第6話過去ほど辛いものはない

 今日も変わらない何気ない日だと思っていた。隣には昨日まで休んでいた峰の姿が私の手元には二つのノートが、それぞれ智也観察日記(小、中)がある。運が悪いことに今日は高校生版を置いてきてしまい、間違えて昔の日記を持ってきてしまった。これは神様のいたずらか?それとも.........。

 夢を見ていた。正確に言えば俺と陽菜と咲の過去だろうか。俺はなぜ陽菜がいじめられたのかを知っている。だからこそ言えない。“峰が言わなければ陽菜(おまえ)は今頃ここにはいない”ことを。そしてあの時の約束を.......。

 私は小学校の頃、ちょっとしたクラスの人気者だった。....でも私にとって、それは邪魔だった。私は静かな方が好きなのに周りの人はくだらないお喋りで騒がしく、大好きな本も読めない日が続いていた。だからなのだろうか、私はいつも陽菜ちゃんを見ていた。

 彼女は一日のほとんどを一人で過ごす。例外と言えば幼馴染の霧崎くんとよく遊んでいたくらい。だから私は幼馴染の霧崎くんにこう聞いた。

 「ねえ、霧崎くん。陽菜さんと仲良くするにはどうすればいいの?」

 小学3年生の頃だったか、今はもうその記憶が曖昧になっている。母がまだ生きていた頃だ。俺はいつものように家に帰ろうとしてた時だった。後ろからどんどん大きくなっている俺を呼ぶ声に足を止め、見ると走ってこっちへ向かっている峰の姿があった。

 「急に...ハァ....ごめんね....ハァハァ」

 息を整えようと必死に頑張っているけど、そんな急には息を整えることはできない。

 「とりあえず。深呼吸して」

 彼女はうつむきながらもうなずく仕草をした。

 「吸って~」「ス—――」「吐いて~」「ハァァァァァァ」

 これをしばらくしてようやく息苦しさが無くなったように見えた。

 「じゃ本題に入ろうか。どうしたの?」

 「うん。実はね。私、陽菜さんと友達になりたいの」

 それなら陽菜に直接言えばいいのに何で俺なんだろう?と素朴な疑問が湧いてきた。

 「なんで俺に?」「よく遊んでるでしょ?」

 確かに陽菜とは昔からよく遊んでいるけど......それは幼馴染の特権なのではとこの時の俺は本気でそう思っていた。

 「ねえ、霧崎くん。陽菜さんと仲良くするにはどうすればいいの?」

 小3の俺には難しすぎた。

 「.......分からない。ごめん......力になれなくて」

 「.....分かった。ごめんね引き留めて」

 彼女は悲しそうな顔をしていた。

 それから私は家に帰り、いつもよりも早く寝た。

 朝、すぐさま教室に行き、陽菜ちゃんを待つ。数分後陽菜ちゃんが来た。

 「陽菜ちゃん。おはよう!」「・・・・」

 ....無視された。

 何?この女?私はこの女を知らない。私は智也しか知らないし話せない。仕方ないので放っておくことにした。

 私は今世紀最大の勇気を振り絞った気がする。...なのに...無視された。....許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せn

 「あ、咲さん。おはよう!!」

 教室にはいつも私の周りにいる女子たちだった。そこで私はつい魔が差してしまった。

 「ねえみんな聞いて欲しいことがあるの」

 やつらは「何?咲さん。なんでも聞くよ」と言って、素直に受け入れてくれた。

 「私.....“川井さんに虐められてたの”」

 ....最近、私に話しかけてきた女子の周りにいる人たちの様子がおかしい。目が合うと必ず睨んでくる。...また私は何かしでかしたのだろうか?授業も終わり、帰ろうとしたら.....。

 「ねえ、川井さん。ちょっと来て」

 やつらがそう言って、私に話しかけてきた。

 私は昔から問題児だった。幼稚園の頃、私は一度腹が立つと相手を殴ったり、蹴ったりしてしまう癖があり、そのせいで何十人も傷つけてきた。そんなある日、幼馴染の智也と喧嘩をした。私はもちろん腹が立ち、智也を殴った。.....でも智也は殴らなかった。むしろ謝ってきた。私は何で殴らなかったの?と聞いた。すると

