を——して、———————。

ほとんどが欠けているその文字は事象が確定してないからか....それとも.....。

「あぁ、時間か」

自分の周りに光が集まる。...次は、いつ来れるか、この私にすら分からない。...だけど、少し気がかりがあった。

彼以外にもあと3人、彼とこれから深い関わりになるであろう人物の未来が書いてあった。

1人目は女の子だろうか、こう書かれていた。

彼女はまだ、初恋に気がつかないだろう

なかなか面白い。初恋に気がつかない人物とは、いったいどんな子なのだろうか。

2人目はまた女の子だろう。その子は...あまり、分からなかった。確か、内容は...。

この世で最も本が好きな男の子に恋をする。

彼に関わる人物なのに、他の男の子に恋をするなんて、いったいどの子なんだろうと思ったが、次の内容を読むまで、それは確かに最も興味を持ったのは確かなのに、これを読んでから私は久方ぶりの恐怖を感じた。

性別も、年齢も分からない。ただ、ひとつだけ、言えたのは...。

それは、異常と呼べるほどの内容だった。

これが最後のページに書かれていた。

母を亡くし、父を殺した者は...幸せだろう。

これを、見てから、何かがおかしい。まるで、これが、何者かによって、仕組まれた捏造の未来のように感じて、寒気がする。

だから、時間が来た時、私は助かったと、安堵するくらいにまで、恐怖を感じていた。

せっかくだから、これから起こる彼の出来事を、戻っても見れるようにしておこう。

そうすれば、この違和感の原因を見つけることができるだろうから。

「楽しみじゃのぅ」

久方ぶり、そう、とてもとても長い長い久方ぶりの高揚感を感じたながら、意識を手放した。


「おやっさん、しばらくここにいてもいいか?」

誰かが、私を呼ぶ。見ると、そこにはいつもの常連の客と同じ服装をした若い男が立っていた。

同じ高校の生徒だろうか。とりあえず「いいよ」とだけ言って、私は、今日も本の整理等をする。...何故か、今朝からのことを思い出せないが、歳のせいだろうと思って、あまり深く考えなかった。

そして、彼が去った。私は、彼に1冊の白い本(それから、私のおすすめの新本)を渡してあげた。これも、なにかの縁だと感じて、これからたくさんの本が処理されることに思うところがあったからかもしれないが、どうせ、これからたくさんの本が失くなるのだから、これが最初で最後だと思い、彼に好きな本を渡したのだ。...だが、何故かこれが最初じゃない気がして、でも思い出せないから、まぁいいかと思ってこれもあまり深く考えなかった。



 

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