第7話 ぽかぽかパークの一番人気


 花凜の後を付いて行く事、数分。


 剛士が辺りを見渡していると、人の流れが妙に多くなったように感じた。


 それもそのはず。

 剛士が少しでも視線を上げれば、


___可愛いモンスター大集合!! 

 

 と言う看板が、それはもうデカデカと垂れ下がっているのだから。


 要するに、これから二人が足を踏み入れるのは、このランド一の人気施設に他ならなかった。


「可愛いモンスター大集合広場っすか」   


「そうよ。と言っても今回はモンスターには会っても会わなくてもどちらでもいいけどね」


「ん???」


 剛士の呟きに簡潔に答えた花凜。


 その答えを聞いて、てっきりモンスターと会うものだと思っていた剛士は首を傾げることになる。


「ちょっとした伝手があってね。今回はあの子に合わせてテイマーを知ってもらうのが目的よ」


「は、はぁ」


 良く分からない剛士は曖昧に頷き、花凜はどんどん先へと進んで行く。するとすぐに、可愛いモンスター大集合の受付へと辿り着いた。

 

「ようこそいらっしゃいましたお客さっ……あ、花凜さんじゃあないですか!」


「ふふ、お仕事お疲れ様。ごめんね、今日はあの子に会いに来たのだけれど、通してもらえる?」


「ええ、良いですよ。外部アドバイザーなら控室にいると思います」


「分かったわ、ありがとうね」


 花凜は受付と二、三言葉を交わすと___従業員専用ゲートへと歩き出した。 


「え……」


「さぁ、ついて来て。この先が目的地よ」


 茫然と立ち尽くす剛士を促しながら、花凜はゲートの奥へと手を振りながら消えて行った。


「は、はい」


 その様子を見て慌てて、剛士も花凜に続く。

 途中、受付のお姉さんにぺこりと頭を下げて横切り、従業員専用ゲートを潜った。

 

 一体、どこに連れて行く気だろう?

 それに、誰と会わせるつもりだ?


 そんな疑問が湧いては、消えて行く。

 結局のところ。どこに連れていかれようと、ここまで来たのだから付いて行く他選択肢はないのだ。

 

 ランドの表とは違い、酷く質素な印象を受ける廊下を剛士は大人しく歩くのだった。


  

 ★★★



「着いたわ」


 そう言った花凜の正面には、『ノック三回』『呼びかけ二回』『必須』の文字が飾られる木製の扉があった。

 

 その他は特段変わった所はない。

 

「トントントンッ。美玖ちゃーん。美玖ちゃーん。入るわよ~~」


『開いてるよ~勝手に入って来て~』


 一通り扉に張られた必須事項を行った花凜の呼びかけに、扉の先から間延びした声がした。


 その答えを聞くや花凜は何のためらいもなく扉を開け、ササっと中へと入っていく。

 剛士もひっそりとそれに続いた。


「おじゃまするわね」


「失礼、しまーす……げっ」

 

 部屋に入って、一目でわかった。


___この部屋の人、片付けできねぇ人だ

 

 と。

 

 乱雑に積み上げられた書類が目に入り、生活臭漂う布製品が床に散らばっていた。


「にゃはは、花凜ちゃん、いらっしゃ~い」


 そんな部屋でだらーんと椅子に座った女性が、プラプラと挙げ切れていない手で出迎えた。


 果たして。

 その人の第一印象は猫みたいな人、だろうか。

 

 くりくりとした大きな黒い瞳。


 細い手首や指先。 


 ダークグレーの髪は綺麗に肩程で切り揃えられ、枝毛がぴょんと飛び出していた。


 肌は健康的な白色で、口を開けた時に覗く八重歯がとても特徴的だ。

 

 体もほっそりとしていながら、出るところは出てそうな雰囲気がプンプンした。


 そして何より、緩いパーカーを来た彼女は、とても既視感のする美少女だった。

 

 と言うか、剛士は彼女の事を一方的に知っていたりする。


「タケちゃん、紹介するわ。この子は私と同じA級冒険者にして、この可愛いモンスター大集合広場の外部アドバイザー___来須 美玖ちゃん。今をときめく、テイマー冒険者兼現役アイドルよ」


「こんちゃー、ミクミクでーす」


 力ないピースを剛士に向ける来須美玖。

 見覚えがあったのは当たり前だ。

 気怠そうに首を傾げて、にへらっと笑っているのは現在進行形でメディアに露出しまくってる今注目の現役アイドルだったのだから。


 その笑顔は、確かにそれだけで市場が発生していると言われても文句の言いようのない代物だった。


 むしろ発生しないほうがおかしい。剛士は、そんな彼女の笑顔へ盛大に課金しているのだから。


「あ、あ、あ、あ、あ」


 あ、と言うだけのロボットになってしまった剛士は、ふと動きを止めると、


「ファンです。どうかサインください」


 とりあえずサインをお願いすることにした。

 

 これまでしたことのない様な綺麗な九十度の礼が炸裂する。


「いいにゃぁ~」


「タケちゃんへでお願いします」


「はいは〜い」


 さらに要望を伝えた剛士は、すぐさま持っていたメモ用紙を差し出し、カバンに入っていたマッキーを手渡した。


 マッキーを受け取った美玖はスルスルっと手慣れた様子で『タケちゃんへ、美玖より』と達筆な感じ書くと、「はい、ありがとう~」と言ってマッキーを手渡しで返してくれる。

 もう好き。

 滅茶苦茶、嬉しい。


「あら~良かったわねタケちゃん」


「家宝にします」


「そこまでしなくてもいいよ~。大事にはしてほしいけどね」 


「はい! 大切な家宝にします!!」 


「「家宝にはするんだ」」


 力強く言う剛士に二人は苦笑いを浮かべた。


 それにしても、まさか、こんなところで現役アイドルに会えるとは考えもしていなかった。

 

 しかも、やたらファンシーな漢の導きで出会うことになろうとは___人生、いつ、何が起こるか分からないものだ。


 剛士は、苦笑いを浮かべる二人を気にする事なく、大事に大事にカバンへとサインされたメモ用紙を仕舞うのだった。

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