 「腹が立っても、おまえを殴ることはできない。だって俺の幼馴染だろ?」

 それから私は白い本に出会った。不思議な本だった。本の内容はほとんど読めなかったが不思議と落ち着いてて、それをもっと読みたいと思う自分がいた。

 けれどその本は3ページ目から空白だった。でもそれからはなぜか腹が立っても殴らなくなった。その本の内容は今でも記憶に残っている。


 幼馴染を殴った女の子は、これから様々な経験を積むだろう。と


 やつらに付いていき、開けた場所に出ると、思いっきり殴られた。次に横から蹴りを入れられ、むせる。

 「げっほ、ごほ。」「ねえ川井さん。なんで咲さんを虐めたの?」

 さき?誰だろう。私の記憶にはさきという人物に思い当たる節が無かった。

 「誰よその人。私は知らない!!」「....そう。どうしても認めないのね」

 やつらはその後私に何発か蹴りを入れて、帰っていった。

 その夜、家に帰ってきた母から心配された。

 「あら?どうしたのそのケガ?」

 「....転んだ」

 「気を付けてね」

 今、もしも母に今日の事を伝えたらどうなっていたのか.....想像なんてつくはずがない。私は自身のベッドに潜り、小さくうずくまり、泣いていた。

―なんだろう。この嫌な感じは......私はただ陽菜ちゃんにちょっと痛い目に合わせたかっただけなのに......こんなことになるなんて思っていなかった。

 「咲さん。あいつあなたのこと知らないって言ってたわ」「えぇ」「そうよそうよ」

 うるさい......やっぱり知らなかったか。あの子は多分私に興味ないのだろう。だからもう痛い目に合わすのはやめようと思った。

 「そう、もういいよ。気にしてないから」と言おうとした瞬間。

 「咲さん。私たちに任せて!絶対あいつに目の前で土下座させるから」「えぇ」「そうよそうよ」

 「え......ちょt」

 「そうと決まれば、明日に向けて計画を立てるわよ!!」「えぇ」「そうよそうよ」

........私はそれを止めることが出来なかった。

 その夜、俺は母の本を読んでいた。そこにはこう書かれていた。

 全てを信じることが出来なくなった少年は自らの手で〝父親を殺すだろう″と。その先は何も無かった。

 そして次のページを開くとそこには、いじめを受けている幼馴染を君は助けないだろう。という意味が分からなかった。

 .....陽菜が......いじめに?

 これは偶然、そう思っただけだった。それ以降、俺はその本を再度読むことが出来なかった。そして、俺は知らなかった。〝陽菜がいじめにあっていることに″。

 次の日、私はトイレにいると、勢いよく水をかけられた。そして三人の笑い声、もう分かっていた。私はそれでもいいと思った。退屈でいつも本を読んでいる私にとって、それは一種の娯楽かもしれないと思ってしまう自分にどうしていいのか分からず一人、静かに、誰もいないところで泣いた。

 次の日から彼女らの嫌がらせがひどくなっていった。私はもう止めることが出来ないと悟ってしまった。初めはこんなつもりではなかったのだ。だが今となってその言い訳は通じない。自分があんな嘘をついたばかりにと嘆くばかり、しかし事実、どうしようも無かった。

 次の日、あの本を見てからどうしても陽菜が気になり、すこし見に行くと普通の陽菜だった。ずっと本を読んでいた。だがその本は.........なんだったのか今となっては思い出せないでいた。母が一冊の本を夢中に読むように、陽菜も名前の知らない一冊の本を読んでいた。

 いじめが始まってはや半年が経過した。私はもう限界だと悟った。そこで、両親にしばらく学校を休みたいと言った。案の定理由を求められた。.....でも言えなかった。私はとにかく休ませてほしいとお願いした。両親はある約束を提示した。

「陽菜、休みたいなら休んでいいんだ。陽菜はまだ小学生、高校生とは違ってなにもしなくても卒業できる。でも、何もしなかったらお父さんみたいなやりたい職に就けるか分からない。だから約束しよ?休んでる間家で学校の勉強している範囲をするんだ。分からないことがあったら教えてあげるから、約束できる?」

.......長い、そして無駄が多い。父は何かと長話をするので私からしたら馬の耳に念仏ならぬ私の耳にお経と半ば聞き取れなかったがこの約束をしないと休めないと分かるとすぐに二つ返事で受け入れた。

 彼女らのいじめをそのままにして半年、ある変化が起こった。

 〝陽菜さん″が休んだ。彼女らはすでに私から離れていて今はただ陽菜さんに何をするのかをヒソヒソと話している。

 授業も終わり、帰ろうとすると先生に止められた。

「霧崎くん。このプリントを陽菜さんのとこへ持っててくれる?」

 俺はそこで初めて陽菜が休んだことを知った。

 今日は初めてかもしれない学校を休んだ。風邪とかの体調不良時は休むけど、それ以外の理由で休んだのは初めてかもしれない。ふと家のチャイムが鳴る。母が「はぁ~い」と出てくれた。

