第11話
「ただいま〜」
「おかえり!ゆーくん♡」
「兄さ⋯⋯姉さんか」
曽根山の弁当具材を持ち家に帰った俺は、帰宅早々兄(姉)に出迎えられていた。
⋯⋯いや、表記揺れとかではなく。兄(姉)なのだ。
俺の兄、
俺が恋のキューピッドの末裔ということは、兄も勿論キューピッドの末裔なのは当然だろう。つまり、兄は恋愛斡旋人になる資格があり、その職業に実際に就いているのだ。
そんな恋愛斡旋人である兄の
なお、この能力を得る前は男だったため、目の前に佇む美少女との戸籍上の関係は兄である。元から中性的ではあったが、さすがに男であった。
⋯⋯いや、普通にゴミ能力だよなぁ。黒崎の方が100万倍マシだろう。斡旋人が男だったり女だったりしたところで、いったい何の利点があるのか。
困ったことに、俺の兄であるが故に男の時も女の時も超絶美形なのだ。それに兄は男も女もイけるクチであり、家に彼氏も彼女も連れてきて困る。本当に。そして、男の時は兄と呼ばなければならず、女の時は姉と呼ばなければならないのだ。面倒くさい。
「なになに〜?今日は買い出し〜?」
兄(姉)の甘ったるい声⋯⋯誰得なんだ。
「そうだよ。久しぶりの太っちょ相手で、ダイエット飯の食材買ってきたんだ」
「わ〜偉いね〜!お姉ちゃん、ゆーくんの作ったご飯大好き♡」
「ハハ、ソッスカ」
これもう新手の拷問だろ。一人称お姉ちゃんで語尾にハートマークつく兄って何?
なお、兄はふざけて遊んでいるだけだ。試しにおっぱい揉ませて、とお願いしたら男に戻り半殺しにされた。理不尽すぎるだろ、我が兄。
制服を脱ぎ捨てて部屋着に着替えると、リビングで母の作る晩御飯の完成を待つ。兄はソファに寝転ぶ俺の頭を持ち上げると、すべすべの太ももに俺の頭を乗せた。強制膝枕である。拒否権は無い。
こんな兄(姉)が家族なんだぞ、俺は。松永さんに尊敬の念くらい抱いても、実際の姉のように慕っていても良いだろ!こんなんだぞ、こんなん!!
俺を膝枕してる時は、大抵暇だから何か話して構え、という合図だ。逆らえば死ぬ。ただでさえ死んでいると定評のある俺の目を更に濁らせながら、俺は兄に今日あった出来事を話し始めた。
「そういえば、今日俺のところに恋愛斡旋人が来たよ。
「へ〜そうなんだ〜!え〜女の子〜?」
「うん」
「え〜!ゆーくん取られちゃわないか、お姉ちゃん心配だな〜!」
「ハハ、ソッスカ」
マジで兄はどういう感情で俺と喋ってんの?俺、脳みそ破壊されそうだよ?美少女と化した兄に独占されてんの?現実を理解できない。頭スッキリするために、こっそりおっぱい揉んじゃおうかな。でもなぁ⋯⋯兄のおっぱいなんだよなぁ⋯⋯半殺しにされるしなぁ⋯⋯。
下から見上げる兄の下乳に悶々とした感情を抱きつつ、俺は話の続きを兄に話す。
「なんかその時に、俺の仕事ぶりが素晴らしいって噂になってるって話を聞いたんだ。に⋯⋯姉さんは、何か知ってる?」
「あれじゃないかな?プログラマーの斡旋人と神様が共同で作った、恋愛斡旋人専用のSNS!こうやって〜」
そういうと、兄はスマホを内カメラにして膝枕されている俺とツーショットを撮影した。
すかさずスマホをポチポチ触ると、満足いく結果になったのか得意げな顔でスマホをこちらに見せてくる。相変わらず顔は良い。
「
「アウスタみたいに、ね〜⋯⋯⋯⋯。⋯⋯えっ、嘘!?今の写真ネットに公開したの!?」
「あははは!ここ、斡旋人しか見ないから気にしなくて大丈夫だよ〜!」
「ネットリテラシー!!」
終わった⋯⋯兄(姉)に膝枕されてる写真がネットの海に公開されたの?今日、厄日とかそういうレベルじゃなくない?くそっ!ショートパンツの兄(姉)の脚が眩しいな!くそっ!!
「私よくラブコミュに、ゆーくんの写真付きで自慢してるんだ〜!だから、もしかしたら話題になってるのかも!」
聞き捨てならない兄の言葉を聞き、兄が持っているスマホを慌ててひったくる。兄のプロフィールらしきページで投稿を遡ると、出るわ出るわ。
『今日は男の子の日で〜す!愛する弟が、ダイエットご飯作ってるんだって〜!料理もできる弟、マジ最強じゃない?』
『今日は女の子!弟が遅くまで勉強教える教材作ってたみたいで、リビングで寝ちゃってました!本当に偉いな〜!お姉ちゃん、ご褒美にほっぺたにチューしちゃった☆恥ずかしい〜♡』
『弟が女の子のお友達を家に連れてきました!私が彼女作ったの、最後は何ヶ月前だっけ〜?最近ずっと女の子になって彼氏とイチャイチャしてるから分かんない!』
⋯⋯⋯⋯よし。
「ちょ、ちょちょちょ!ゆーくん何してんの!?」
「離せ!離してくれ!今すぐこの黒歴史をこの世から抹消する!!」
「もう無駄だよぉ〜!ネットに広がったら最後、回収なんて不可能なんだから〜!私、フォロワーもめちゃ多いし!」
「ネットリテラシーの知識あって、よくこんな事出来るよね!?」
「ルールを知ってることと、ルールを守ることって別じゃん?☆」
「あああああああああああああああ!!」
この兄を殺して俺も死のう。そんな事を考えて立ち上がった時には、俺は兄に羽交い締めにされていた。理不尽の擬人化かよ、こいつ⋯⋯!
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