第206話 明日は必ず
『なんでオルカが現代に居るの?』
…って、思ったよね?
そう。僕らは生きていた。
『…!!』
気が付けば、オーストラリアのエアーズロックの上に居たんだ。
傍らにはシスターが寝ていた。
…けれどシスターはいくら揺さぶっても目を覚まさなくて。
僕は下りられる場所を探し、シスターを抱えて下りた。
その後皆と再会した。
エアーズロックの近辺に、カファロベアロの国民が倒れていたんだ。
誰もが驚いていた。草も土も、何もかもが初めてなんだから。
『…ここは、……』
『ギルト!!』
『怪我が……治ってる。』
『お…お父さん!!』
『海堂さん!!!』
『まさか、…ここは!?』
僕はそんな彼らの姿に、三年前の自分を重ねた。
驚愕、恐怖、感動。
激しい感情の渦に振り回される中で、一番欲しかったものは何だったかなと考えた。
『みんな!、大丈夫!!
僕は三年前ここに来たんだ!!』
やっと皆のリーダーになれた気がした。
でもまあ…、この後は語れない程に大変だった。
オーストラリア政府を引っくるめた話さ。
全員DNA登録が無いし?、オーストラリアなんか知らないし?
でも大丈夫。僕が居る。
皆に共通語の英語をインプット出来たし、僕には僕らの人権を獲得するプランがあったから。
僕や国民の話を聞いたオーストラリア政府は最初、僕らの話を信じなかった。
全員イカレているか、どこかの宗教団体だとか、単に暴徒だとか、それはそれは疑われた。
けれど僕のDNAは、名前と共に保管されていた。
勿論偽装のDNAだよ?、でも僕の本当のDNAを調べさせれば僕の証言と一致するんだ。『炭素だ』と。『だから偽装するしかなかったんだ』と。
真実は何よりも強力な武器だ。
初めは僕らの全てを疑っていた彼らも、確固たる炭素DNAには脱帽し、僕らの話を信じ始めてくれた。
…そう、三年前の繰り返しだ。
それから本当に、本当に色々あった。
本当に死ぬ程イライラしたりもしたし、ギルトがいつ切れるかと毎日ヒヤヒヤさせられたし。
海堂さんは苛々しすぎて毎日ニヤニヤと報復を狙うし。
…もう、そういった意味でも大変な毎日だった。
けれど僕は一度も絶望しなかった。
未来を怖いものなんて思わなかった。
だって、ギルトのFluoriteが僕を守ってくれているんだから。
だから一見すると絶望に見えるような事柄も、真正面からぶつかった。
だって、絶対に僕は不幸にならないから。
そして僕が不幸にならないということは、カファロベアロの国民全員が幸福になるという事なんだから。
…こんな考え方、変かな?
でもネガティブに居たって仕方ないのはもう散々学んでいたから。
…神経、図太くなっただけなのかな。
『…シスター。』
ただ、残念なことに。
シスターは未だに目を覚ましていない。
…コアを破壊したあの瞬間、確かに僕は聞いた。
シスターの優しい声が『Sapphire』と囁くのを。
多分だけど、その力こそが僕らを救ってくれたんじゃないかと思う。
…でもその力も絶対ではないんだろう。
どうやら今生きているのは、最後のあの瞬間に生きていた人だけのようなんだ。
過去生きていた人も、王都の戦争で亡くなってしまった人も、ここには居なかった。
…だから、ヤマトは居ない。
…茂さんも居ない。
けれどオーストラリアの大自然は僕らを優しく癒し、前を向かせてくれた。
海堂さんとモエちゃんも、素敵な海や植物や動物に癒されていた。
勿論二人だけじゃなく、皆も。
『オーストラリア最高~!!』
『オルカ様、恥ずかしいので他に参りましょう。』
後で聞いて驚いたんだけど、海堂さんとギルトは本当に死にかけていたらしい。
けれどギリギリどうにかなったみたいだ。
…良かった。と言って良いのかは分からないけど、二人がここに居なかったら…、僕はやっぱり立ち直れなかった気がする。
三年間本当に色々あったけど、僕らは人間として認められた。むしろ新しい人種とされた。
…大袈裟な。とは思ったけど、仕方ないか。
で、種族名を決めていいって言われたから、面倒だし『ストーンピーポー?』…って答えたら、100%満場一致で却下された。
…初めてでした。国民に全力で拒否られたのは。
結局、満場一致で『ダイア族』になった。
…もうさ、笑っていいよ本当に。
こんなネーミングなのにさ、反対が僕だけとか。
…本当に、恥ずかしくて死ねると思った。
オーストラリア政府は僕らの為に大々的に発表するのを避けてくれた。
ただ、『ミストからの避難時に新しい種族が発見された』とだけ公表した。
三年だしね?、仲良くもなったし、彼らは最後には僕らに感謝してくれたんだ。
『オーストラリアを救ってくれてありがとう』と。
…僕はその言葉を言われる度に、心の中でヤマトに伝えた。
『だってさ?、ヤマト?』…って。
そして国民はあちこちに旅立っていった。
自分の血のルーツを探す人が居れば、オーストラリアに残る人も居た。
ひたすら旅行に行く人が居れば、僕に付いてきてくれる人も。
『楽しみですねオルカ様?』
『うん。…でも少し緊張してるかも。』
『ハッハーン!、さては僕は日本で何かしでかすと思ってますっ?
しませんてしませんて!、…ムカつかなきゃ。』
皆と飛行機に乗るとか。…もう、感動。
ギルトの現代服の…この…シートの似合い様ときたら!!
それに海堂さんのスーツ姿とシートとか…!!
『ゴォォ!、カァァ!』
『…あーウルサイなツバメのいびき。』
…これはこれで合ってた。
『ねえお父さん、日本のお寿司楽しみだねっ?』
『えー?、僕はエイヒレとか食べてみたいよ!』
(…渋い。)
…モエちゃんも三年で元気になった。
聞いて驚いたよ。付き合っていたなんて。
…ねえヤマト。報告しようよ普通にさ。
『…オルカ~。』
『あ、なあにジル?』
『……酔った。』
『お供します。』
『いえオルカ様私が。』
『…じゃあ、僕が?』
『え?、…じゃあ私が?』
『ちょっと皆(笑)!』
ジルとシスターも一緒に日本に行く。
寝たきりのシスターでも入れる保険をオーストラリア政府の人が探してくれたんだ。
三年経っても、シスターは綺麗だ。
たとえ寝たきりでも、とても綺麗だ。
『気持ち…悪い!』
『ああもうお前らフザケてねえでよ!
…ほらジル急げ?』
ロバートさんもシスターと共に日本に行くことに。
ロバートさんはシスターの面倒をずっと見てくれてる。
少しやつれたけど、いつも優しい顔でシスターの寝顔を撫でている。
…そんな光景に僕は、彼女の目覚めをひたすら祈った。
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