第173話 カウントダウン
「面会だ。」
ガチャン。
朝早くに牢を開けた監守に続きトルコは歩いた。
面会に連れていく監守はいつも同じ保安局の副主任だ。
厳格な顔付きをした、口数の少ない男。
彼が何を考えているのかはいまいち分からなかったが、トルコは利用出来るなら何でも良かった。
面会室には前回会った女性が居た。
バグラーの財産を管理していた、あの女性だ。
監守はすぐに居なくなり、ドアが施錠された。
…カタン。
「やあオネーサン、久しぶり?」
「全て整ったわ?」
「おお早いね。…流石?」
「不必要なおだては結構よ。」
女性はスッと畳まれた紙と鍵の束を渡した。
トルコは眉を寄せ、『これは?』と問いかけた。
すると女性は少し早口に、半ば捲し立てるように話した。
「やるなら急いで。時間が無いわ。
それは三層の地図と全層の鍵よ。」
「!、…そんなモンどうやって。」
「盗んだの。」
「…やるねえ。」
「バレるのは時間の問題よ。
やるなら今日よ。…どうする?」
トルコは紙と鍵をじっと見つめ、バッと二つを手に取り隠した。
女性は大きく頷き、二時間後に騒ぎを起こすと告げた。
「その混乱に乗じて外に出なさい。」
「分かった。」
「…分かっているわね?、もしバグラーを逃がさずに貴方だけ逃げようものなら」
「分かってるさ約束は守る。
どうせオネーサンはどっかでバグラーが無事に出てくるか見張ってんだろ?」
「ええそうよ。彼が出て来たのが確認出来たなら、…爆弾の解除方法を教えてあげる。」
「!」
『抜け目無い女だよ』とトルコはニッと笑った。
彼女はトルコが裏切らぬように、バグラーの財産の隠し場所である実家に爆弾を仕掛けたのだ。
「…で、何処で落ち合う?
五地区のゲート?」
「いいえ。バグラーが逃げたのに気付かれたなら先ず一番にそのゲートに人員が。
…そうね、一地区のゲートにしましょう。
三地区のゲートも怪しまれる筈だから。」
「……こりゃ賭けになりそうだな?」
…二時間後か。こりゃ急がねえと。
打ち合わせを終え、すぐに面会は終わった。
牢への帰り道を口数少なく進んでいると、監守がトルコに話しかけた。
「何を企てているのか知らないが、もしも死者を出すような騒ぎを引き起こすつもりなら容赦せんぞ。」
「!、…へえ、意外だねぇ?
アンタは影が必要な人じゃなかったっけか?」
「あくまで影は影であるべきなのだ。
度を超えた影は、もはや悪だ。
…私はあくまで国民の健全性を守るために影が必要と考えているのであって、国民が必要以上に危険に曝されるのをよしとしている訳ではない。」
「…へえ。」
彼の主張はいまいち理解出来なかった。
更に分からないのが、彼がそこらの国民とは比べ物にならない程、国王に心酔している事だった。
「オルカ様の国を汚す物は悪だ。
…貴様も、度を超えてくれるなよ。」
「へいへい。」
オルカを敬愛しているのに完全な平和を悪とする主張は本当に意味が分からず、『イカレてら。』…と鼻で笑うと、トルコは遠くを見つめた。
すぐに迎えにいくからな。…エリコ。
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