第134話 青い扉の先の兄弟
タッタッタ…
王都でお祭りが行われる間、街はとても静かになる。
殆どの店が閉まり、殆どの人が王都に赴くからだ。
メインストリートを通るのはこれから王都に行く者。もしくは王都から帰ってきた者ばかり。
裏道は近所の人しか通らない。
お祭りが開始されて三日目の早朝。
そんな静かな街を足早に行くモエの姿が。
パーカーのフードをかぶり人通りの無い道をグネグネと行くと、民家とおほしき家の青い扉の前に立った。
ココン…コン!
独特なテンポでノックをすると扉が開き、モエを招き入れた。
その家は至って普通の民家に見えたが、地下室がありその扉は硬く施錠されていた。入ってすぐ右にあるドアだ。
モエはそのドアをチラ見しながら廊下の奥に進んだ。
廊下の突き当たりは広いリビングになっていて、モエと同い年か少し上に見える子達が集まっていた。ざっと十人程だ。
モエは机に寄りかかる、この中で一番年上な男性に声をかけられた。
「ようモエ久しぶり。」
「うんトルコ、久しぶり。」
にこやかに挨拶を交わした二人だったが、奥から『誰?』と声をかけながら出てきたジェシカは来客がモエと分かるなり眉を上げ腕を組んだ。
モエはその仕草に対し顔を真顔で固めた。
かなり整った目鼻立ちのハッキリした顔とグラマーと呼ぶに相応しいスタイルのジェシカが、金髪でおっとりしたつぶらな目をした背の小さいモエを見下ろす様は、まるで食う者と食われる者のようだった。
「何の用よ。」
「止めろジェシカ毎度毎度。」
「ヤマトが居なきゃアンタなんて何の役にも立たない。…別に律儀に顔見せになんて来なくていいのよ?」
「……」
「ジェシカ!」
「何よトルコ。」
トルコはうんざりとジェシカを制したが、彼女はフンと顎を上げそっぽを向いてしまった。
トルコの実の妹のエリコは『やめなよ!』と二人の間に入り、モエの腕にギュッと抱きついた。
「あたしはモエちゃん大好きだよっ?」
「…ありがとエリコ。」
「今日はどうしたのっ?
あ!、お祭りは行った?、あたし達昨日行ってきてね?、さっき集まったとこなの!」
「あ、ううんこれから。
…で…ね、…今日は皆に…お願いがあって。」
「?、なんだ?
お前にはいつも世話になってるし、なるべく聞くぜ?」
トルコは笑いながら眉を上げた。
モエはギュッと手と口を結び、震えながら口を開いた。
「も、もう、…ヤマト…と、」
「…ん?」
「ヤマトと、……関わらないでほしい…の。」
『ハア?』…とリビングはザワついた。
トルコは静かに腕を組んだままモエと目を合わせ続けたが、周りは『何言ってんだ』『フザケんな』と立ち上がり、数名は椅子を蹴り苛つきを現した。
モエはグッと恐怖に堪えながら、それでも拳を握りトルコに訴えた。
「ヤマト…オルカさんが帰ってきて…楽しそうなの。だからもう…そっとしておいてあげてほし」
「ハッ!、形だけの妹の癖に何よそれ!!」
「……」
「私達はヤマトの本当の兄弟なのよ!?
ハナっから余所者なのはアンタの方よ!!
今までは海堂んトコで密偵として働いてから使えるって伝令役にしていただけで本当はアンタなんか私達には必要ないし!?、ヤマトにだって必要ないのよ!!
海堂の手前、ヤマトはアンタに優しくしてくれてるだけ。
そんなのにも気付けないわけ?」
「っ、…一回ヤマトと寝たくらいでなに。」
「あら今度は負け惜しみ?」
「ヤマトがどんだけ外で遊んでるか。
…そんなのも知らないの?」
「ツ…!!」
『やめろ』とトルコは二人の間に入った。
モエの腕に引っ付いていたエリコは、いつの間にかモエから離れていた。
トルコは鼻で溜め息を溢しながら腕を組み、モエと目を合わせた。
「…モエ。こんな風に言ってるがな?こいつだって別にお前を嫌いなわけじゃないんだ。」
「ハーア!?」
「ジェシカはヤマトのこととなると、…少しな?