 陽菜の家に寄ると、陽菜のお母さんが出てきた。

「あら?智也くん、どうしたの?」

「これ」

 俺は陽菜の担任に頼まれて持ってきたプリントを見せた。

「これを陽菜に渡しといてほしいんです。お願いできますか?」

「えぇ、もちろん!ちゃんと渡しておくわね」

 陽菜のお母さんはそれを受け取って小さな声で言った。

「.....ねぇ、智也くん。......陽菜は.......学校ではどんな様子だった?」

 初めは「?」と首をかしげたが俺はこう言った。

「毎日同じ本を読んでいましたよ」

 陽菜のお母さんは「そう.....ありがとう。.....帰り、気を付けてね」と言い、ドアを閉めた。

 その後.....。

 トントンと丁寧なノックの次に「陽菜~?入るわね~」と優しい声で入って来たうちの母、川井 里子(かわい さとこ)は1枚のプリントを仰ぎながら、

「智也くんがこのプリントを持ってきてくれたわよ~?.......それで......どう?体調の方は?」

「うん、大丈夫!.......だけどまだ学校休みたいの。......良い?母さん」

「分かったわ。明日も学校お休みするって担任の先生に言っておくわね」

 そう言って、母さんはプリントをそっと机に置いて静かに部屋を出てった。

 私は今.......学校を休んでいることに罪悪感を感じていた。両親には虐められていることをまだ話せていなかった。私はただベッドに顔をうずめてじたばたすることしか出来なかった。

 その一方で........。

「ねえねえ?」「何?」「どうした?」

 私はふたりにある提案をした。

「こんなのはどう?」

 二人はこの案に「いいねぇ」「さんせーいっ!」と笑いながらあっさりOKした。

 その案は..............。


 学校を休んで初めての休日、その日に奴らが来た。

 ピンポーンというチャイム。それは10時ちょうどで、追い返すこともできず、お人好しの母は何も疑わず奴らを入れてしまった。

「どう?体調のほうは?」「大丈夫?」「早く治ってね」

 こいつらでなければきっと「ありがとう大丈夫だよ」と言うであろうその言葉を抑え、

「.....ごめんまだ少しだるい」と嘘をつく。

 奴らは「そう」「分かった」「早く治ってね」の次にある紙を渡す。

 それには〝月曜日もしも来なかったら分かっているよね?″という強迫状。

 やつらはそれを渡すとジュースやお菓子を持ってきた母とドアですれ違う形で「もう帰ります」と言って階段を下りていく音とともに出て行った。

「あらぁ?もう帰っちゃうのね。ところで陽菜、いつからあの子たちと仲良くなったの?」

 私はそれを答えない代わりにコップに入っているジュースを飲む。

「母さん。月曜から学校に行く」

 母さんは最初こそ「え?」となっていたが何かを察したのか「分かったわ~」と言って部屋を出て行った。

 涙をなんとかこらえて私は再び地獄に戻ることを決めた。

 月曜日、私は学校へ行った。もう担任の先生にでも相談しようと腹をくくり、昼休み、私は職員室で担任の先生に虐めを受けていると言った。すると、

「分かりました。あとで注意しておくから」と言って私に頭を下げる。

 その後、私は先生に言った事もあり、いつもよりも叩かれる回数や蹴られる回数が多かった。

 やつらはその後笑いながらその場を後にする。私はそこで視線を感じたが......誰もいなかった。

 私は見てしまった。あの人たちが陽菜さんを叩く姿を、蹴る姿を。

 もうどうにもできないなと悟り、私はただひたすら陽菜さんに届くはずのない「ごめんなさい」を何度も言うのであった。

 辛い........まだ痛みが引かない。痛い........また明日もやられるのか.......その後も先生に言っても何も変わらないむしろこう言われた「陽菜さん。あの子たちはやってないというんです。それなのになんであなたはこう何回もやってると言うんですか?」とそれでも先生。こんなのでも一応は先生なのだ。親もちょうど書き入れ時の最中で仕事が忙しくなる時期だった。

 もう私は限界だった。毎日殴られ、蹴られる日々、それなのに何も変わらない。

 そんな時、私はついにやってしまった。

 給食で久しぶりの大好物に奴らが牛乳を入れてきた。そこでもうイラっときて私はやつらの給食をぶちまけた後、言い合いの殴り合いになり、ただひたすら殴っていた。そのときはもう満たされていた。

 陽菜さんがやつらと喧嘩をしている。そしてしばらくして先生が来た。先生はやつらの話を聞いた後陽菜さんの話を聞かずにそのまま𠮟りつけた。

 私はその様子をただ見ることしか出来なかった。

 そして私はこのままじゃまずいと急いである人に頼みに行く。

 (お願い。陽菜ちゃんを助けて!智也くん!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る