第7話
「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯」
「遅いぞ!さっさと走れごらあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
俺は今、般若の顔で竹刀を振り回しながら獲物を追い立てている。しかし、追い回しているのは曽根山では無い。
⋯⋯俺は今、何故か黒崎を追い回していた。
「く、黒崎さん大丈夫?無理しない方が⋯⋯」
「良いわけねえだろ!!黒崎がこんな調子じゃ、曽根山を追い立てる仕事が出来ねえだろうが!」
「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯」
俺を睨み返す余裕も、俺に言い返す余裕も黒崎には無いらしい。まだ走り出して200メートルとかなんだけど⋯⋯。よく普通に生活できてるな⋯⋯。
「はぁ⋯⋯。仕方ない、ランニング係は俺が引き続きやってやるから、黒崎は休憩してろ⋯⋯。倒れられても困る」
「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯」
無言でサムズアップしてグラウンドから離れる黒崎。なんであんな「一仕事終えてやりました」みたいな顔出来んの?お前200メートル早歩きしてただけじゃん⋯⋯。
「天城くん⋯⋯僕、自分よりも体力ない人初めて見たよ。なんだか走り切れる気がしてきた!」
今にも死にそうな黒崎を見ていると、目の前を走っている曽根山がとても良い笑顔で喋りかけてきた。こいつ、ナチュラルに自分よりレベル低いやつ見て安心する良い性格してんだよなぁ。人間臭くて憎めないやつだ。
しかし俺は甘くないぞ。俺は竹刀を高く振り上げると、曽根山の背中をギリギリ掠める程度に強く振り下ろした。
「おらおら走れ走れ!!今日は10キロ走らせるからなあ゛あ゛あ゛!!」
「ひいいいいいい!!」
ダイエットに最適なのは、喋れるくらいのスピードで沢山走ることだ。あまり速すぎると無酸素運動となり、脂肪を燃焼させる効果は薄くなる。
ペースは問題無いため、とにかく曽根山には長い距離を走らせるのだ。周りを走ってる陸上部の奴らから不思議そうな顔で見られているが、無視だ無視。一応陸上部の顧問には許可貰ってるしな。
◇◇◇◇◇◇
約1時間半後、足腰ガクガク言わせている曽根山を引き連れ、黒崎が待機しているベンチに向かった。
「おう、お疲れ。曽根山死にそうだから水くれるか?」
「はい、ただの水道水を紙コップに入れただけのものよ」
「わざわざ説明せんで良いわ⋯⋯」
黒崎が手渡してきた水を曽根山に渡すと、物凄い勢いで水を飲んでお代わりを要求してきた。黒崎はランニングに協力出来なかった負い目があるのか、素直に紙コップを受け取って水道水を汲みに行った。
再度水を渡された曽根山は、これまた一瞬で飲み干すと、やっと落ち着いた顔を見せる。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯喉が乾きすぎてくっついちゃって、死ぬかと思ったよ⋯⋯」
「そんくらいで死ぬわけねーだろ。これから毎日、死ぬ直前まで走らせるから安心しろ」
「死ぬ一歩手前まで追い込んでる自覚があるのに、よく死ぬわけないとか言えたね!?」
どんなに疲れていてもツッコミを欠かさないツッコミ人間、曽根山。こういう健気なところは評価ポイントだろうが、高木がボケ人間か分からないから相性が良いかは分からん。いや、俺はボケてないんだけどね?
「というか、なんで天城くんは息一つ切らしていないのかしら⋯⋯曽根山くんと同じくらい走ってたわよね?」
「10キロのジョギング程度じゃ疲れないぞ。曽根山はランニングだと思ってるかもしれないが、このペースだとジョギングくらいだからな」
「男の子って普通そういう物なのかしら⋯⋯」
運動部ならそんなもんだ。俺は毎朝15キロほどランニングしているし、高校へは自転車で往復しているからそこそこ体力はある方だと思うが、運動をそこそこしてる男連中とそんなに変わらない。黒崎と曽根山がとびきり体力無いだけだ。
「しかし、まさか黒崎がこんなに体力無いとは思わなかったぞ⋯⋯。お前みたいな透かしたやつは、普通スポーツ万能成績優秀かつ美少女だって相場が決まってんだろうが」
「どこの相場の話をしているか分からないわね。自慢じゃないけど、私は常に体育の成績2よ。それも可愛いからと贔屓してもらって、努力まで見てもらって2なのよ」
「ほんっと何の自慢にもならねーなおい⋯⋯」
運動音痴+体力無しの可哀想な奴だったか。そんな事を考えていると、黒崎からさらに衝撃の告白が。
「ついでに、学力も絶望的よ。悪いけど、曽根山くんに勉強教えるとか出来ないわ。むしろ教えて欲しいくらい⋯⋯。この学校、前の学校よりちょっと偏差値が高くて焦ってるのよね⋯⋯」
「どうやって編入試験通ったんだよ⋯⋯」
「私、可愛いことだけが取り柄なのよ」
「つっかえねーなコイツ!!」
なんでこんなやつのお守りしないとならないんですか、神様⋯⋯。勘弁してくださいよぉ⋯⋯。
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