第171話 静止チャレンジ

 ジルは『よしヤマト!』と、やっとヤマトに剣を選ばせた。

汗を拭いながら石剣の選び方を教えるジルを見ていると、『昔からこんな感じで長官とかシスターに教えていたんだろうな』と思った。



「取りあえず、お前がいつも使ってるのでやってみる?

ソレ使ってて違和感とかあったりするなら、それを満たしてくれる剣がおすすめだよ?」


「あー成る程ねえ。…でもぶっちゃけ、自分に何が合ってるのかとかよく分かんない。

俺は一から剣術を学んだ訳じゃないし。」



 ギルトはヤマトの隣に並び、『そんなことはないぞ?』と大剣を指差した。

汗を拭うその仕草をオルカは見ていた。



「そもそもお前の剣術が全て兄さんのものであったなら、大剣を選んだ筈だ。」


「まっ!、お前みたいなヒョロじゃ無理だろうけどな(笑)!」


「…そんなに重いんすか?」


「持ってみればいいさ。私はつい先日、その穴を作ったばかりだ。」



 ギルトが指差した床には綺麗な縦長の穴が。

振り下ろし止める、に挑戦した傷跡だ。

 ヤマトは挑戦の内容を聞き、ちょっとウズウズしてしまった。

男の子なのだから、力比べはしてみたい。


それを察したのか、ギルトは『好きにしろ?』と許可してくれた。

そしてロングソードで、目指す動きの見本を見せた。



「先ず片手で剣を持ち、床に剣先を突けぬように持つ。

そしてこうやって後ろまでしっかり振りかぶり、そして勢いよく下ろし…!」



ブン… ピタ!



「この様に地面に当たる前に静止させるのだ。」


「…それをこの大剣で!?」


「そうだ。…兄さんは難なくこなしたぞ?」


「ギルト凄いんだぞ!?、ちゃんと後ろまで振りかぶったんだぞ!?、…ヤバくね!?」


(そんだけでこの褒め💧?)



 大剣など持った事がなかったが、茂の血を貰った者としてここは出来ねばカッコ悪いと思った。

オルカは少し心配しつつ、ヤマトが大剣を壁から下ろすのを見守った。



ズシ!!



「オッッモ!?」



 だがヤマトは『無理かも!?』と持っただけで心が折れかけた。

壁掛けから外すだけでとんでもない負荷が全身にかかったのだ。



「いやウソでしょマスター!?

これ普通に振るとか!!……バケモンかよ!?」


「失礼だよヤマト。」


「お前も持ってみりゃ分かるから!!」


「…じゃあ。」



 やはり男の子、持つだけならちょっとワクワクした。

だがヤマトが自分の手に大剣を乗せると、『うえ!?』…と目をひんむいて足腰に力を入れた。



「ウソ…これ…何キロ!?」


「…何キロでしょうか。」


「知らねっ!」


「いやムリムリ無理ッ!!ほんともういい持ってヤマト!!」


「あいよ。…うあああああ重いオモイ重い!!!」



 大盛り上がりだ。



「…血、好きに解放していいよ(笑)?」


「!」


「でもまあ、…意味ないと思うけど。」



 半笑いで言ったジル。

ヤマトは『じゃあ遠慮なく!?』と腹の奥の球体を急ぎ解放した。



「…… …意味ねえ!!!」


「ハハ当たり前だろっ!

血には扱えるデータこそあれど、実際に扱うのはお前の体なんだから(笑)!」


「分かってましたよもおおおおっ!!?」



 ヤマトはそれでもどうにか片手で大剣を持った。

既に息は上がっているし腕はブルブルだが、どうにか剣先を床に突けず片手で持った。

もうそれだけでオルカは拍手した。

自分は両手でも無理な気しかしないのに凄い!と。



「頑張れヤマト!!」


「…離れて下さいオルカ様。ジルも。」


「おーう!」


「つ、…よ、よし!、これを…振りかぶって…」


「因みになヤマト。その状態をキープすればする程全身がやられていくから早く振りかぶった方がいいぞ。」


「そういう事は早く言って下さいよ💢!?」



ズウウ…ン…



 ヤマトは歯を食い縛り踏ん張り、どうにか大剣を上げた。そしてそのまま順調に振りかぶったのだが、その瞬間、『あ。』と目を大きく開けた。



(駄目だこれ。…止めらんねえ。)



ガランガラン!!



 振りかぶった重さに堪えきれず、大剣はヤマトの後ろに大きな音を立て落ちた。


ジルとギルトはこうなるだろうと分かっていたが、片手で持てた事だけでも凄いのでヤマトに盛大な拍手を贈った。



パチパチパチパチ!