…まあそれは置いといて。
俺達3-1孤児院にとって兄弟は絶対の仲間だ。
…だが俺達は、海堂のアングラのお前達だって同じように大切に思ってる。
歳も近いし、ようは同じ宿命を背負った者同士だ。
同じ奴に親を殺された、運命共同体だ。
…今は驚いて興奮しちまっただけさ?」
「……」
「だが、俺達が無理矢理ヤマトを巻き込んでいるような…、そんな風に言われるのは心外だ。
俺達がいつヤマトに復讐を強制した?
全てはヤマトが自ら望んでした事だ。
まさか政府に入ったとは俺らも思ってなかったけどな?、流石だと思ったよ。
ヤマト兄は俺達と同じ事を考え政府入りしたんだ。
しかも最短最速であのギルトの懐に入り込んだ。
…こんなの、ヤマト兄から俺達への愛でしかない。」
「……」
モエが顔を強張らせる中、トルコは笑顔で両手を上げ肩をすくめた。
『ほらな?、全部はヤマトの意思だろ?』と、その顔には書いてあった。
「オルカ兄が帰ってきてくれたのは恩恵だよ。
…俺達の道が祝福されている証拠。」
「オルカさんは、……」
「…なんだ?、言いたい事があるならその際だ。ハッキリ言ってくれ?
今後の為にもしこりは残したくない。」
「オルカさんは立派な王よ。」
「………」
「言いたくない事でもちゃんと突き付ける。
相手を愛しているならいる程、後ろには引かない。
…絶対に諦めない。」
「…だろうとも?、なんせオルカ兄だ。」
「貴方達が欲しいのは『自分の理想のオルカ』。
『自分の欲しいものをくれるヤマト』。
それだけ。…それ以外は一切受け入れない。
…相手が自分の都合よく考えて、そして動いてくれるなんて。……思い込みも甚だしいよ。」
モエのキツイ言葉に流石にカチンときたのを隠せなかったトルコ。
ピリッとした空気の中モエは震える拳を握り、吐き捨てた。
「…愚かよ。貴方達は。」
「つ、…いい加減にしなさいよアンタッ!?」
パン!
ジェシカに頬を叩かれても、モエはキッと彼女を睨み付けた。
その拳は今や怒りに握られ、震えていた。
「分からない!?、ヤマトは変わりつつあるの!
もう憎しみに疲れているの!!
貴方達と違ってヤマトは心が優しいのよ!!」
「知った風な口きいてんじゃないよ余所者が!?
紙の上の妹だからって調子に乗んな!!」
「あなた達だって血なんか繋がってないじゃない!
それなのに兄弟だから協力しろって強制して脅迫してるのはどっちよ!?
…ヤマトが碌に眠れてないの知ってたくせに。
本当は疲れ果ててるの知ってて放置したくせに!!
そんなのが兄弟なら…私は要らない!!!」
「こ…の!?」
パシッ!
また振り上げられた手にモエがギュッと目を瞑った瞬間、ジェシカの手が掴まれた。
恐る恐るモエが目を開けると…
「! …ヤマト。」
「………」
モエの後ろから手を伸ばしジェシカの腕を掴むヤマトが。
リビングはザワつき、ジェシカは動揺し口を縛りながら腕を振り払った。
ヤマトは無言で静かに兄弟を睨み付けると、『何してたの?』と腰に手を突いた。
モエはうつ向いたが、トルコは一歩前に出た。
ヤマトはこの中でスタイルもオーラもズバ抜けて大人だった。
制服を身に纏っているのもあるが、体格からトルコと一つしか違わないようには見えなかった。
「モエが急におかしな事を言い出してさ?
ちょっと二人が喧嘩になっただけだ。」
「…それ、放置したの?」
「分かるだろヤマト?
女同士の喧嘩に男が入るもんじゃない。」
肩をすくめ笑って見せたトルコ。
ヤマトは、必死な笑顔でモエを押しやり目の前に来たジェシカを冷たく見下ろした。
「ねえヤマト…?、ヤマトからも言ってやってよ。
モエ、私達にヤマトと関わるなとか言い出したんだよ?、おかしいよねこの子!」
「………」
「挙げ句の果てには『愚か』とか言ってさ。
…統治者の養子だからって調子に乗ってるのよ!
