第20話
店員を呼んで4枚の注文用紙を渡す。あ、あの店員曽根山を見て首傾げてる⋯⋯可哀想だから、見えないところでやろうね!そういうのね!
「う、うう⋯⋯天城くぅん⋯⋯!どう考えても今の、僕の見た目を見て不思議に思ってたよねぇ!なんでこんなデブが?みたいな顔だったよねぇ!」
「ソンナコトナイダロ、カンガエスギダヨ」
「棒読み!清々しいまでの!」
ほらぁ、曽根山くん泣いちゃったじゃん!やめたげてよぉ!
「ま、曽根山が痩せればそんなことも思わないだろうぜ。また痩せた時に来て、お前のツッコミを聞けばさっきの店員も驚いて腰抜かすんじゃね?」
「お、おぉ!なんだかまたモチベーションが湧いてきたよ!」
「ラーメン屋の店員に太ってると馬鹿にされましたが、痩せてまた食べに来たら目を輝かせています。〜今更連絡先を教えてと言われてももう遅い!〜、みたいな事だよね!」
「そうそう!今更戻遅!」
なんか白澤と曽根山が意気投合しとる⋯⋯。なにあれ?呪文?
黒崎の方を見ると、黒崎も意味がわからないようで
、見たことないくらい虚無の表情を浮かべていた。うんうん、俺も意味わかんないから安心してくれ。
摩訶不思議な言語を発して盛り上がる白澤を見て、俺はふと思い出したことを口にする。
「そういや、ニート転生の1巻昨日読んだぞ」
「えっ!もう読んだの!?」
「そりゃ、次の火曜までに3巻見なきゃならんのだし。主人公のお父さんクズすぎてマジで笑ったわ、いや主人公の前世もかなりヤバいけど」
「あ〜、そうなんだよねぇ。そこだけ見るとねぇ。うんうん、分かる分かる」
うわぁ、白澤のしたり顔うぜぇ⋯⋯。今後の展開を知ってるからこそ、まだ先を知らない俺の反応を見て楽しんでるんだろうなぁ。手玉に取られてるみたいで腹立つな。
「つーか、全然エロいシーンあるじゃん。なーにが『わ、私はあんまりその⋯⋯え、エッチな奴とかは⋯⋯好きじゃないから、そういうのはよく分かんない⋯⋯』だよ」
「ま、真似して言わないで!それに、ニート転生はそういうのじゃないの。人生なのよ、人生!壮大スペクタクルなの!」
「何その『腹痛が痛い』のルー語みたいなやつ⋯⋯」
ふと曽根山を見ると、曽根山が俺たちの話に入りたそうにソワソワしている。あぁ多分曽根山も見てるんだろうな、ニート転生。あえて無視しよ。
「黒崎は知ってるか?ニート転生〜異世界行ったら覚醒した〜」
「いえ、全然。話から察するに、小説か何かかしら?」
「ライトノベルって奴だな。白澤、俺が見終わったら黒崎にも貸して良いのか?」
「大丈夫だよ!黒崎さんも、ニート転生の沼にハマろう!」
「沼⋯⋯?よく分からないけど、それなら楽しみにしておくわ」
大丈夫だ黒崎、俺も沼って何のことかよく分からんから。
再度曽根山を見ると、次は自分に話が振られるのではとソワソワしていた。あれだろうなぁ、原作全巻持ってる自慢とかしたいんだろうな。確か、曽根山の部屋にあった本棚にニート転生の本があった気がする。
曽根山に自慢され、マウントを取られることが我慢ならなかった俺は、敢えて曽根山をスルーしてニート転生の話を終わらせることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いや〜、美味しかったねラーメン!」
「近所なのに、こんなに美味しいラーメン屋さんがあったこと初めて知ったわ。ありがとう、天城くん」
「気にすんな、あそこのラーメンが美味いだけだから」
美味しくラーメンを食べ終えた俺たちは、ラーメン屋を出て涼んでいた。ラーメン屋は大倉駅の近くに居を構えており、徒歩2分程度の超好立地にあるのだ。
イケメン1人、美少女2人、デブ1人の異色メンツだったが、中々楽しめたのではないだろうか。黒崎も白澤も「ラーメン屋!?私は、イタリアンフルコース以外のディナーを許しません!」みたいな感じじゃなくて良かったわ、ほんと。
「んじゃ、俺は黒崎家まで送ってから帰るけど」
「私、お姉ちゃんが大倉駅の近くで遊んでるらしいから車に乗っけてって貰うよ!黒崎さんも乗せられたら良かったんだけど、お姉ちゃん2人乗りのスポーツカーだから⋯⋯」
「えと⋯⋯ナチュラルに私の家を特定しようとしている天城くんで頭がいっぱいなのだけど⋯⋯。とりあえず、白澤さんありがとう。お気持ちだけで嬉しいわ」
「特定しようとしてねーから。ただここまで来たなら、ついでに送ってった方が良いだろ、ってだけの話だわ。何?俺のこと好きなの?勘違いしてる?」
「はぁ⋯⋯。もう何でも良いわ。じゃあ、家まで送ってってもらいましょうかね」
全てを諦めた表情でため息を吐く黒崎。なんでこいつ、人をストーカーに仕立てあげたいの?自分が可愛いからって、あんま調子乗ってんじゃねーぞ。
あと、白澤ってお姉ちゃんいるんだな⋯⋯。しっかりしているし、勝手に長女だと思っていたぜ。しかも、お姉さんスポーツカー乗っちゃうファンキーな人なんだ。意外。
「僕は普通に電車乗って帰るよ!それじゃあ、皆また来週!」
曽根山はそう言うと、大きく手を振って大倉駅内に消えていった。あばよ、曽根山。もう二度と会うことは無いだろうが、達者でな(ほろり)。
曽根山が帰ってから数分後、イカついマフラーの音が聞こえたと思ったら、めちゃくちゃ格好いい白のスポーツカーに乗ったグラサン美女が現れた。多分あれが白澤のお姉さんなのだろう。
車を降りてこちらに歩いてきているが、とんでもないスタイルだ。ボン!!キュッ!!ボン!!って感じ。脚もモデル並みにスラッと長い。白澤が将来的に、こんなエロいお姉さんに育つのかと思うとクるものがあるな。
「つぐ〜、迎えに来たよ〜。お、君たちがお友達かね?」
「はい、同じ同好会やらせてもらってます天城裕貴です!」
「同じく、同好会メンバーの黒崎花織です。白澤さん⋯⋯鶫さんには、とてもお世話になっています」
「そっかそっか!つぐ〜偉いな〜!お姉ちゃん鼻が高いよ!」
「も、もう!恥ずかしいから早く行こ!じゃあね、黒崎さん!天城くん!気をつけてね〜!」
白澤は白澤姉をグイグイと押し、俺たちから遠ざけながら去っていった。姉妹仲良いんだろうな、微笑ましいぜ。
そんなこんなで曽根山も白澤も居なくなり、俺と黒崎は二人きりになった。
「んじゃ、行くか。さっさと帰ろうぜ」
「そうね。せいぜい私のボディガード任せたわよ、天城くん」
「へいへい」
黒崎の軽口を聞き流しながら、俺は黒崎を促して歩き出した。
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