第39話
というわけで、始まりました林間学校!
ここは、学校からそれなりに離れた山奥にある研修センターだ。普段感じている街の喧騒から離れ、自然や命に触れ合う素晴らしい授業である。
俺も自然は嫌いじゃないし、ただ座って話を聞くだけの授業よりよっぽど楽しい。オラわくわくすっぞ!
我が校の林間学校は2泊3日となっており、1日目はまずカレー作りだ。ベタだよね。
クラスの適当な奴らと班を組み、俺は飯盒係となった。
飯盒釜のある場所へリヤカーに薪を運ぶため、俺は薪置き場から適量いただいてリヤカーに積み込んでいる。しかし、そこで見知った顔の女がへこたれていた。
「も、もう駄目⋯⋯!これ以上頑張ったら、わ、私死ぬ⋯⋯!」
「何やってんだ黒崎⋯⋯」
黒崎が薪を運び疲れて倒れ伏していた。筋力も体力も無い黒崎なら当然かもしれないが、ならなんでこいつ飯盒係やってんだよ⋯⋯。
「あ、あら天城くん⋯⋯。ちょ、ちょうど良かったわ。私の代わりに、こ、この薪をリヤカーに詰んで⋯⋯ついでに運んでくれないかしら?」
「全部じゃねーか!」
今にもくたばりそうな黒崎は、震える手で俺の肩を掴みながらそんなことを
俺は黒崎の手を乱暴に払い、うちのぶんの薪をリヤカーに積んでいく。⋯⋯のだが、捨てられた子犬のような顔で、こちらを上目遣いで見てくる黒崎が嫌でも目に入る。
ここで手伝うとチョロいだの童貞だのと煽られる気がするが、とにかく鬱陶しくて仕方ないので幾つか薪を掴んで黒崎のところへ歩く。
「チッ⋯⋯リヤカーに載せるだけだぞ。なんで俺がお前の分まで⋯⋯」
「ふ、ふふっ⋯⋯た、助かったわ⋯⋯!割と本気で⋯⋯!」
どうやら黒崎は、俺を煽る体力も残っていないようだ。マジでどうやって生活してるのか気になる。ここまで生きてこられたのが奇跡なのでは?
ひとしきり俺のリヤカーを積み終え、黒崎が運べるギリギリまで(自己申告)黒崎のリヤカーにも積んでやった。まったく手がかかるやつだ。
俺は黒崎を置いてリヤカーを押すが、ヘトヘトの黒崎が頑張って急いで追いついてきた。なんだこいつ、リヤカー運んで急ぐくらいの体力あんじゃん。
「は、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯なんで一人で行くのよ⋯⋯」
「逆になんで俺がお前待たなきゃいけないんだよ」
「ふ、普通待つでしょ⋯⋯と、友達置いて先に行くかしら?」
⋯⋯なるほどね、黒崎的には友達に置いていかれたみたいな気持ちになったのか。こいつ可愛いとこあんじゃん。
黒崎は特に照れもせずにこんな事を言う。これが他のやつなら、気恥ずかしくて顔のひとつでも赤らめるかもしれないが、そういうワビサビ(?)が無いところが黒崎らしくて少し嬉しい。
顎を前に突き出し、疲労困憊の黒崎はあまり前を見ていなかったのか、それとも俺を追いかけて足元が覚束なかったのか。黒崎が道の小石につまずく。
リヤカーを引きながらコケると、人間がどんな怪我を負うのか想像ができない。俺は最悪のケースを即座に予想し、思わず体が動いた。
「っと⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯助かったわ。大概あなたもベタな展開に持っていくわよね」
「ベタとか言うな、ベタとか」
せっかく助けてやったのに、黒崎の口から出るのは「ベタだ」というよく分からない不満。もうちょい素直に感謝できないんですか、この娘。
黒崎の両肩を支えるように掴んだ手を離し、やや溢れた薪を再度リヤカーに積み込む。残念だが、俺の体はリヤカーを二個運べるようにはなっていないので、先程のようなことがあっても黒崎にリヤカーを引かせる。
再度二人で炊事場までリヤカーを引く。そんなに遠くないのに、こいつと一緒に歩くと自分が亀になったみたいだ。遅すぎんか?
「ふ、ふふふ⋯⋯天城くんも、け、結構なツンデレよね⋯⋯」
「⋯⋯は?」
「さっきのを気にして、私に合わせて⋯⋯は、運んでくれてるんでしょ?はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯へいへい、そうですね〜」
ほんと可愛くねーなコイツ。
■■■■■ あとがき ■■■■■
林間学校編突入です。
あと、今回から不定期更新になります。
よろしくお願いします。
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