第21話

 黒崎の横を歩く。女の子らしく歩幅が小さな彼女に合わせて、俺も意図的にゆっくりと歩く。今どき車線側がどうのこうのと言うことを気にするのもどうかと思うが、一応さりげなく車道側を歩くことも忘れない。


 大倉駅の周りはあまり栄えておらず、一般的な住宅街の風景がどこまでも続いている。時折街灯の光が点滅して、ジジジと音を立てる。5月も半ばの頃、少しずつ虫の鳴き声もうるさくなってきた。


 横を歩く黒崎の顔は朗らかだ。どうやら、俺のおすすめラーメンはお気に召したらしい。


「ふっ、美味かっただろ?あそこの味噌ラーメン」


「ええ、悔しいけどとても美味しかったわ。ラーメン屋さんってもっとギトギトしてて、入りづらい雰囲気なのかと思っていたから⋯⋯。天城くんたちと食べられて良かったわ」


「はは、だろ〜?またオススメの飯屋見つけたらオススメしてやるよ」


「どうやら天城くんと食の趣味は合うようだし、楽しみにしておくわ」


 そう言って笑う黒崎は、今まで見てた中で最も楽しそうだ。初めて会った時は泣いていたが、なんだかんだ馴染めて楽しんでるようで良かった。

 黒崎が泣いていた理由は、結局今も知らない。まだ会って1週間程度の関係だし、女の子がないている理由を根掘り葉掘り聞くような趣味もないからな。


「黒崎は5組の連中と仲良くやれてるのか?」


「当たり前でしょ?美少女転校生よ、私。友達もたくさん出来たし、私に惚れちゃった男の子もたくさんいるんだから。大変なくらいよ」


「へいへい⋯⋯そうだったわ、お前見た目だけは絶世の美少女だもんな。心配して損した」


 俺がそう言うと、驚いたような顔でこっちを見る黒崎。なんだよ。


「意外ね⋯⋯。あなたが私のこと心配するなんて」


「お前ら全員、俺のこと悪魔か鬼だと思ってる?」


「あなたの胸に手を当てて聞いてみなさいよ」


 そう言われたので、俺は自分の胸に手を当てる。心拍数、正常。うん、とても健康体だ。


「何も問題ないが」


「はぁ⋯⋯。まぁ良いわ」


 クソデカため息を吐かれるような覚えは無い。なんだその、やれやれって感じの顔。訳分からんが腹立つな。


 頭を軽く振って怒りを消した俺は、黒崎が上手くやれてるか気になった理由を吐露する。


「いやな?どうやら俺は1組で浮いてるらしいんだよ⋯⋯。白澤が言ってた。なんで似たようなお前に友達が出来て、俺には友達ができないんだろうな」


「そういう変なところで鈍かったり、お世辞や嘘が言えなかったり、平気で人の嫌がることが出来たり⋯⋯一言で言えば、社交性が皆無な所じゃない?」


「馬鹿野郎、それ全部俺の良いところだから。チャームポイントだから。こんなオンリーワンなイケメンいるか?いないだろ。アンチ没個性。人生は冒険や!」


「そうやって、いきなり頭の痛くなるような戯言をペラペラ喋るところも、あなたが浮いてる原因だと思うけど⋯⋯」


 うるせーやい!人を社会不適合者の異常者みたいに扱いやがって!黒崎だって見た目が良い事以外、全然何も出来ないポンコツのくせに!ちくせう!


「だいたい、俺鈍くなくない?お前が俺のこと好きなの、もう知ってるぞ?」


「いや好きじゃないから。明後日の方向に敏感すぎて、もはや鈍感と呼べるレベルなのよ、天城くんは」


 なん...だと...?いや、またあれだな。黒崎の照れ隠しだな。ふふ、今は騙されたふりをしてやろう。いつか素直に俺に告白するその日まで待っとくからな。


「どうせ天城くんのことだから、さっきのも私の嘘だと思ってるでしょ?あと、白澤さんも天城くんのことが好きだと勘違いしてる」


「!?な、なぜ分かった⋯⋯!」


「顔に書いてるわよ⋯⋯。私とは別ベクトルで、超一級の馬鹿よね」


「黒崎が馬鹿なのは事実だが、俺まで巻き込むなんて許せん!発言の撤回を求めます、裁判長!」


「天城くんの申告を却下します。判決、天城くんは死刑に処します」


「私情が過ぎますね裁判長!?」


「⋯⋯ぷっ!あははははは!ほ、本当に癪だけど、天城くんのギャグセンスは好きよ、私」


 目に涙を浮かべ、頬を赤く染めながら笑う黒崎の姿にほんの少しだけドキッとした。なんだこいつ、可愛いが服着て歩いてるじゃん⋯⋯。白澤の時も同じ感想だった?うるせえな、ポキャブラリ貧弱人間なんだよ。

 あーズルいズルい。自分が可愛いの自覚しながら、それを最大限に活かしてくるんだもん。ズルいよな〜。俺なんかイケメンすぎて恋愛感情を集めすぎないように、適度に隙を見せて恋心を折る努力をしてるってのにさぁ。

 ⋯⋯いや、してないけどね?ごめんね?嘘つきました。


「人をギャグセンスで推し量るなよ⋯⋯。俺、そんな所で褒められても嬉しくないんですけど?勘違いしないでよね!」


「ハイハイカワイイカワイイ」


「う、うぜぇ⋯⋯」


 黒崎への好感度がジェットコースターな件について。これが今流行りのサウナかな?いつになったら外気浴で整えるんですかね?


 黒崎に憎々しげな顔を向けていると、黒崎が何かに気づいた声を発した。


「わっ、もう家に着いてたわ⋯⋯。天城くんとの話に夢中で、気づかなかったみたい」


「⋯⋯なんか分かったわ、お前がめちゃくちゃモテるの。あんまりそういう事、男にぺらぺら喋らん方が良いぞ。俺くらいのイケメンじゃないと、すぐお前のこと好きになっちゃうって。男って馬鹿なんだから」


「⋯⋯そ、そう?よく分からないけど、気をつけるわ。ありがとう」


 魔性の女って言葉が似合うよ、こいつはホント。こんな台詞、曽根山に言ったら高木を捨てて黒崎に靡いちゃうよアイツ。動機が動機だし。


「んじゃーな。また来週」


「ええ、また来週。今週は楽しかったわ。これからも恋愛斡旋同好会、頑張っていきましょうね」


「おう。まずは曽根山のダイエットを成功させるぞ。これからもよろしくな」


 俺はそう言うと、家の門をくぐった黒崎に手を振って歩き出した。

 今まで一人で恋愛の手助けをしていたが、今週からは黒崎と白澤が仲間になった。曽根山も、なんだかんだで面白くて良いやつだし。


「ははっ」


 なんだかウキウキした気持ちになった俺は、思わず笑い声を夜空にこぼした。出来るなら、来週からもこんな楽しい日々が続く事を祈って。

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