第178話 大地を穿つ怒り
ドオオオン!!
破壊力の高い砲弾は、コントロールが利かない。
玉は鉛玉で、撃った直後は砲台が熱すぎて装填すら出来ない。
だが数さえ揃えられればこの上無い武器になる。
建物が壊れるだけで足場が悪くなり制服の人間を足止め出来るし、怪我人が出れば制服達は放っておくことが出来ない。
ドオオオン!!
「っ、…大丈夫かエリコ。頑張れ。」
だがその破壊力故に、砲弾の着弾エリアに居る者は誰であれ危険に曝された。
勿論、この砲撃を設計したトルコ本人さえも。
「お兄…ちゃん。」
「頑張れエリコ。もうすぐだから。
…もうすぐに兄ちゃんと逃げられるから。」
時折フッと意識を飛ばしてしまうエリコを時に抱え走れども、ゲートは遠かった。
トルコだって牢に居たし体力が無いのだ。
予定ではもっと早く逃げられる筈だった。
この暴動が起きる直前には王都に出られている筈だった。
だがエリコが医務室に居たことで計算が狂ってしまい、完全に戦火に巻き込まれる事に。
だがトルコはエリコを見捨てなかった。
碌に歩けやしない彼女は完全に足手まといだ。
だが彼は、妹を抱きしめ支えながら歩いた。
ドオオオン!! バラバラ!
「つ、……大丈夫だからエリコ。
兄ちゃんがいるから。…大丈夫だから。」
医務室を必死に探し、ようやく見付けた先でトルコは絶句した。
変わり果ててしまった妹の姿に。
あんなに可愛らしかったのに。ガリガリに痩せて、本当に骨と皮のようになってしまった妹は自分を見るなり輝くように笑った。
彼は妹を強く抱きしめ、笑顔で『行こう?』と促した。
エリコは笑いながら、フラフラしながら『うん!』とベッドを下りた。
王都は完全にパニック状態で、逃げるには好都合だった。
だが女性との待ち合わせ場所である第二地区への道は丁度砲弾がよく落ちる場所で…。
トルコは妹を必死に守りながら『あと少し』とずっと己を鼓舞しながら進んだ。
「…!」
だが後方から喧騒が。
振り返り確認すると、ギルトが次々と暴徒を斬りながら雪崩のように政府を引き連れてきた。
トルコは歯を食い縛った。
『また俺らを苦しめるのかよ』と。
(なんで悪政を敷いてたテメエが…英雄なんだ!)
「…ほらエリコ、お願いだ頑張れ。」
「ごめ…お兄…ちゃ…」
「いいんだお前はよく頑張ってる。偉いぞ?」
(どの面下げて…!!)
『ギルトは大崩壊が終わるまで、肉なんて一口も食べていなかったよ。』
「っ、……ほら、少しつづでいいからな?」
「…お兄ちゃん、あったかい。」
「当たり前だろ?、エリコだって温かいぞ?」
心が荒れた。
全てをギルトの所為にして憎しみが暴れるのに、オルカの深紅の瞳が…、強い言葉がそれを遮るのだ。
あの瞬間、確かに後悔した心はちゃんと生きていた。
だが腕の中で必死に歩く妹の存在が、彼を前へ前へと駆り立てた。
(俺が居なきゃこいつは…死んじまう。)
また意識が飛んだ妹をトルコは抱え、走った。
ギルトは『!』…と二人に気付いた。
暴徒はまるで二人を隠すように間に流れ込んだ。
ギルトは目を細め、サーベルの剣先を彼等に向けた。
「あれは…砲台!?」
オルカは王都に着き驚愕した。
煙と轟音の正体が、まさか砲撃だなんて思いもしなかったのだ。
(この世界にもあったなんて…!)
政府の一隊が砲台を壊そうと戦闘していたが、砲台を守る暴徒が多すぎて未だに一人も辿り着けていなかった。
それに近付けたとしても未知の砲台を壊す方法が分からず悪戦苦闘するのは目に見えていた。
オルカは石板を解除し、落ちるように砲撃主達の真ん中に舞い降りた。
…ザ!!
「うわ!?」
「…何をしているの、君達。」
オルカは砲撃主達を睨み付けた。
そして砲台に触れ、囁くように呟いた。
「次、一発でも撃ったら、…許さない。」
砲撃主は皆後退りした。
オルカは政府と戦闘を繰り広げる暴徒達の剣に妙な反応を感じたが、剣を静止させる為にその成分を解読し、目を大きく開けた。
「…まさか、化石?」
その言葉に、狙撃主の一人が焦りながらも笑った。
「貴方は全ての石に通じているそうですね!
…私も何度か見ましたよ。石板に乗り空を行く貴方の勇姿を!」
「……」
「ですが貴方は…石だけだ!石しか操れない!!
だったらこの砲台に!…剣にも!、貴方は歯が立たない!
化石は元々は骨なのだから!」
「……」
「…どうか安全な処にお控え下さい。
我々はクーデターを起こしている訳ではないのです。
この砲台も剣も、死者をなるべく抑える為に開発されたのです!
あの剣はナマクラです!、人を殺せなどしない!
貴方の為と言っても過言ではないのです!
貴方があの人と手を組めば!、この世界はとんでもないことになる!!」
「……」
「オルカ様。…どうか。」
じり…とにじり寄ってきた彼等に、オルカは据わった目で答えた。
途端に彼等は距離を詰められなくなった。
余りの気迫に気圧され、動けなくなってしまったのだ。
…なにが『人は殺せない』だ。
なにが『僕の為』だ。
オルカは激しい憤りに震えながら、砲台を一瞬でバラバラに砕いた。
砲撃主達は『まさか!?』と目を見開き、ただ愕然と立ち尽くした。
「君達は人は殺さないと言う。
ナマクラでは致命傷にはならないと。」
「は…はい!」
「だから何?」
「!」 「オルカ様…聞いて下さ」
「だったら人の心を傷付けた責任はどう取るって言うの。」
ピシッ…!
政府と戦闘していた暴徒達は突然停止した剣に腕や手を痛め、何事かと驚愕した。
剣は押しても引いてもビクともせず、ただ浮いていたのだ。
次の瞬間には剣は砕け塵となった。
オルカの帰還を察した政府は今が好機と勢い付き、暴徒鎮圧に拍車をかけた。
オルカはうつ向き、燃え上がるような怒りに我を忘れそうになった。
「よくも…命を冒涜してくれたな。」
「オ…オルカ様!!」
「かつて命だった化石達を…、愛でるでもなく、敬意を表するでもなく、…よりによって武器に仕立て上げ…」
「逃げろ!!」 「早く…!」
「あまつ人を傷付けた癖に!!
その責任さえ放置して逃げるなんてッ!!!」
ドオオオン!!!
怒りは大地を砕いた。
砲台の欠片も暴徒も、何もかもを巻き込み崩落した。
政府は急ブレーキをかけ、何が起きたのかと崩れた地面に手を突き穴を確認した。
中は崩落したのに綺麗で瓦礫は無く、暴徒達が深くに閉じ込められていた。
「オルカ様!!」
「す…凄い!!」
奇跡のような拘束に政府は歓声を上げた。
だがオルカは笑顔は見せず、『早く怪我人を!』と王都内に入った。
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