第12話 ダンジョンへ


 ダンジョン内は光源がないにも関わらず、不思議と明るい。

  

「よし、行けるな」


「ぷぅっぷ!」


 地図を手に取った剛士は、その肩に「イケイケ―イ」と若干興奮気味なウサギを塔載して頷いた。


 開いた地図に書かれている内容は大きく分けて三つ。


 まず木島家ダンジョンの脅威度だ。

 脅威度はE。

 S~Hまである冒険者協会認定の脅威度表の内、下から数えた方が早い脅威度認定となっている。

 その脅威度となった理由は、ダンジョン全体の規模が十階層であった事。そして出てくるモンスターほとんどが、初級冒険者でも対応可能な事であった。 


 次は、出現モンスターの種類だ。

 木島家ダンジョンに出現するモンスターの種類数は、ゴブリン、スライム、グレイラット、ブラッドバッド、グレイウルフ、ワイルドボアの合計六種。

 さらに追加で、五階層と十階層にそれらの進化系モンスターが待ち受けていたらしい。

 

 最後に階層ごとのダンジョン内構造だ。 

 今剛士のいる第一階層から第五層までは、簡易な造りの洞窟が続く。そこから先の第六層から第十層は、ちょっと大きなドーム規模の草原と少しの森林地帯が広がっているらしい。

 さらに各階層の詳細な地図も添えられているのだから、優秀極まりない代物だ。

 調査へ来た男性に心の隅で感謝を捧げ、剛士は地図を閉じた。


「ぷぅ!!」


「おま、ほんとうるさいから。一旦落ち着け」


 先程から肩車したウサ助の催促が煩い。

 ペシペシと頭を叩かれる分には、そこまで痛くないから問題ない。

 だが、モグモグ。

 お前はだめだ。

 その強靭な顎と門歯から繰り出されるモグモグは、可愛い擬音で済ませてはいけないダメージを頭皮に与え続ける。禿げたらどうする。


「ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ!!!!!」


「あーもうっ___首を揺らすの止めんか!!」  


 ザ・無邪気。

 ウサギとは本来警戒心が強くストレスに弱いと聞いた覚えがあるのだが、どうやらウサ助は普通のウサギとは違うらしい。

 もしくは、これがウサ助の個性と言った方が良いのか。

 もしかすれば、ダンジョン探索を嫌がるかもしれないという心の片隅に合った懸念は、今やない。

 頼むから、落ち着いてくれ。

 剛士が今言いたいのはこれだけだった。 


「ぷっぷ」


「んぁ?」


 イケイケ、と言った思念が、楽しいね!に変わった。

 キョロキョロ、ワクワクと、言った様子で周りを見始めたウサ助。

 そんなウサ助の様子に剛士は、一つ思い当たる節があった。


『この子は、ヤンチャで好奇心旺盛な子なんですが……実は、パークから一度も出たことがないので、少し不安です』


『はぁ』


『どうか、大切にしてあげてください』


 脳裏を過るのは、ウサ助を引き取りに行ったときに言われたランド職員からの言葉だ。

 要するにウサ助にとっては、何もかもが新鮮で、初めての事ばかり。

 普通のウサギなら警戒心が優先されるところだが、ランドの職員から言われているように好奇心旺盛な部分が大いに刺激されているのだろう。


 そう気づくと、何と言うか微笑ましい気持ちになる。


 ここがダンジョンと言う危険地帯にも関わらず、剛士はクスっとした笑みを浮かべる。


「頼りになる幼児と一緒に探索していると思えば……幾分楽か」


「ぷぅ?」


 呟いた剛士に、ウサ助はなぁ~に?と首を傾げた。


「いや、何でもない。ほんと、ヤバくなったら頼むぜ相棒」


「ぷっぷ!!」


 ポンポンっとウサ助の背中を叩きながら告げる剛士に、ウサ助はシャドーボクシングでもするかのように見事なワンツーを決め、頼もしく鳴くのであった。

 いや待て、ウサギ。

 そんな技どこで覚えた。

  

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