第199話 人を命扱い出来ない奴は嫌いだ
カファロベアロの真実に辿り着いたオルカは、涙を拭い立ち上がった。
世界に平和を取り戻す為だ。
バグラーとトルコとエリコを牢に戻し、暴徒達を牢に入れ、怪我人を救出し、国民の日常を逸速く取り戻す為だ。
『何処に行くのですか』
「…下に決まってるでしょ。」
オルカは全てを知り、こう考えた。
オーストラリアには悪いが、決断を一任された以上、僕はカファロベアロを守る。…と。
海堂や燕、レイチェル、アンドレア。
それだけじゃない多くの命に同情はしたし、胸だってズキズキと痛んでいた。…だがオルカは『時を紡いでいくこと』を取ったのだ。
茂が願ったように。
『時は流れ続けていく。それでいいんだ。』…と、強く思う事が出来たからだ。
「…じゃあねコア。…また今度。」
だがオルカはそれでいいが、コアはそうはいかなかった。
コアはあくまでもナビゲーターとしてインプットされた。だが柔軟な思考回路を求め人工知能にした結果、完全に中立思考から逸脱し、オーストラリア寄りの思考をするようになってしまったのだ。
それは単純に、命の価値に由来していた。
コアは命を尊いものとしかと認知していた。
だがコアは、カファロベアロの人間を命と認識しきれなかったのだ。
更には失われた命の数という点でも、カファロベアロはオーストラリアに負けていた。
この二点がコアを『カファロベアロではなく、オーストラリアを守らなければならない』という思考に駆り立てたのだ。
故に今のオルカの言動、思考は完全に意に沿わないものだった。
納得など何一つ出来ず、憤りを感じた。
だがコアには何の権限も無い。
エネルギーを放射する力こそあれど、そのボタンを押す権利は与えられていないのだ。
『オルカ王 話し合いましょう
ワタシ達は理解しあえる筈です』
「…悪いけど、多分無理かな。」
『オルカ王 お待ち下さい
何故貴方はカファロベアロばかりを』
「自分が生まれ育った国だよ?
それに大切な人も大勢居る。…当たり前でしょ。」
『彼等は石だと教えて差し上げたではありませんか』
「……そう考えてる内は、僕らは分かり合えないだろうね。」
『…出てもまた連れ戻します』
「そしたらまた出ていくよ。」
『…何故なのですか 何故なのですか
貴方が決断を下さなければならないのです
貴方にしか出来ない事なのです』
オルカは外に出た。
だが出た途端に理の間の中に戻され、鋭くコアを睨み付けた。
「ねえ、次やったら消去するよ。」
『!!』
「…あれ?、焦ってるの?
やっと人間らしい反応が出来たじゃない。」
『…ありがとうございます』
「だから、…嫌味だってば。」
オルカは改めてコアが嫌いだと痛感した。
今までは敵意や疑心を向ける程度だったが、『国民を命扱いしない言動』が、オルカをキレさせたのだ。
つい苛付きから口を突いた言葉だったが、本気でデータを消去するか悩む程。
コアはそんなオルカの感情を敏感に察知し、最後の懸けに出た。
『本来は 誰だったと思いますか』
「…?」
『一周目の フローライトは』
「…!!」
オルカは目を大きく開き、足を止めた。
そしてゆっくりとコアを見上げながら、『そうだ』とギルトに抱いた違和感を思い出した。
そうだ、そうじゃないか。
あの違和感…違いは、一周目と二周目の決定的な違いは、きっと…!
柳だ。
柳は一周目のあの場所には居なかった存在だ。
そして彼がフローライトの…ギルトの原型になったことで、ギルトの性格に変化があったのだ。
流暢に喋る神経質なギルトから、優しくて穏やかなお兄さんのようなギルトに。
「つ…!!」
こうして全てが繋がれば、明らかだった。
やはり名字持ちは皆、ベースとなった人間の性格、性質を引き継いでいたのだ。
コアは遺伝情報は喪失した…と言うが、間違いなくその血は石の中に息づいている筈だ。
でなければ、ギルトの優しさや穏やかさに柳を感じる筈が無いのだ。
サファイア家が癒しの力を持っているのだって、元となったオリビアが医者な事に起因があるのだろう。
時を操る特殊能力を持っていたアレキサンドライト家は、粒子やエネルギーの移動を時間とセットで研究を行う物理学を研究していたエミリーが元となっていた。
コランダムは守り。つまりは父親、一家の大黒柱としての自覚を。
ダイアは黒髪黒目、そしてカタチを。
これら全てが、『彼等は死んでなんかいない』と伝えてきた。
「っ、…」
迷いを見せたオルカに、コアは畳み掛けた。
「ハァ…ハァ。……オルカ?」
ヤマトは理の間から何か声が聞こえる気はしたのだが、中を覗いても見えず、耳を澄ましてもよく聞こえなかった。
茂はヤマトの隣でただ虚ろに目を開き、立っていた。
「……っ、」
ス!
茂の血を満タンに引き出し、そこに集中しながら恐る恐る理の間の光の中に指を通してみると、砂にはならなかった。
ヤマトは『すげえ』…と自分の指を見つめると、そっと茂を見上げた。
「…ずっとやってみたかった事、していい?」
「…………」
「…マジで、誰にも言わないでくれよな?」
ヤマトは父親の手を握った。
石のように固く冷たかったが、ヤマトはそっと微笑み、意を決し理の間に入った。
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