第24話
この後、木崎と待ち合わせしてアニメグッズショップに行く予定だったらしい水瀬先輩。歴史資料館と水族館以外何も無いと思っていた文字海だが、アニメショップがあるんだと初めて知った。折角なので、俺もついていくことに。
白澤も誘ったが、今日は用事があるとのことで参加出来なかったらしい。残念である。
なお、兄(姉)は帰宅させている。純粋無垢な木崎相手に、この汚れの塊である兄を会わせる訳にはいかないのだ。間違いなく良くない影響を受けるか、こんな兄を持つ俺が心底軽蔑される。せっかく友達が出来そうなのに、そんな事をする訳には行かない。
水瀬先輩と他愛もない話をすること約10分、改札の向こうから木崎が歩いてくるのが見えた。白のビッグサイズシャツに、黒のオーバーオールを合わせている。木崎は身長が高く脚も長いため、何を着てもモデルのように様になっているな。
「お待たせしましたー!」
「待ってないよん!」
「ごめんな、急に俺も参加しちゃって」
「い、いえ!新しい漫研の仲間ですし⋯⋯は、早く仲良くなりたいから⋯⋯!」
そう言い、胸の前で小さく両手のガッツポーズをとる木崎。今日も可愛いね。
白澤とは同じクラスだしそれなりに接点はあるが、水瀬先輩と木崎はこないだが初対面だ。水瀬先輩は人見知りせず、木崎も人並み程度で助かったな。
「ありがとう。それじゃ水瀬先輩、案内お願いします」
「おう、任された!」
水瀬先輩の指示に従い、俺たちは3人で並んで歩く。俺が話しやすいようにと、俺が真ん中だ。なんか両手に花みたいで良い気分である。
俺は自然と水瀬先輩の歩幅に合わせているが、ちょくちょく身長の高い木崎が先を歩いては慌てて調整している。水瀬先輩小さいからね、仕方ないね。
「そ、そういえば⋯⋯天城くんは、ニート転生読んだんですか?」
「あぁ1巻はとりあえず読んだよ。帰ったら2巻と3巻を一気に見ようかなって感じかな。面白いねあれ」
「わぁ⋯⋯!そ、そうなんですよ!主人公はどうしようもない変態でクズなんですけど、それが色々な人と関わる中でどんどん成長していく姿が良かったり!父親の年齢が前世の主人公よりも若い結果、なんだか頼りなかったり見えて少し序盤はストレスに感じるんですけど、そこからの株価急上昇が凄いんです!女の子も可愛いですよね⋯⋯私は、師匠のロミーちゃんが一番好きなんですけど、アニメでのロミーちゃんの声優さんが、もう完璧すぎて!わぁ、原作の声だ!ってなってですね!」
「うんうん」
「でも他のヒロインもみんな⋯⋯⋯⋯って、す、すみません!つい早口でペラペラと熱く語ってしまって⋯⋯!」
全力で頭を何度も下げる木崎。いやビックリしたけどね?めちゃくちゃ急に早口で喋るんだもん。これが噂の早口オタクというものなのか、と洗礼を受けた気分だった。
謝る木崎を見て、水瀬先輩は大笑いしている。笑ってないで、宥めるのに協力してくださいよぉ、先輩〜。
「いや〜姫華は自分の好きなこととなると、視野がこう!狭くなっちゃうからね〜」
こう!の部分で、両手を目の横に立てて視野を狭めるポーズをとる水瀬先輩。そんな水瀬先輩を見て、木崎はより恥ずかしくなったようだ。
「うう⋯⋯どうせ私は、早口キモオタですよ⋯⋯。コミュ障ですよ、チー牛女ですよ⋯⋯!」
「8割くらい何言ってるか分かんないけど、そんなに自分を卑下せんでも⋯⋯」
ここが外でなければ、体育座りでうずくまりかねないほどの落ち込みようだ。俺は木崎に気を使って肩に手を置いて励ます。ほらー、水瀬先輩がいじるからー。
「ひゃあっ!?」
「おわっ!?な、何どうした!?」
「あっ⋯⋯い、いえ⋯⋯な、な、なんでもないです⋯⋯」
俺が肩に手を置いた途端、飛び上がった木崎。落ち込んだり飛び上がったり、何かと忙しいな。件の木崎は、顔を真っ赤にして俯いていた。
これはあれか⋯⋯あまり男に免疫が無い木崎にとって、俺に触られるというのは飛び上がってしまうほどの衝撃だった、といったところか。良かった、まだビックリしたあと照れてるくらいの可愛いリアクションで。不快感マックスの反応とかだったら割とショック受けてたよ。
「天城くん⋯⋯君みたいな男の子の気軽なボディタッチは、私たち乙女の純情を弄ぶんだよ?」
「そっくりそのまま返しますよ⋯⋯。水瀬先輩の自然な『あーん』は、馬鹿な男どもが一瞬で恋に落ちちゃうんでやめてください」
「えぇっ!?わ、私そんなことしてた!?」
「えぇっ!?水瀬先輩、天城くんに『あーん』したんですか!?」
したのか、してない、したのか、してない⋯⋯木崎と水瀬先輩は、同じ議題でいつまでも平行線の議論を繰り広げていた。本人は無自覚なパターンが一番タチ悪いんだよなぁ⋯⋯。惚れさせたきっかけが意識して無い分、余計に童貞くんのショックは大きい。南無三。
くっくっく、ギリギリ怒られたり悲しまれないラインで揶揄うのは心が踊るなぁ。あまり関係値が無く、明確な上下関係も無く、異性であり今後も付き合いのある二人は、簡単にふざけて信頼を失うわけにはいかない。いかないからこそ、このギリギリ許される程度に揶揄うのが楽しくて仕方ないのだ。こういうところ、あの兄の弟なんだなと感じます。
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