第166話 オルカズディナー

 オルカ特製ディナーは執務室にセッティングされていた。

王宮や食堂だとギルトが楽にしてくれないと考えたからだ。


既にテーブルは料理で埋まっていた。

ヤマトも手伝っていたのか、腰にエプロンを巻いていた。



「どうぞアネサン。」


「サンキュっ?」



 ちゃんと椅子を引きスマートにレディーファーストするヤマト。

オルカは真似がしたくなりギルトの椅子を引いたが、彼は座ってはくれなかった。



「そんな…オルカ様!」


「む。今夜は僕がもてなす側だよね?」


「うっ!」



スコーン!



「こーら。変な圧をかけるな。」



 ヤマトがギルトを助けた。

丸めた書類で綺麗に頭をはたかれたオルカは、『確かにね?』と笑い、ジャーン!とディナーを紹介した。



「今日はビュッフェ形式のディナーでーす!」


「…び?」 「ぶゅっぺ?」


「ビュッフェ!

どこ発祥なのかは僕も知らないけど、日本だとお店とかパーティーとかでこういう食事のスタイルがあったんだ。

大皿の料理を、好きなだけ自分のお皿に盛って食べていくスタイルでね?」


「へーえ!」 「面白いじゃん!」


「勿論どれをどれだけ食べてもOKなんだよ?

野菜な気分だったらサラダを何度もおかわりしていいし、スープが美味しかったらまたよそうの。

門松さんと柳さんとビュッフェのお店に行った時、僕も何往復もしたんだよ?

むしろそうやって、好きな物を好きなだけ食べるのがビュッフェのルールみたいなものなんだ。」



 流石はオルカ。考えた。

異文化ならば逆にそのルールに従うのが習わしだ。

敢えて取り皿を小さくし、間違ってもワンプレートが完成しないように工夫もした。

スープカップも小さめだ。

それに伴って料理も本当に考えたし頑張った。

なんせちゃんとビュッフェ感を出さねばならないし、料理の量が少なかったら絶対にギルトは遠慮してしまうからだ。

スープは二種類、コーンスープと辛いトマトスープを用意した。

サラダも二種類、卵とレタスのサラダとパイナップルとナッツのサラダだ。

副菜とデザートは時間が無かったのでフルーツとジャーマンポテトのみだったが、とにかくメインには力を入れた。



「これ何オルカ?、すげーいい匂い。」


「こちらはスペアリブになりまーす♪

ジューシーだから手で掴んで食べてねっ?

お手拭き一杯用意したから遠慮なく!」


「え!?、これスペアリブなの!?

…ニホンだとこんなだったんかー!」


「すごい量じゃんよくこんな短時間で作れたね~!」


「うん!、本当は味を染み込ませるのに一晩漬けなきゃいけないんだけど時間無いから圧力をかけてみたらいい感じになりました♪」


「ふふ!、流石ですねオルカ様?」


「で、こっちがチキンのパイナップルソースあえ。

手羽もモモ肉もお好きにとうぞ~!

そしてこちらがポークジンジャー♪」


「うわあなんか、俺これ好きな予感!」


「どうぞどうぞ好きなだけ♪」



 ジルが好きそうな鳥のパイナップルソースあえ。

ヤマトの好きそうなポークジンジャーを囮に、オルカは本日の一番の主役を紹介した。



「で、これは角煮!

多分だけど好きだと思うよギルト?」


「…とても美味しそうです。

こんなに沢山、ありがとう御座いますオルカ様。」


「出来れば余らないでくれると嬉しいなっ?

流石にキツいかなっ?」


「!」


「それじゃあ皆、手を合わせてっ?

はい!、頂きまーす!」



 お見事。

皆食べたことのない料理と食事スタイルにソワソワ盛り上がりながら皿を持った。

オルカは見本として率先して料理の取り方を見せた。

大皿に備え付きの大きなスプーンですくい、皿に乗せ。スープもすくい、カップに入れ。

そしてそれを持ち椅子に座り、食べる。



「こんな感じだよ?」


「理解したー!」


「私も私も~!、おいヤマト私のスープ取って!」


「どっちー?」


「赤いやつ!」


「長官はどちらになさいます?」


「…ではコーンスープを。」



 オルカは食べ終わる前に席を立ち、また皿を取り色々と盛ってテーブルに運んだ。

『ああ成る程!』と更に理解した三人は、テーブルと数度往復すると、やっと着席した。



「さ~って!、まずはスープ💗!

カラッ!?…でも沁みる~おいしぃ~!」


「! とても美味しいですオルカ様。

自然な甘みがとてもホッとします。」


「良かったです~!」


「うわチキン超ウメー!

甘いのに甘すぎず後味サッパリじゃん!

ベリー系とは違った感じでいい!

…軽く揚げてもいるのか。スゲー!

てかポークジンジャーうま!」


「ほんとだ!、う~ん! …仕込みに何かあるな?

普通に焼いただけじゃこうはならない。」



 ヤマトとジルは流石、舌が良かった。

おいしいと素直に喜ぶだけではなく、『なんでこんな味と食感になるのか』を研究するのだ。

なのでオルカは少しハラハラした。

別に数々の裏技や隠し味がバレたくない訳ではないのだが、探されるとドキドキしてしまった。



(…ギルト、どうかな?)



 チラッとギルトを窺うと、丁度角煮をフォークに刺し口に入れようとしているところだった。

オルカはドキドキとつい反応を見守ってしまった。



…パク。 パアアアア!



 心が流れてこなくとも、顔だけで充分だった。

口に入れた途端に大きく目を開けたかと思えば、直後にはうっとりと目を細め幸せそうに頬張りだしたのだから。

余りの可愛さに笑いたくなったオルカだったが、ここは流石に絶対に堪えねばと精一杯我慢した。


 ギルトはトロトロの角煮にこんな美味しい物があったのか。…とまで感動していた。

しかもおかわり自由だなんて、天国もいいところだ。

他にも肉料理は山程あるので気兼ねも要らず、こんな幸せがあるものかと目を閉じ味わった。



(一生愛していますオルカ様。)


(僕もだよ(笑)?)



 オルカの作戦は大成功した。

自分で食べても美味しく感じたので尚更ホッとした。

スペアリブと手羽元のパイナップルあえは手で掴まなければ食べられないので少し心配したが、ジルもギルトも普通に食べられているので尚更安心した。



(…幸せ。…だなぁ。)



 こうやって皆で気兼ねなく美味しく夕飯が食べられて、幸福を実感した。


 そして願った。

トルコ達もジェシカ達も、早く牢を出て、こんな幸福を思い出してほしい。…と。


普段ニコニコと笑って活発なエリコがまさか、トルコと引き離されただけであんな顔になってしまうなんて、オルカもイルも知らなかったのだから。



(あ。…そうだ!)



 雑談をしながら一行は食べ進み、ディナーは綺麗に空になった。

なんせ食べ盛りが二人と遠慮を捨てたギルトが居るのだから。

ギルトなど、途中腹をさすったヤマトに『もう終いか?』と挑発する程だった。



(さてと。おにぎりを買いに行かないと。)



 オルカは食事を終えると街に出た。

折角だから、地下牢に居る者達におにぎりをプレゼントしようと思ったのだ。

トルコ達だけでなく、自分が足を踏み入れられる二層までの全員に。

『明日への活力』として。

早く牢から出られる原動力になれば。…と。


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