第3話 素直になれないツンデレ少女は....

 川井 陽菜(かわい はるな)は父が政治に詳しい専門家で、母は数々の有名な記事を書いてきた記者を持つ、一人娘だった。

 朝、目が覚めると、時刻は7時30分、父さんも母さんも朝早くから仕事に行って、今この家にいるのは私だけだった。

 朝食はいつも母が昼のお弁当と一緒に置いていくお弁当の余ったおかずばかり、今日は卵焼きにウインナー、それとおにぎりが置いてあった。おにぎりの中には私の大好きな鮭が入っている。冷蔵庫の中から冷えた麦茶を出し、コップに注ぎ終わると、おにぎりを一口、また一口とあっという間に食べ、卵焼きとウインナーを手で掴むと、口に入れて、あまり噛まずに飲み込、最後に麦茶を一気飲みした。

 私は幼馴染の智也を家に帰るまで監視している。そうなった理由は......。とそういえば智也もそろそろこの時間くらいに家から出る筈、急がないと!私はすぐに学校に向かう準備を整えると、すぐに家の鍵を閉め、ボロボロの自転車で学校に向かった。

 私と智也が出会ったのは、幼稚園の時だ。その日は入園式、見知らぬ顔が多くて、私は怖くて泣きそうだった。そんな時、隣にいたのが智也だった。智也は私が泣きそうなのを見ると「泣くなよ、お前は笑顔が一番だ」と私に向けて笑いながら言った。

.....と思ったのにまさかの無視!?

 ーそう、私はそれに腹が立って一方的に智也の家に遊びに行ったりした。それ以降、周りの人たちの私を見る目がなんか冷ややかな感じがしたんだけど....まあ気のせいよね。

 学校に着くと智也のいるクラスへ行くと、智也は居なかった。(おかしいわね、この時間ならこのクラスにいるのに)とりあえず、下の自販機に向かう。下の自販機につくと四矢サイダーを飲んでいる。私はわざと来たことがバレない様に装う。

 「あら、こんな所で会うなんて偶然ね」

よし!決まった。我ながら完璧な仕上がりだ。

 「何か用か?」

私はむっとした。何が「何か用か?」よ!私が用が無ければ来るなと言ってるの?私は何か聞きたいことが無いか思考を巡らせる。....あっそうだ!昨日の”あの事”聞けばいいじゃない!さすが私と自画自賛してから

 「用って程じゃないけど....。あんた昨日のことについて何か知ってる?」

あの事とは、昨日急に智也のお父さ....内閣総理大臣が発表したあの変な特別措置、あれはいったい何なのかしら?智也の次に気になるわ。

 「知らないよ」

こおおおおんんんの男!まだ私を怒らせる気なの⁉

 「知らないわけないでしょ!あんたのお父さんが発表したんだから」

 「いや、昨日は父さんが家に帰ってこなかったんだ。だから何も知らないよ」

なるほど、だから知らないのね。私としたことが迂闊だったわ。

 「ふーん。そうなんだ...。じゃわかったら教えなさいよね」

 私はその場を後にした。......ごめんが言えなかった。いざ、口にしようとすると別の言葉を発してしまう、私の悪い癖だ。私は昔から周りに「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えなかった。そのせいか、小学校ではいじめられていた。

 最初はみんな無視をしたり、陰口を叩くだけだった。それがしばらく続いたある日、私はトイレで水をかけられた。かけた本人はいじめを一番先に始めたやつだった。それから、しだいにエスカレートしていき、いよいよ、学校内では収まらないほどにまで悪化していった。先生に言っても平謝りされるだけで、むしろ悪くなる一方だ。お母さんは当時、交通事故についての記事を書く大きな仕事があり、お父さんもまた忙しかった。日ごとに私は死にたいという思いが増していった。

 それから、私は初めてやつらに仕返しをした。今日は私の大好きなわかめの味噌汁だったのに、やつらは牛乳を入れてきた。それについかっとしたわたしはやつらの給食を床にぶちまけてやった。そして殴りあいになった。何発殴ったかは覚えてないが、騒ぎを聞きつけた先生がやってきた。そして、やつらの話を聞いた先生が私の話も聞かずに𠮟りつけた。事情を話そうとしても聞く耳を持たなかった。

 この件は親にも伝えられた。そしてやつらの親に謝罪をしに行くだとか。私はそれが許せなかった。しかし、私はもうあきらめかけていた。先生にも聞いてもらえないのだ。今更親に言っても変わらないだろうと、この時の私はどうかしてたのかもしれない。車に乗せられ、来たのは学校の校長室、しばらくして、相手の親と子供が揃って入ってきた。そして今回の件(私の言い分なし)を伝えられると、両親揃って頭を下げた。仕方ないから私も下げた。すると

「お宅の娘さんはどういった教育をしてるんだ!」

やつらの親の一人が怒鳴ってきた。父さんも母さんも頭を下げたままだった。改めて私がしたことは大変なことなのだと思った。

すると ドンッという音で扉を開けて入ってきたのは智也だった。

「悪いのはあんたらだぞ」

そう言って私とは違う方向を指さした。

「どういう事か教えてもらおうか?」とやつらの親の一人が言ってきた。

「そいつらは陽菜にひどいいじめをしていたんだ!」

どうして知っているんだろう?考える暇もその時には無くて、深く考えなかった。

「なあ、陽菜もなんか言えよ!このままでいいんか?」

「.........ない」

「聞こえないぞ!」

「良くないって言ってんの!だいたい何であんたがここにいるのよ!」

「それより、いままでされたことを言わなくていいのか?」

そうだった。なんで肝心なことを忘れるのよ私のバカ!

 それから私はこれまでされたことを全て言った。いじめを受けていたこと。今日の事、そして、何で言わなかったのか、その他もろもろ全部を言い切った。その時だけ私は素直になれた。

 一通り話し終えると、

「こんなの噓に決まっている。うちの娘がそんなこと.......。」

やつらの親の一人が言うと

「そうだ!どうせ裏で口裏を合わせているんだ!」

「「そうだ!そうだ!」」

...やっぱり、言っても変わらない。

しかし、

「実は、あの時、陽菜さんがなぜこんな事をしたのか聞かずに叱りました」

最大の勇気を振り絞って、私を叱った先生が言った。

「どうやら嘘を言ってないようですね。川井さん、この度はうちの教師が迷惑をおかけしました」

「っ!!申し訳ございませんでした!!」

その後先生が改めて今回の事、そして前からちょくちょくいじめについて相談されていたことなどを話してくれた。

 その後、やつらは退学処分を言い渡された。何年も前からいじめをした児童は退学処分という法律があるため、この処分は当たり前だった。

 それから私は智也に「何でここにいるのよ!」と問い詰めても答えてくれなかった。だから私は智也の監視を始めた。

 教室に戻り、私は智也観察日記に朝の事を書き込むと隣を見る。隣の席には少し前まで登校していた一人のクラスメイトの席がある。彼女の名前は.......。

 突然前のドアが開き、担任が入って来る。

「お前ら、今日から朝読書を無くして簡単なテストを毎日してもらうからよろしく」

突然すぎる。早速テスト配り始めたし......。

 全員に配り終わると担任はどかどかと座り、解き終わるのを待っている。

問1 1+1=? 間違いなく田ね!何の迷いもなく=の後ろに漢字の田を書く。

(こんな簡単なテストなら楽勝ね)

......五分くらいで担任が答えを配った。....あれ?2?なんで?私は戸惑いを隠せなかった。






 

 

 

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