第10話
曽根山と別れた俺たちは、ダイエット弁当の食材を購入しにスーパーへ訪れていた。
「天城くん、料理まで出来るの?しかもダイエットご飯⋯⋯」
「母さんが栄養士だから母さんからアドバイス貰いつつ、ちゃっちゃか弁当作ってるだけだぞ。ダイエット弁当作ってる期間は、基本的に俺の弁当もダイエット弁当になるのが玉に瑕だな。まあ一人分作るのも二人分作るのも、そんなに変わらない」
これまでのパターンから考えて、黒崎はたぶん料理も出来ないタイプなんだろうなぁ⋯⋯。レシピ通り、手順通りに作るだけなのに何故か失敗する。メシマズとはそういう人間なのだ。
ちなみに、高1の時は同時に3人分のダイエット弁当を作っていた時期があった。あの時期は流石に堪えたな⋯⋯まだ高校生活にも慣れてない時期だったし。
なお、最終的に食材費や水道光熱費は徴収するが、弁当を作る労力に対しては金銭を請求していない。我ながら良心的な価格設定だ。
「天城くん⋯⋯あなた、ちゃんとしてたら本当にモテそうよね」
「あれー?聞き間違いかなー?人をまるで『ちゃんとしてない奴』みたいな言い方するの止めてもらって良いですかー?」
「そういうところよ」
うわっ、黒崎のドヤ顔うぜぇ⋯⋯なまじ可愛いから、余計にムカつくんですけど⋯⋯。ズバリ指摘してやった、って顔に書いてるんだよなぁ。
だいたい、誠実硬派な所が俺のウリなんですが?ちゃんとしてる奴世界代表みたいな人間性してるんですが?世界一イケメンだし。
はぁ⋯⋯黒崎と話してると頭が痛くなってくる⋯⋯。こんな奴無視して、ダイエット食材を探してカートを押すとしよう。
俺が恋愛斡旋人の仕事をしていることは両親が知っているので、もう一台小さな冷蔵庫を買って置かせてもらっている。流石に家計のことを考えて冷蔵庫の管理をしているのに、俺が勝手に冷蔵庫を埋めてしまうのは心苦しかったからな。
そういうわけで、基本的に食材は冷蔵庫にある程度入っている。ただ、今日から弁当を作り出したのでまだ食材を用意してなかったのだ。今日の分は、家の冷蔵庫にあったもので適当に作っている。ちゃんと母さんには詫びを入れた。
さてと⋯⋯取り敢えず、低カロリー高タンパクな感じで弁当を作るとしよう。せっかく筋トレしてる訳だし、タンパク質はきちんと摂取してあげた方が良いだろう。本当はカロリーも糖質も摂った方が成長には良いのだろうが、既に曽根山は過剰に摂取して太っているので、この辺は少なめにする。
まずは時短として、既に完成しているサラダチキンを使う。鶏胸肉を調理する時間は、忙しい朝では中々捻出出来ない。毎日1時間以上はランニングに使用しているため、弁当を作るのは15分以内に抑えたいのだ。
味変用の魚も幾つか購入しておく。毎日サラダチキンでは飽きてしまうからな。
次は野菜を幾つか購入。温野菜はとても効果的なのだが、作るのに地味に時間がかかってしまう。その為、なるべく火を通さなくても美味しく栄養が豊富に入っている野菜をチョイスする。なお、好き嫌いもお残しも許していない。残そうものなら地の果てまで追い詰め、弁当を胃の中にぶち込むまでだ。
とりあえず白米は家にあるものを使う。そんなに量は使わないので、許可を貰いやすい。まあ、母さんはそんなに狭量ではないので基本的に許してくれるが。
「ん〜まぁ、こんなもんか。とりあえず今週分は揃ったかな」
「食材を目利きしてる男子なんて初めて見たわ⋯⋯なんで
「え?家庭的って褒め言葉だよな?なんでディスられてる感じ出てるの?」
解せぬ。
会計を済ませてスーパーを出ると、辺りはかなり暗くなっていた。
「もうこんな時間なのか⋯⋯。とりあえず近くの駅まで送っていくわ」
「え?そんなに荷物抱えてるんだから、先に帰った方が良いと思うけど⋯⋯。私一人でも帰れるし⋯⋯」
「別にチャリの荷台に載せれば重くもなんともねーよ。良いから行くぞ、もっと遅くなる」
俺は買い物袋を適当に自転車の荷台に積めると、そのまま自転車を引いて歩き出した。黒崎は、慌てて俺の後をついてくる。
「言っておくけど、本当にひとりで問題ないんだからね。恩着せがましく何か求めたって、私何も返さないわよ?」
「お前、人を損得勘定でしか考えられないサイコマシーンか何かだと思ってない⋯⋯?別に、こんなことで黒崎に何か求めたりしないから心配すんな」
「そ、そう⋯⋯」
白澤からは悪人だと思われてるし、黒崎からは冷徹なマシーンか何かだと思われてるし、曽根山からも悪魔か何かだと思われてるっぽい俺。周囲の評価が低すぎて、泣いちゃいそうです⋯⋯。しくしく。
黙っていると悲しくなりそうなので、適当に黒崎と話を続けることにする。
「黒崎って最寄りの駅どこ?」
「大倉駅⋯⋯えっ、今ナチュラルに私の家を特定しようとしてた?」
「ストーカーの濡れ衣まで着せないで貰えますかね⋯⋯。ただの日常会話だろ」
この短時間で悪評増えすぎじゃない?俺、黒崎とまともに喋ったのここ何時間なんだけど?
そんな事を考えてると、黒崎から質問が返ってきた。顔は、暗くてよく見えない。
「⋯⋯そういう天城くんはどこなの?」
「城家の辺りだな。まぁ近いっちゃ近い」
「へー、そうなの⋯⋯⋯⋯。なんか聞いてみたは良いけれど、割と本気でどうでも良かったわね⋯⋯」
「同意見だ⋯⋯。ストーカーの疑惑までかけられたのに、黒崎の最寄り駅とかマジでどうでもよかった⋯⋯」
なんとなく、送る駅から家までどんくらいかかるのかな〜、くらいの軽い気持ちで聞いたは良いものの、話広がらなすぎだろ。興味無いし。
「あぁでも、大倉駅って美味いラーメン屋あるよな。たまに食いに行くぞ」
「そうなの?私、あまりラーメン屋に行ったことが無くて⋯⋯」
「あそこのラーメンはマジで美味い。今度食いに行こうぜ、美味いトッピングとか教えてやるよ」
「⋯⋯⋯⋯ナチュラルに誘っておいて、いきなりラーメン屋⋯⋯?」
「はぁ?誘うって⋯⋯デートなわけねーだろ。仕事仲間とラーメン食いに行くだけだ」
「⋯⋯なんだか天城くんの相手してると、どっと疲れるわね⋯⋯」
「うるせえ」
黒崎のやつ、ああ見えてウブなのだろうか。ただ同僚とラーメン食いに行くだけでデートとか、思考レベル童貞くんと変わらないよ。
俺たちはそれからもくだらない事を駄弁って、気付けばスーパーの最寄り駅に辿り着いていた。
「んじゃ、気をつけて帰れよ」
「天城くんもね。⋯⋯今日はありがとう」
「おう。じゃ、また明日な〜」
「⋯⋯えぇ、また明日」
笑顔で手を振る黒崎の姿は普通に可愛い。ああやっていれば、普通に美少女なんだけどなぁ。勿体無いやつだ。
俺は黒崎に手を振り返すと、暗い街の中へ自転車のペダルを漕ぎ始めた。
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