第205話 挨拶はセットで一つだろ?

「……はあ。…冷えてきたなぁ。」



なあオルカ。もうすぐあの日だぞ?

10/1。…お前の誕生日。


六年前のお前の誕生日に、俺達は確かに出会った。

…覚えてんだろ?



「……」



…あの時。ミストが石に吸い込まれていった…あの現象こそが、きっとオーストラリアを変えてしまった何かだったんだろう。

…だからあの時点のあの石が砕けたんだろう。

そして、在った筈の未来は消失した。

カファロベアロはもう、生まれない。



「……」



だからお前とはもう二度と会えない。

だってお前は、未来のカファロベアロから来たんだから。

…だからもうお前はどう足掻いても産まれて来られない。


なあ。それを決意するのって、どんだけの勇気が必要だった…?

なんでお前は自分の国より…、オーストラリアを取ったんだ?


それが、どうしても分からない。



「…ハア。」



まだ息が白くなるほど寒くはないのに、溜め息みたいに吐いた息が白く見える気がした。


…きっとこれは、俺の心の問題なんだろう。



ピッピッ… プルルルル…



俺も、戦わなくちゃ。

門松さんと、ちゃんと向き合わなくちゃ。


じゃなきゃいつか会えた時、俺はお前に胸を張れないから。

…もうダサイ姿なんて、見せたくないんだ。



「……あ。もしもし門松さん?」


『…どうしたー。こないだ誕生日過ぎたばっかだぞ?』


「はは!、いや、ちょっと、…っ、

門松さんとちゃんと、…話したく…て。」


『……』


「…いつでもいいんで、ちょっと時間貰えないですか?」


『……』



俺はもう、逃げないよ。

もう散々逃げてきた人生だったから。


でもそんな俺を変えてくれたのは…、お前なんだ。

お前と出会えたから俺は、多くを乗り越えられたんだ。


だからそんなお前を、恩人のお前を…、忘れてしまったこの…世界に、…俺は喧嘩を売るよ。

『オルカが居たから救われたんだ』って。

『思い出せ!!』…って、大声で叫ぶよ。


それが俺がお前の為に出来る、唯一の事なんじゃないかって。



『…実は俺もお前と話したかったんだよ。』


「…!」


『こないだの金の話…とはまあ…違うんだが、実はちょっと引っ掛かってた事があって。……』


「…はい。」


『まっ、じゃあすぐに予定見て、明日までには折り返す。』


「はい。待ってます。」



なあオルカ。…お前、生きてんだろ…?



「…  っ、」



だって、じゃなきゃ、…法石が残ってるの、おかしいじゃんか。


…なあ、何処に居たっていいからさ?

ちゃんと飯食って、ちゃんと寝ろよ?

お前は人間なんだから。寝なきゃ回復出来ねえんだからな?



「……なぁオルカ。 …お前、何処に居る…?」








「柳さん!!」



「…!!」



 滲んだ視界で柳は勢いよく振り返った。

そこには見慣れない、背の高い男性が立っていた。


端正な顔は柳が振り向くなり、輝くように笑った。


その瞳は紅く、髪は白かった。

そしてその白い髪には、彼の年齢には不釣り合いな赤いピンがクロスしていた。



「…オルカ…?」


「っ、…柳さん!!」



 自分に向かい駆けてくるその顔が、あっという間に笑顔から涙を堪える顔に歪み、柳の視界は更に滲んだ。



ガバ…!



「っ、…柳さん…柳さん!!」


「……」



こんな声、知らねーよ。



「~~っ!、……会いたかった!!」


「っ!」


「会いたかった!、会いたかったです柳さん!!」



…また、デカくなったな…?



「…お帰り。」


「…!」


「ハハ!、お帰りオルカ!!」



 オルカは柳に強くハグされながら、涙を溢し笑った。



「はい。ただいま!」



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