ヤマトの本当の兄弟気取っちゃってさ、バカみたいでしょっ?」
「………」
静かにモエに目線を移すと、モエは気まずく顔を伏せた。
ヤマトは暫し思考し、笑顔で皆に話した。
「悪かったな皆。
…最近少しモエに弱音吐いてたから、気にしちゃったんだと思う。」
「…!」
「俺も王宮付きになって間もなくて、疲れてた。
まあお前らはそんなの?、説明しなくても分かってただろうけど(笑)?」
兄弟は皆頷きながら笑った。
『そんなとこだと思ったよ』と。
ヤマトはにっこり皆に笑うと、『これからも仲良くしてやって?』とモエの腕を引いた。
「こいつも学校忙しくて最近カリカリしててさ?
優等生ってのも結構大変なんだぜ?
…ほら行くぞモエ。パパが心配するだろ?」
「っ、……ヤマ」
「じゃーな~?
何かあったらまた報告すっから~!」
何か言いかけたモエを遮り、ヤマトは踵を返した。
「敵の前で笑うのって疲れるよな?」
「…!」
だが背中にかけられた声に、ヤマトは足を止めゆっくりと振り向いた。
トルコはまたテーブルに寄りかかり、眉を上げ口角を上げた。
「いつもいつもご苦労さん。
俺だったら、………神経壊れるわ。」
「…まあな。」
目を細めつつも会話は終わり、今度こそ外に出ようとヤマトは歩いた。
だがその腕を、モエの手を掴んでいない右手をジェシカに握られ、うんざりと振り向いた。
「ねえこの際だから、一つだけハッキリさせて?」
「…なに。」
「ハッキリしてくれたら、私もうモエに噛み付かない。」
「……いいよ。…なに?」
ヤマトはモエを背中に隠すように立ち、ジェシカと真っ直ぐ対峙した。
ジェシカはどこかすがるように、必死な笑顔でヤマトに問いかけた。
「そいつより私の方が大事だよね…?」
「……」
「紙の上の兄弟なんかより、私の…本当の兄弟の方が大切だよね!?」
「……」
ジェシカの必死な顔に、ヤマトは目を逸らし軽くうつ向いた。
ジェシカは勝利を確信し、軽く息を荒らしながらも微笑んだ。
「言いづらいよね。…うんそうだよね?
ヤマトは優しいもん。目の前に居るのに、言いづらいよね?」
「……ほんと、言いづらいよ。」
「だ、だよねっ!?、うんありがとっ?
ヤマトの気持ちちゃんと知れて良かった!」
「本当に兄弟だと思ってんなら、俺をベッドになんて誘えないよな…?」
「……え?」
ジェシカの大きくなった瞳とガッツリと目線を繋げ、ヤマトは顎を上げた。
その顔は明らかに怒っていた。
そしてもう、怒りを隠すのを諦めていた。
「どっちから兄弟やめたんだよ。」
「そ、…でも!、兄弟って言っても血なんて」
「だったら初めから兄弟じゃねえじゃん。」
「っ…!」
「……後悔してるよ。」
「…え…?」
「どんだけ辛かったとしても。……
妹の誘いになんて乗っていい筈が無かった。」
「つ…!!」
「そっからのお前ときたら、…なに。彼女面してモエにマウント取って。
外でも言いふらしてるらしいじゃん。『私はヤマトと寝たのよ』って。
…いい迷惑だよ。」
「…そんな、…ヤマト。」
「お前が欲しいのは俺じゃない。
『優しくしてくれるヤマト』『気持ちよくシてくれるヤマト』『私だけのヤマト』。
…そんな奴、何処にも居ねえよ。」
「…っ…~~…!!」
パン!
張り手されたが、ヤマトは構わずジェシカを見下ろした。
余りに冷たい瞳に、ジェシカはハッとして我に返ったように謝った。
「ご…ごめんなさい!!」
「……」
「違うのヤマト…違うの!!
私ずっと…ちゃんと!、ヤマトの事を」
「お前が女じゃなかったら殴ってるわ。」
「つ…!!」
「……ああ。…忘れるトコだった。」
ゴヅンッ!! バラバラ!
ヤマトが振り落とした拳が壁を砕き、破片がバラバラと床に散らばり…、ジェシカは小さく悲鳴を上げながら一歩下がった。
だがヤマトはすかさずジェシカを壁に追い詰めるようにドン!!…と壁に手を当てた。
「今のはお前がモエを殴った一発だ。」
「~~っ…」
「…俺への一発の礼はしない。
…それは間違いなく俺が背負うべき責任だ。」
今度こそヤマトはモエを連れ外に出た。
青い扉を勢いよくバン!!と閉めると、すぐにトルコが外に出てきてヤマトを引き止めた。
「悪いヤマト、ストップストップ!」
「…退けトルコ。俺今キゲン超悪ぃんだよ。」
「分かってる分かってるって!
…悪かったよヤマト。…悪かった。」
「……」
トルコはモエに頭を下げた。
モエはヤマトの後ろから動かなかった。
「ごめんなモエちゃん。ジェシカの一発、確かに許容した。」
「………」
「でもなヤマト、俺らの気持ちも考えてくれよ?」
「あ?」
「モエちゃんの言い分は正直、キツかったぜ?
俺ら兄弟全員同じ気持ちだったと思う。
…正直あそこまで言われなきゃ、ジェシカだってあそこまではしなかったよ。」
「………」
「まるで俺達が無理矢理お前を巻き込んでるようなさ。…その辺ちゃんとモエちゃんに説明しといてくれ?、俺だって誤解はされたくないし、したくないんだ。
俺達は同じ敵を目指す同志なんだから。これからも仲良くしたいのは本当だ。」
「………」
「俺達は、みーんな兄弟だ。
…ジェシカの事だって、カッとなっただけさ。
お互いカッとなって言い過ぎただけ。…だろ?」
「……」
ヤマトはじっとトルコと目を合わせると、ふいに逸らし片方の口角を上げた。
「はあ。俺も悪かった。
ジェシカの気持ちなら分かってたんだけどさ、流石に当たりがキツすぎるだろって。」
「だよな分かる!
モエちゃんはただの妹なのになっ?」
「…!」 「っ…」
ズキッ…
「まったくジェシカときたら!
…まっそんな訳だからさ?
お互いにお互いのフォロー頑張ろうぜ?」
「…おう。今度何か差し入れするよ。
皆にも悪かったって伝えといて?」
「分かってるよ気にすんなっ?
差し入れ楽しみにしてるわ!」
ヤマトは目を瞑り笑い、モエの腕を引いた。
トルコも笑顔でふりふりと手を振ったが、ヤマトが居なくなると、鼻で息を吐いた。
「……こりゃもう…使えねえかなぁ?」
グネグネとした裏道を過ぎて公園にさしかかると、ヤマトは大きく溜め息を溢しモエの腕を離した。
モエは気まずそうにうつ向き、口をキュッと縛った。
「な…に考えてんだよお前は!?」
「っ、……」
「あいつらと揉めたって碌な事になんないだろ!
お前マジで…当分一人歩きすんなよ!?」
「……ごめん。」
モエがうつ向きながら謝ると、ヤマトは膝に手を突き項垂れ、思考した。
トルコ達は実は、俗に言うギャングだった。
顔が悪目立ちして有名という訳ではなく逮捕歴もないが、それは上手くやっているだけで実際はそこそこに悪いことをしていた。
どちらかといえば、海堂とアンゲラを競っていた対抗勢力派に似たスタイルで、この平和となったカファロベアロの数少ない影だった。
そんな彼らに真っ向から喧嘩を売るなど、賢い選択ではない。
「なんであんなこと。
…いくらパパが統治者だからって、やりすぎだ。」
「そんなの関係無い。」
「…じゃあ自分で自分の身、守れんの?」
「……」
「トルコはああ言ってたけど、…分かるだろ?
あいつは誰に対しても頭下げれるしそれっぽいことをツラツラ並べるけど、…狡猾だ。
…正直再会した時は俺の方が引いたんだぞ。」
「……」
「……聞いてんのかモエ!?」
モエはやっと顔を上げた。
その目に涙が滲んでいたが、ヤマトは見て見ぬふりをした。
「…オルカさんが、朝に、……」
「!」
「あの朝のオルカさんに…目を覚まさせられた。」
「…………」
「ヤマト、オルカさんに言ったんでしょ。
自分がやろうとしてること。…トルコみたいに、オルカさんに協力しろって言ったんでしょ。」
「……」
『なあ俺ら、兄弟だよな?』
「でもオルカさんは…拒否した。
ううんそれだけじゃない!、ヤマトの意見を拒否はしたけど…受け入れて、その上でしっかり自分の気持ちを伝えてた!」
『僕は絶対に君を諦めない。』
「それを聞いて…目が覚めたの!
私はヤマトが一人で危ないことに首突っ込むのが嫌で…だからトルコの仲間に加わった。
…好きじゃない相手に無理矢理合わせて笑って。
無理矢理同調したふりをしてた。
…ヤマトを失うのが、怖かったから。
だからせめて…せめて傍に居たかった。」
「……」
二人の脳裏に過去が甦った。
ヤマトが政府入りした後すぐに、トルコがヤマトにコンタクトを取った……その夜が。
『ギャングと…レジスタンスを作る!?』
『そう。』
『……なんで。だってヤマトは政府でしょ!?』
『単純に利害が一致した。
…それに、あいつらは兄弟だ。
あいつらもオルカが消えたのは…、マスターが死んだのはあいつの所為だって分かってた。
この国は皆あいつに騙されてる。
理解してる人間はそれだけで貴重だ。』
『たったそれだけの事で!?』
『お前にゃ迷惑かけないよ。』
『……オルカさんが綺麗にしてくれた国を、なんで今さら引っ掻き回すの。』
『……』
『私だって大崩壊で全部失った。
お父さんとお母さんは苦しみながら死んでったよ。
…でも、だから何なの。
復讐なんてしなくても…生きていけるのに。』
『俺はその為に帰ってきたんだ。』
『!』
『…捨てられる程度のものなら、…捨ててた。』
モエは頭を振り、涙を落としながら心を強く持った。
あの日の自分が間違えたからこそ、今引いてはいけないと自分を鼓舞した。
「…間違ってた。
あの時私がしなきゃいけなかったのは…、ヤマトに同情して伝達役を買って出る事じゃなかった。」
「…」
「殴ってでも!、引き止めるべきだったの!!」
「!」
「見てれば……分かるよ!!
あの人への…長官への気持ち、変わっていってるんでしょ!?」
「………」
「オルカさんが帰ってきてから、毎日顔が変わるもん。どんどんどんどん楽に…元のヤマトに戻ってきてる!」
「…… …」
「だから私だって逃げていられない!!
怖くても…立ち向かわなきゃいけないの…!!」
トン…
「…… … …」
「………」
「…ヤマ…ト?」
「………」
そっと大きな腕の中に抱かれ、モエは温かさを感じながら目を閉じた。
ヤマトは静かにモエを抱きしめながら、そっと天を仰ぎ見て、目を閉じた。
…今なら少しだけ、…自分の気持ちが分かる気がする。
「…ありがと。モエ。」
「…ううん。」
…少なくとも。
モエを殴ったジェシカも、それをわざと許容したトルコも。
可笑しそうに笑ってた…他の奴らも。
「……絶対に一人で出歩くなよ。
学校の送迎、時間合わせて俺がやるから。」
「い、いいよそんなの!悪いよ!」
「いいから。」
取りあえず、……マジでイラつくわ。
兄弟の情なら間違いなくあった。
事実ヤマトが彼らの根城を検挙しなかったのは、ヤマトがレジスタンスの一員となった事もあったが、何よりも彼らが兄弟だったからだ。
心の何処かでは、ヤマトはちゃんと自分が間違っていると分かっていた。
だが憎しみに埋もれ盲目となっていなければ、彼自身生きていられなかったのだ。
だがモエが殴られたのを見た途端に、何かが彼の心をスッパリと切った。
「必ず決別するから。」
「!!」
モエは勢いよく顔を上げた。
耳を疑いながらじっとヤマトを見上げていると、ヤマトはコツンと額に指を当ててきた。
「いたっ。」
「だからもうお前は奴らと関わるな。いいな?」
「…うん!」
モエが嬉しそうに笑い、『こっちの気も知らねえで』と苦笑いしたヤマト。
彼はこれからモエの学校の送り迎えと王宮でのトレーニングと、更には担当地区の治安維持という政府としての職務をこなしていかねばならないのだ。
これはとにかく、時間の配分を上手くやらねばならなかった。
「…ま。俺の責任、…だな。」
「あ。どうしよう時間!!」
「……忘れてた。早速お説教かよもお~!」
「早く!?、走ろっ!?」
「おっさき~。」
「ずるいよヤマト!?」
走り家に向かう二人の姿を…。
「……ふう。
まさか本当にトラブルの根っこだとはね。」
ツバメが影から見ていた。
そしてサラサラと地図にマークを付け、伝令役の部下に渡した。
「さて。…後は海堂さんに任せますか。」
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