第158話 辻褄が合わない。…よな?
(きっと二人はうまくいく!)
ヤマトとモエがシチューを食べる一方で、オルカは役所に向かっていた。
二人のギルトについて、海堂に相談に乗ってもらおうと思ったのだ。
…ついでに言うなら、ヤマトとモエの進展の為に海堂を足止めする狙いもあった。
スゥー…
道中、車が通りすぎた。
音が少ないこの車はカファロベアロ内では特に高級品で、一般市民はまず持っていなかった。
そんな車が何故かスゥーっとバックしてきて、オルカはキョトンと首を傾げた。
すると窓が開き、海堂が『やっ?』と手を上げてきた。
「海堂さん!」
「こんな所で会うとは奇遇ですね?
何処に向かわれるのです?、乗っていきますか?」
「結構です!!」
乗車はズバッと断ったが、海堂には用がある。
なので海堂の目的を訊ねると、彼は含んだ笑顔で車から下りて、車とバイバイしてしまった。
『え!?』とオルカが驚いていると、海堂はクスクス笑い腰に手を突いた。
「僕に話があるのでしょう?」
「…流石です。」
「フフ!、伊達に長生きしてないよっ?」
車を運転していたツバメは折り返し役所に戻りながら『大丈夫かな💧?』と二人を窺った。
実は海堂は、バグラーとオルカの相思相愛を見てから機嫌が最高に悪いのだ。
「またキツく当たらなきゃいいけど…。」
暫し二人の背中を観察してみたが、海堂は至って普通に笑って見えた。…むしろ機嫌が治っていた。
『でたー』と思いながらもツバメはほっと安堵し役所に戻っていった。
海堂とオルカは目的地を決めないまま並び歩いた。
メインストリートは日が落ちても適度に人が行き交っていた。街灯がかなりの数並んでいるので、多少の暗さならなんてことないのだ。
第三地区の美しい街並みは、夜こそが真骨頂と言われていた。
その理由こそ、この街灯と言っていいだろう。
オルカと海堂は美しい街を眺めながら話した。
ギルトの姿がブレること、自分の認識する過去と今の彼が別人すぎること。
そして誰も昔の彼を認知していないこと。
話を聞く海堂は時折眉を寄せ、時折口元に手を添えながら歩いた。
「僕の記憶が間違っているのでしょうか?
…リンクは確かに、ある種は幻なのかなと。
…データなんて、記憶なんて、本当にその場に居なければ真実かどうか定かでもないですし。」
「……」
「海堂さんはどう思いますか?」
オルカの問いに海堂は眉を寄せ、『うーん。』と、彼らしくない程悩んでから口を開いた。
「…先ずリンクして見た映像の信憑性ですが、ここを疑うともう何もかもが崩壊します。
理念崩壊に近い恐ろしいものです。
…君は三年前、塔から無事に飛び下りる映像を見た。故にそれを信じ塔から飛び、実際に生還した。
更にはギルト長官の呪いの一件で貴方は法石を割り、四人に守護として授けた。そしてそれは実際彼らに届いた。
…以上の事を踏まえると、リンクの映像はやはり信頼に足ると考えて宜しいのでは。」
(…なんて海堂さんらしい返答なんだろう。)
「…えっとですね。次に『昔の長官は少々過激な程に神経質』だが『今の長官は日溜りのように温か』な件についてなのですが、」
「僕そんな風に言いましたっけ!?」
海堂はそう解釈したようだ。
オルカは思わず笑ってしまったが、海堂の言葉は見事に的を得ていた。
海堂は笑わずに、慎重に言葉を選びながらゆっくりと話した。
「えーっとですね。…オルカ君は過去に飛び、そして戻ってきたのですから、『帰ってきた世界は全て元通りだ』とお思いでいらしたかと。
あっちに行って流れた月日もね?、三年間と一致していましたし、日付も完璧に一致していましたから。」
「?、はい。」
「ですが、『同じ時、同じ状況であれ、全く同じ結果になる』…とは、言いがたいのでは?」
「!!、カオス理論!!」
(はにゃ?)