「凄いじゃないかヤマト。

しかと普段から鍛練に励んでいるのだな?」


「初回でそこまで出来たら凄いよ!

アンタやっぱ才能あるよすごいすごい!!」



 ヤマトは二人の激励に少し口を尖らせた。

疲労した手をフリフリ振りながら不満げにしていると、オルカが床に転がる大剣の柄を両手で掴み、上げようと試みた。



「うっ…ぎいいいい!!」



 だが柄を持って剣を立てれども、剣先を浮かせる事すら出来なかった。

ヤマトはそんなオルカをじっと見つめ、口を尖らせながら背をポンとした。



「なんか、サンキュ?、慰めてくれたんだろ?」


(…いや違うけど!?)


「そっか。それが普通か。

…ならまっ?、今回はヨシとしてやっか!」


(だから違うんだけど!?)



 だが否定できず。慰めた結果になった。


 ギルトは大剣を壁に戻すと、ロングソードをクルンと回しヤマトに眉を上げて見せた。



「…さあ。男同士、遠慮なくやらないか?」


「!」


「それとも疲労していてとてもじゃないが私の相手は努まらんか?

まあ私もジルとの手合わせで疲労しているが。」


「…言ってくれんじゃないですかぁ。」



 挑発には…乗る。それがヤマトだ。

彼は少しだけまたストレッチすると、スルッとギルトと同じロングソードを壁から取った。

そして二人は好戦的な笑顔で睨み合いながら、鍛練場の真ん中へと歩んだ。


 ジルは『いいぞやれやれー!』と座り、オルカはまた少しハラハラしながら座った。



「ルールは先程と同じだ。」


「…武器取り上げた先はナシなんですか?」


「ん?」


「武器弾かれたからって、実際は肉体だけで戦えますよね?

だったら勝敗は、首に剣を突き付けるだの、そこまで行かない限りは分からないのでは?」



 ギルトは少し目を大きくしたが、クスッと微笑み『いいだろう』…と許可をした。


そして二人は向かい合った。

ヤマトは今さっきまで騒いでいたのに、独特に静かなオーラを漂わせ、構えた。



ダッ…!! キイン!!



 二人は初手から派手に打ち合った。

ジルとギルトはよく相手の剣をいなしたが、ヤマトとギルトは真っ向勝負だ。

激しく剣を交え、押し合い、両者譲らず。

ヤマトは蹴りも交えパワフルに攻めたが、ギルトは軽やかに剣術だけで相手をした。


 そんな二人の手合わせをじっと見つめ、ジルは『加減してるねー。』と笑った。



「二人して相手の実力計ってるかな?」


「…え!?、二人とも手加減してるんですか!?」


「うん。」



 とてもそうは思えなかった。

 だが実際、二人は互いを計っていた。



(なんだろな。腹の読めない剣だな。)


(…ほう、確かに?、確かに兄さんの面影はあるな。

だがこれは兄さんの技術そのものというより、兄さんに手解きを受けたような剣筋だ。)



 重さも早さも充分にあるヤマトの剣技にギルトはとても感心した。流石はエリートだな?と。


このまま暫し打ち合っていたいと思う程、ヤマトとの手合わせは楽しかった。

…だがギルトは微かに微笑んだ。

『部下に更なる高みを目指させるのも、私の役目だ』と。



(……見事だが、青い!!)



ガンッ!!



「ッ…!?」



シュ!!



 ギルトは突然爆発したようなスピードでヤマトの剣を弾くと、直後には喉元に剣を突き付けた。

ヤマトは一瞬でついてしまった勝負に、目を大きく開け半ば放心してしまった。


 ギルトはフッと微笑み、『まだまだだな?』と剣を下ろした。



「私はそんなに甘い壁ではないぞ。」


「…!」


「いつかお前の言ったような、剣を弾かれた後も続く手合わせが出来る事を期待している。」



 そう言うとギルトはヤマトに握手を求めた。

ヤマトは悔しかったが、何故かギルトの言葉で心に清々しさが広がり、笑顔で握手に応えた。



「流石です長官。ありがとう御座いました。」


「手合わせ程度ならいつでも受けよう。

遠慮なく声をかけてくれ?」



 オルカ、また一人スタンディングオベーションだ。

ジルは逆に、もっと見せろよと不満げだったが。



「早く終わりすぎだぞギル!」


「フフ!、まあいいじゃないか?」


「凄かったです二人とも!カッコ良かった!」


「サーンキュ?」



 ヤマトは剣を拾い、ついギュッと握ってしまった。

彼にとって今の手合わせはとても刺激的だったのだ。



(…次こそ!)



 高い目標が出来て、嬉しかった。

ヤマトは壁に剣をかけると、『さて?』とオルカを忍び見た。



(次はお前だぞ?)



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