第二章 ダンジョンと仲間
第11話 一週間
場所は木島家ダンジョン内、一階層。
オーソドックな洞窟型ダンジョンの中で、一人が一匹を肩車しながら歩いていた。
「プゥ!!! プゥ!!!」
「やる気なのは良いことだ……だが、なぜ俺がお前を肩車してるんだ。降りろ。そして一人で歩け」
「プゥッ」
剛士の言葉に、プイッと顔を背けるウサ助。
結構重くて辛いのだが、どうやら言う事を聞く気は全くないらしい。
「はぁ」
剛士は溜息を吐く。
無理に言うことを聞かせようとしても無駄になることが、目に見えているからだ。
気落ちする剛士は、それでも言うべきことだけはしっかりと言った。
「まぁいい。だが、モンスターが出た時だけはしっかり働いてくれよ?」
「ぷぅ」
任せておけ。
とウサ助から力強い感情が伝わって来る。
さて、どこまで任せられるのか。
「ならいい」
どこか釈然としない気持ちを抱えつつも剛士は歩き出す。
その手には、木島家のダンジョンを網羅した地図が握られていた。
★★★
一週間。
それは長いようで短い。
「数日中に連絡するから」
と言って美玖と連絡先を交換した剛士は、花凜と共に急ぎ足でぽかぽかランドを出た。
「じゃあたけちゃん、今日の研修はこれで終わりね。今後、何か分からないことがあったらいつでも連絡してね」
「ウィッス。花凜さん、今日は本当にありがとうございました」
「いいのいいの……良い男さえ、ちゃんと紹介してくれればね」
「え」
「冗談よ冗談」
二人はバス停の前で別れの挨拶を交わす。
最後に花凜は茶目っ気たっぷりにそう言って、止まっていたバスへと乗り込んでいった。
冒険者協会の設定していた新人研修の時間は約一時間。
今回花凛は、その時間を二時間も超過した上に、テイマーとしての伝手まで作ってくれた。
剛士は今後、花凜に感謝してもし足りないだろう。
花凜を乗せたバスが進み、
___チュッ
とバスの窓越しに投げキッスをした漢は、優雅に去っていった。
可愛い。
かっこいい。
などと言えればどれほど良かったか。残念ながら剛士にその気は全くなく、苦笑いを浮かべながら見送ることとなった。
「あんな人が本当にいるんだなぁ」
何の見返りも求めず去って行った花凜を思い出しながら、剛士は呟く。
それは、ファンシーで奇特なファッションスタイルであったこともそうだし、後進である剛士を決してバカにすることなく、最後まで親切に面倒を見たことに対しての言葉でもあった。
「ありがとう、花凜さん」
剛士はもう一度、去って行った花凜へと心の底からの感謝を送ることにした。
届くか、届かないではない。
これはただの自己満足でいいのだ。
___プシュ
バスの扉が開く。
感謝を伝え終えた剛士は、そのままバスへと乗り込み、実家への帰路に着くのだった。
★★★
翌朝。
早起きした剛士に声を掛けてきたのは、炊事場に立つ母だった。
「そう言えば、剛士。昨日、あんたが出かけてる時に封書が届いてたよ」
「封書?」
父も、弟たちもすでに家にはいない。
何せ時刻は午前九時を回っており、学生とサラリーマンは通勤・通学がし終わったような頃合いだ。
結局、早起きとは言ってもそれは剛士基準での話なのだ。
剛士は、母から差し出された一通の封書を受け取った。
「何かな」
母から手渡された封書をビリビリッと雑に破って開ける。
『ダンジョン調査員派遣のお知らせ』
封書の中に入っていたのは、そんな一枚の紙だった。
つらつらと並ぶ挨拶文を飛ばし、内容を要約してみる。
・二日以内の政府機関専属冒険者の派遣。
・脅威度の認定。
・階層の調査。
・生物調査。
等々。
どうやら、木島家のダンジョンを政府機関が調べるというものだ。
「なるほど」
そう言えば、役所に報告した時にそんなことを言われた様な気がする。
剛士は未だ動きの鈍い頭を動かしつつ、そんなことを思い出し、紙を適当に折り畳んだ。
そして母に内容を伝える。
「政府専属の冒険者が家のダンジョンを調査しに来てくれるんだってさ」
