第一章:アンダードッグ

(1)

「あんた、一体全体、今までどこに隠れてたんだ?」

 俺を助けてくれたメスガキは天を仰ぎながら絶望的な声でそう言った。

 「有楽町」の大通りの到る所には……防犯カメラ。

 そして、その防犯カメラの映像はWebで一般公開されている。

 ついでに、俺達を追っている(いや、待てよ、追われてるのは厳密には「俺」と「俺達」のどっちだ?)「入谷七福神」と「寛永寺僧伽」は、俺の顔のデータを持っている。

 俺が、いつまで奴らに捕まらずに済むかは……「入谷七福神」と「寛永寺僧伽」が顔認識アプリを動かしてるコンピューターの処理能力の問題だろう。

 とんでもない世の中になったもんだ。

 今世紀初め頃にアメリカ(まだ2つに分裂する前の)の刑事ドラマで防犯カメラに映った奴の顔をコンピューターに顔認識させて犯人の居場所を突き止めるなんてシーンを観た時には「おい、んなSFみたいな事が現実に出来る訳ね〜だろ」とか思ったモノだが……それから二〇年ほど経った今では、警察どころか「自警団」でさえ、そのSFみて〜な真似が可能になってしまった。

「な……なぁ……逃げられる方法って有る?」

「おっちゃんさぁ……」

「何?」

「ホントに少し前まで『悪の組織』の幹部だったの?」

「い……いや……零落れたけど『自警団』だ」

「自分の組織の縄張りシマの一般人を毒ガスで虐殺するのが『自警行為』か? あんたら、何から何を護ってたつもりだ?」

「……主にウチの組織の営業利益……」

「何がどうなれば、営業利益の為に毒ガスを撒くんだ?」

「ああ……えっと……何が起きたのか……ちょっと説明がしづらくて……その……」

「あんたさ……自分の頭で考えねえような阿呆なのに、ほンとおおおおッに、よぉぉぉぉ〜く、構成員が千人規模の組織の幹部になれたな、おい?」

「いや……幹部つ〜ても、一般企業で喩えるなら課長クラスの中でも下の方だし……」

「普通の会社で下の方つ〜ても一応は課長クラスの奴が自分の頭で何も考えなかったら、その会社、その内潰れるわ」

「ああ……だから、俺の組織は……」

 その時……。

「マズい」

 名前も知らないメスガキが、そう言って視線を向けた方向には……スカジャンを着た2人組が通常の携帯電話ブンコPhoneじゃなくて業務用らしい無線機で、どこかと通話中。

「おい、おっちゃん、裏通りに逃げるぞ」

「あ……ああ……」

 俺とメスガキは、ビルの間の細い路地に入り……。

「あ……あのさ……催涙ガス、まだ有る?」

「有るけど……ガスマスクは、あたしの分しか持って来てない」

 路地を抜けた先の裏通りは、防犯カメラはほぼ見当らなかったが……その代りに……スキンヘッドにゴツい数珠の奴らと、色とりどりのスカジャンを着た奴が何人も待ち構えていた。

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