(2)

「こちら第『ホ』班。ターゲットKR01発見」

 リーダー格らしい五分刈りの髪を緑に染めたアラサーぐらいの女は、淡々とした口調でどこかと通話。

 「寛永寺僧伽」の奴が3人に、「入谷七福神」の奴が4人。

 寛永寺僧伽スキンヘッドの内2人は密教系らしき印を組む。

 入谷七福神スカジャンの内の1人は、日蓮宗の法具「木剣」を取り出し、別の1人はは江戸時代の懐剣のようなこしらえのような短刀を抜く。

 残りの寛永寺僧伽スキンヘッド1人と入谷七福神スカジャン2人は俺達の方に駆け出し……。

 マズい。

 「魔法使い」としての能力ちからを、ほぼ失なっている俺でも判る。

 全員が「魔法使い」か、気・魔力・霊力などを使う近接戦闘術……俗に言う「降魔武術」の使い手。

「おっちゃん、目ぇ潰れ」

 何故か俺を助けてくれてる謎のメスガキの声。

「えっ?」

 次の瞬間、閃光と轟音。

 誰かが俺の手を取る。

 多分、謎のメスガキだと思うが……視覚も聴覚も麻痺している。

 いや……待て……。

 多分、スタン・グレネードのたぐいだと思うが……だ……大丈夫だよな……一生、このままヘレン・ケラーなんて事はねえよな……。

 って、いつまで、このまま何だ?

 今、この暗闇の中、どんだけの時間が過ぎた?

 たすけて……。

 うわっ?

 くそ、暗闇の中を猛ダッシュで走ってるから……転びそうにな……痛い……あ、本当に転んだのか?

 うげっ⁉

 腹に蹴りが入る。

 どうなってる?

 わけがわかんねえよ……。

 ああ……あいつらに捕まった方がマシだったのか、ひょっとして。

 最悪でも楽に死ねる。

 ちくしょう。なまじ「生き残れる希望」が有るだけ……今の方が酷い。

 どん底に居る奴をどん底に突き落す事は出来ない。

 どん底に居る奴をどん底に突き落すには……まずは、引き上げてやる必要が有る。

 ああ、畜生。全て読めた。

 あのメスガキ、どう考えても、俺に怨みかなんか有りそうだから……くそ、俺をどん底に突き落す為に、わざとどん底から掬い上げやがったのかた……。

「ふざけんじゃねえっ‼ 何で俺を地獄のズンドコから助けやがった‼ クソ、あのメスガキっ‼ 地獄の獄卒オニどもに追い回される位なら、大人しく地獄に居た方がマシだったじゃねえかッ‼」

 ん?

「耳は回復したようだな、おっちゃん。お望み通り、地獄に送り返してやる前に、1つ聞きたい事が有る」

「……な……何だ……?」

「あんた達『英霊顕彰会』が日本のあっちこっちから強奪してた『呪具』が有っただろ……」

 あ……それが目的か……マズい。

 目も……ぼんやりとだが回復。

 おい、メスガキ、手に持ってるのは何だ?

 まさか、俺を覚醒剤シャブ依存症ちゅうにした上で自由の身にするとか、エグい事考えてなんて……。

「ごめんなさい……知りません。助けて下さい。覚醒剤シャブ漬けだけは勘弁して……」

「何、勘違いしてる? それに、あんたの所属組織は、覚醒剤の密売もやってただろうがッ⁉」

「密売なんてやってません。だから勘弁して……」

「おい、散々、ニュースになってた事の1割しかホントじゃなくても、やってただろ。台東区SITE04から来た連中が、あんた達んとこの倉庫から見付けた白い粉は何だ? 粉砂糖か? 高級天然塩か? それともタピオカ粉か片栗粉か?」

「たしかに、覚醒剤シャブは売ってたんで……覚醒剤シャブ依存症ちゅうの末路は知ってます。だから、覚醒剤シャブ依存症ちゅうだけは勘弁して……」

「い……いや……売ってたのに密売じゃない、ってどうなってる?」

「密売はしてません。堂々と売ってました」

「想像以上に腐ってんな、あんたの組織は……。まぁいい。これは、そんな薬じゃない。あんたの口を軽くするだけの薬だ」

「えっ?」

 おい……このメスガキ。

 「気」の感じから判るが……お前も同業者魔法使いだろッ‼

 同業者魔法使いの誇りはねえのかッ⁉

 最初は催涙ガスで、次はスタン・グレネード、今度は……だと。

 ぷすっ。

 ふにゃ〜……。

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