「あらまぁ、それなら安心ね」
そう声を掛けた剛士に、母が頷き返す。
政府機関の冒険者は、調査に来るだけなので、ダンジョンの危険がなくなるわけではないのだが。
一体何が安心なのか分からない。が、母がそう言うならそれでいいか。
「ズズズッ」
少し塩っ気のある味噌汁を啜り終えた剛士は、そっと茶碗を置くと、大きな伸びをするのだった。
★★★
二日後。
木島家の玄関先には、剛士と一人の精悍な男の姿があった。
「では、調査書は一週間以内に郵送で送られてくると思いますので、今後のダンジョン管理などにお役立てください」
「はい。今日は、どうもありがとうございました」
ペコリ、とお互いに頭を下げ合い、男は木島家から去っていった。
「ふぅー、終わった終わった」
「あんた、何もしてないじゃない」
バタンと玄関の扉を閉めると、ちょうど洗濯物を持った母が、そう言って廊下を横切っていく。
「……ふむ確かに」
言われてみれば、確かに剛士は何もしていない。
先ほどの男は政府機関が寄こした、木島家のダンジョン調査員だ。
男は昨日の早朝に爽やかな笑顔と共に木島家へと訪れると、「ダンジョンの調査に伺いました」と言ってサッサと一人でダンジョンへと乗り込んでしまった。
剛士は、それについて行くことをしなかった。
結果。ゆっくり待つことになった、1日半。
剛士は男が出てくるまで、のんべんだらりと日向ぼっこをしながら縁側で男を待っていたのだ。
「うぁ~ぁ」
と大きな欠伸をしながら。
真面目に調査を行った彼と、だらけながら待っていた剛士との差は、きっと天と地ほどの差があるに違いない。
「って言われてもなぁ」
やることなんてなかったし。とは口に出さなかった。
だが、剛士が心の中でそう思っていたことは確かだ。
剛士の今のジョブはテイマー。
一人で乗り込んだ先程の男みたいに、単独でダンジョンへ潜ることなどできはしないのだ。
それをやれば、ただの自殺行為とみなされ処理されてしまう。
「あ~あ。早くウサ助さえ、来てくれればなぁ」
恐らく、この一言がフラグになったのだろう。
剛士がダラダラと自室へと上がると、部屋から着信音がしていた。
急いで扉を開け、携帯を手に取る。
そして剛士は、通話ボタンを押した。
『もっしもーし。ふっふっふ~、君の頼れる先輩テイマーからのお知らせだ~、イェーイ』
相手は、美玖だった。
美玖は自信満々な声音を隠すことなく、一方的に言い募る様に告げる。
『コングラチュレーシ〜ョン、後輩! 私が君とウサ助との仲を園長から捥ぎ取ってやったぜ~』
それは報告は要するに、無事ウサ助が木島家の一員となれるという物であった。
「ありがとうございます」
ホッと胸を撫で降ろした剛士。彼は電話越しで相手が見えないにもかかわらず、自然と頭を下げていた。
これで剛士が家族以外に頭が上がらなくなったのは、二人目だ。
『もう話は通してあるから、数日以内にウサ助を引き取りに来ると良いよ~』
「本当にありがとうございます、美玖さん」
『いいのいいの~。君がテイマーとして、どんな冒険者になるか私も見てみたいからさ……ほんじゃま、ちょっち忙しいから、あとはがんばってね~、ば~い』
プツッと電話が切れる。
剛士はそっと通話の切れた携帯を机に置き、崩れちる様に座り込んだ。
「はぁ~~~、どうなるかと思ったけど……何とかなりそう、かな?」
物事は剛士が思った以上に順調に進んでいる。
この日の翌日には、剛士はぽかぽかランドへとウサ助を迎えに行き、家族への紹介と共に、ウサ助とこう宣言したのだ。
「まだまだ増えます」
「ぷぅうっ!!」
「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」
シンクロする様に告げる剛士とウサ助の宣言に、嬉しそうに出迎えた家族の驚愕の声が鳴り響くのであった。
______
『忍法:時間短縮の術ッ!』
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