第200話 砂にもならない

『一周目では 柳の場所には夜明がいました』


「!!」


『柳楓は 貴方が巻き込んだのです』


「ツ… ~~~っ、」


『貴方と出会わなければ 死ぬ事の無い命だったのです』


「やめ…て!」


『たった一人の命です ですが本史には無い犠牲です 死ななくて良かった命です』


「~~っ…!!」



 コアの畳み掛けにオルカは耳を塞ぎ床に崩れた。

それでもコアの声は頭の奥の奥まで響いてきた。



『あんなに世話になった柳の命を捨て カファロベアロを守るだなんて 人間は傲慢ですね?』


「黙って!!!」


『黙ってもいいです が 事実は変わりません』


「~~~つ…!」



「…おい今の、どういう意味だよ。」



「!?」



 オルカは勢い良く顔を上げた。そして驚愕した。

ここに入れる筈のないヤマトが、死んだ筈の茂と共にそこに居たのだから。


 本当に焦り、オルカは急ぎヤマトを出そうとした。

だがヤマトは宙に浮かぶ光の塊を眉を寄せ見上げていた。



「…まさか、あの柳が、…死んだ?

本当は…死なずに済んでたのに、…死んだ…?」


「ヤマトどうして!?、お願いだから早く出て!」


「…一周目は、…夜明。

だから性格に差があった…?

だからお前は長官の過去を、皆に聞き回っていたのか。」


「ヤマト…!!」



 この空間ならば、コアの声がヤマトにも聞こえた。

コアは丁寧なことにヤマトの質問にも答えた。



『ええそうです ヤマト』


「…オルカが出会わなければ、……」


『そうです オルカ王が出会った故に』


「………」


『本史とは違う 明らかな犠牲です』



 ヤマトは、震えながら自分の腕を掴むオルカに目線を移した。

オルカにとってこんなにショックな事は無いだろうと、胸が痛んだ。



「………」


『柳の犠牲は正しいと思いますか? 彼の犠牲の上のカファロベアロを ヤマトはどう考えますか』


「……」


『しかもギルト・フローライトはオルカ王の母君を殺害しました 夜明の気性の荒さによって引き起こされた惨事を 柳のギルト・フローライトも等しく繰り返すしか無かったのです』


「……」


『さあヤマト 貴方はどう考えますか』



 ヤマトは真顔でじっとコアを見上げ、オルカを背に隠すように立った。



「お前は『そうなる』って分かってたのに、柳を行かせずに済むように努力はしなかったんだな!」


「…!」


「夜明の代わりに柳が行くことを、敢えてオルカに告げなかった。

お前が本当に本史ってやつを大事にしてんなら、是が非でも夜明が来るように、オルカを通じて促した筈だよな?」


「……………」


「フザケんなよ。

柳を殺したのはオルカじゃない。…お前だ。」



シュン!!



「…!」



 光が一瞬見えた。

その瞬間茂が二人の前に出た。

鋭い光は茂を貫き、茂はザラザラと砂になり朽ちた。


 二人は唖然としながらコアを見上げた。遂に攻撃をしてきたなと。

 オルカはヤマトの言葉で完全に目が覚め、臨戦体勢を取った。



「ありがとヤマト。」


「ん?、何が?」


「ヤマトの言う通りだ。…こいつは日本でもオーストラリアでも!!、柳さんがそうなるなんて一言だって言わなかった!!!

あんなにリンクしていたのに!!!」


『…オルカ王』


「お前はこの時の為の保険として…柳さんをわざと殺したんだ!!!

無言で居れば罪が無いと思うなよ!?

お前はッ!やってはいけない事をしたッ!!!」



キイイイイ…



「消えてなくなれ…ッ!!!」



パシュン!



「!」 「まずい…オルカ!!」



 コアは抵抗した。

砂化する光線を放ち、ヤマトを狙った。

 それだけでなくコアはエネルギーを溜め始めた。



「!?、何をする気だ!?」


『国民の居ない国でも 貴方は同じ事が言えますか』


「つ…!?」


「おいおいマジかよこいつ!?」


『彼等の痛みも 苦痛も 嘆きも

オーストラリアを守れば 全てが消えてなくなるのに それが 幸福なのに』


「どう…すれば!」


「早くこのトンチキ壊せよ!?」


「避けるので手一杯で集中出来ないんだ!!」



 コアは砂化の光線を見境なく発射し、国民を根絶やしにするつもりだ。

コアはここの人間相手なら、直に手を下せるのだ。

…本来はそんなルールは無いのに、コアが一方的に決めたルールだった。



『さあ更地の王よ 英断を』



 オルカとヤマトは歯を食い縛りコアを見上げるしかなかった。

オルカの消去は間に合わなかった。



『Fluorite』



 だがその時、緑色の温かな光が一瞬見えた。

途端にコアの声がバグを起こしたように乱れた。



『ななぜぜぜ こんんんななな』


「…え?」


「今、…長官の声が…?」


『ギルトトト フローライ ライ ト !!』



シュン…



 激しく輝いていたコアが、落ち着いた。

それだけでなく、コアの声は完全に途切れた。

ギルトのFluoriteが、オルカの不幸を消し去ったのだ。


 オルカは少し放心したが、すぐに外に出るべく走った。

だがその腕を、…ヤマトは掴んだ。


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