「あ、えっと…カオス理論というのは、起点の初期値に起きる微細な変化が後々に莫大な影響となっていく…という……。」
説明が面倒になったオルカは『とにかくそれです!』と言った。
『同じ時、同じ状況であれ、同じ結果になるとは限らないという可能性の事だ』と。
結果が見えているように見える現象でも、他の要因が微量に絡むだけで結果は全く別のものになる事がある。
だが導かれる結果は決して適当且つあり得ない結果ではなく、予測範囲内な結果である。
気圧や雲の上昇から天気を予測しても、微量な温度の違いや風の介入で、実際の天気は予報と違った結果になるのも、このカオス理論だ。
海堂は少し首を傾げたが、オルカからカオス理論を説明されると暫し思考し、ハッ!と顔を上げた。
…理解したのだろう。流石、飲み込みが早い。
「実に面白いですね!!」
「ふと目にした本で少し読んだだけでにわか知識ではありますが、要は今海堂さんが言った事と同じかと。」
「フムフム。…そう。正にそれだと思う。」
つまり、オルカが過去に飛んだことでここは『二周目のカファロベアロ』となったのだ。
なので、一周目と全てが同じという訳ではないのでは?…というのが海堂の立てた仮説だった。
それを常々念頭に置いておくといいのでは?と海堂はアドバイスした。
オルカは大きく頷き、確かにと納得した。
自分だって人と話す時や何かしようと思った時、選択肢に悩む事がある。
どちらを選ぶかで未来は変わっていくのだから、二周目の世界が一周目と完璧にマッチする方が逆に珍しいのではないかと。
「あ~…やっぱり海堂さんに相談して良かった!」
「…そうですか。…そう言って頂けたなら何よりです。」
だが海堂は実は悶々としていた。
オルカはスッキリした様子なのに彼が釈然としない様子なのにはちゃんと理由があった。
(その理論でいくのなら、この世界はもっと一周目とズレていた可能性があるのでは…?
…しかしオルカ君が違和感を抱いたのは、長官にのみ。
…その他は皆、彼の記憶のままの個性で、年齢にズレもなく、皆自分らしい行動を取っているという事になる。
…うーん。なんだか…なあ。)
それにまだ疑問があった。
それはオルカがリンクして見たという夢だ。
聞くところによると、その映像は時にかぶるように見えて、ノイズが走ったように今と過去のギルトが違う行動を起こしていたという。
(…過去に飛んだオルカ君は、一周目のオルカ君。
だがカファロベアロに帰還したことで、世界線は繋がった。
だとしたなら彼が保有する記憶、コアの保有する記憶も二周目に書き換えられる筈なのではないのか?
…それなのに、彼が見たのは恐らく一周目の記憶だ。
こうなると辻褄が合わなくなる。
…合わなくなる…よな??、あ~この手の話は未知すぎて頭がこんがらがる…。
…オルカ流に言うならば、脳のスペックを上げたい💧)
珍しくも悶々と悩んでしまった海堂。
オルカはルンルンと歩いていてそれには気付けなかった。
「…あら二人とも!」
そんな温度差のある二人に声が。
声をかけたのはイルで、可愛らしいドレスを身に纏いこちらに走ってきた。
オルカは堪らなくなり、イルが来るなりハグをした。
「今日も素敵だねシスター。」
「あっあらありがとうオルカ💦?」
先日からちょっとオルカを警戒してしまうイル。
海堂も頭を切り替え、イルと挨拶をした。
「おやこんな所で会うとは奇遇ですねミス。
…お一人でどちらへ?」
(ってロバートの所でしょうが。)
「これからロバートのお店に向かうの!
ついでに少し買い物をしててねっ?
丁度これから向かおうと思っていたの!」
「あ、持つよシスター。」
「あらありがとう!
二人こそ何処に?、これからディナーなの?」
「!」
オルカはニッコリ笑い、『完璧だ』と海堂を誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます