第132話 七輪とお酒と

ジュゥゥゥ…!



「おいロバート酒がねえよ。」


「自分で取ってこいってんだよお前は!?」


「私が取ってくるわっ?」


「いいイル、私が行く。

ウィスキーでいいかい姉さん?」


「いえ自分が、」


「いいヤマト気にするな。」


「…じゃあ僕はサラダを取ってきます。」


「おう頼んだわオルカ!」


「姉さん!!」



 こんなお祭りに空いている焼肉屋など無い。

だが彼らは焼肉を決行していた。


 イルとロバートと無事に合流した後焼肉屋を探した一行だったが、ロバートが『祭り期間はどこも店閉じてるぞ?』と告げ、オルカはガッカリした。

それを見たロバートは、オルカが焼肉を食べたいと言い出した理由を思い出し、なんとかしてやりたいと思った。

そこで、王都の知り合いの焼肉屋の店主に相談してくれたのだ。

店主は渋ったが、ギルトにジルにイルに…、何よりもオルカの存在に気付くなり奥から大きな肉を持ち出し『今から捌きますよ!』と意気揚々に掲げて見せた。

…だが店の中で焼肉をしては、他の客まで入ってきてしまう。

折角の祭りなのに悪いし店の迷惑になるのは嫌だとオルカが言うと、店主は『なんとお優しい!』とえらく感動し、オルカに提案した。



『そこの野っ原でやるのはいかかです!?』


『…え?』


『よく晴れてて気持ちいいしここなら人もまばらです!、けど露店も近いし飲み物だっていつでも取りに行けますよっ?』



 オルカはギルトと目を合わせ『どうしよう?』と問いかけた。

ギルトはにっこりと『では頼む。』…と笑った。


 こうして一行は青空焼肉と洒落込んだのだ。

煙はこもらないし天気はいいし、確かに最高だ。



「……これ、バーベキューなのかな?」


「ばーべんくぅ?」


「バーベキュー。外で網を出してお肉や野菜を焼くのをそう呼んでたんだけど、…外で七輪…か。」



 確かに、大型の焼き台なら確実にバーベキューと呼べるだろう。

だが七輪を二つ並べ肉を焼いていると、正直どちらなのか分からなかった。



「まあいっか。」



『…にしても』とオルカは焼肉セットをまじまじと見てしまった。

七輪に、薄く切られた肉に、トングに、タレ。

日本の焼肉と何ら変わり無い光景だ。



(カファロベアロってほんと、多文化の集合体なんだな。)


「おいジル少しは働けよ!」


「お前なぁロバート。

皆が見てんだぞ?、みーんなが。

そんな中でドレスの女が肉を焼いたら周りにどう思われるよ。」


「組んだ足フラフラさせてウィスキー片手に背凭れに腕乗っけてる奴を女と呼ぶかあっ!?」


「…呼ぶさ(笑)?」



 ジルは相変わらずだ。

特にロバートが居ると顎で使う使う。

…だがロバートは気付いていない。

なんだかんだ甘やかすロバートだから、こうなるのだと。



「…脱いだ方がいいな。…お前も脱げ?」


「ですね。」



 ギルトがジャケットを脱ぎ、ヤマトも脱いだ。

油はねを警戒しての行動だったが、オルカは二人の動作に大人の男を感じ、ぐっときた。

なんせジャケットを脱ぐのは門松と柳のする行動で一位二位を争う好きな動作だったのだ。

『働く男』『大人の男』に強く憧れを抱くようになったのは二人の影響だ。



「…僕って子供だなあ。」


「突然どうしたのよオルカ!」


「シスターもそう思わない?

…二人はどう見ても立派なのに、僕はアホヅラひっさげてお皿を持って待ってるだけ。」


「ブ!?」


「な…どうしたオルカ(笑)!?」


「その内ロバートさんにお肉をあーんして食べさせて貰うんだよ僕は。」


「ハーア(笑)!?」


「ケホ!…どしたんオルカ?、まだ酒回るにゃ早くねー?」


「……え?、お酒?」



 オルカがキョトンとし、周りはシン…とした。

オルカはヒック!…としゃっくりを出し、自分が飲んでいたジュースをまじまじと見つめた。



「お酒なんて…ヒク! 飲んだことないよ?」


「う…エ!?」


「オルカ様それは酒ですよ!?」


「え?、だって僕まだ未成年…じゃないや。お酒は二十歳になってからですよ~?」


「……ハタチって何!?」


「恐らくはニホンの酒が許容される年齢だろう!」



 ジュース(酒)をまた飲もうとしたオルカのグラスをパシッと取り上げたギルト。

ヤマトはすかさずジュースをオルカに渡した。

だがそれを見たジルは『あ。』と小さく溢した。



「それ蜂蜜酒だぞ。」


「ってうおわあっ!?」


「もうヤマトったら!、ほらオルカ?」


「…こうやってシスターに永遠に面倒を見られるんだ僕は。はー情けない!」


「そんなことないわオルカ?

貴方はとても立派だし、貴方が望むなら制服だってすぐに誂えるわよっ?」


「見せかけだけの制服に…ヒック!

意味なんかあるんでしょうかー。」


「見せかけなんかじゃないわよ!

これからどんどん国を知って、自分の仕事を自覚していけば、貴方は間違いなく名君になれるわっ?」


「僕が暴君になれる可能性はある種の100ぱー。」


「何を言っているの!、貴方が暴君になるなんてあり得ないわっ?、貴方は小さい頃からそれは優しくて思いやりがあって…。私は貴方が五歳の時にくれた小さな庭の石を今でも大切に持っているのよっ?

ギルトに投降した時だって身に着けていたのよっ?だって貴方の愛が嬉しかったんだもの!」


「…シスターは優しいから!!」


「いいえ優しいのは貴方よオルカ?」


「…よーく付き合えんなイル。」


「突っ込むなジル。ここはイルに任せとけ!」



 オルカは自虐的に酔うようだ。

初めての酒、しかも無意識の摂取。

『倒れなかっただけマシ』と深くギルトとヤマトは項垂れた。

オルカが葡萄ジュースと勘違いして飲んだのは、第一地区の特産品で味の割にアルコール度数が高い物だったのだ。



「…ハア。頼りねえ王様だなったく!」


「そう言うなヤマト。」


「18で酒も飲めねえ王様がいます!?」


「……居るさ。」 (ここに。)



 カファロベアロでは17から酒が許されていた。

なので体に合わないというわけでなければ、18には大概が飲めるのだ。

ヤマトだってとっくに酒を飲み慣れていた。



「しかも、この酔い方とか💧」


「飲み慣れればまた変わるだろう。

…まあオルカ様の性格上、この失態を覚えておられたなら『もう二度とお酒は飲みません』と言いそうだがな。」


「ハア!!、本当に情けねえ!!」


「言うなヤマト不敬だぞ。」



 隣に座り普通に話せている二人にジルは口角を上げウィスキーを飲んだ。

イルは見事に真面目さを発揮しオルカを宥め、ロバートはケタケタと気持ちよく笑い……



「うーん。最高!」



 彼女は空にグラスを掲げ、勢い良く飲み干した。

そんな彼女にフッと口角を上げ、また酒を取りに席を立ったギルト。

 対角に座りながらもしっかりとジルを見守っているギルトに、ヤマトは無反応だった。

ただパクパクと肉を食べ、オルカの皿にもお肉を乗せた。


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