第129話 不思議なこと
『よく頑張ったな柳。』
『…いえ。』
…あれ?、柳さんと門松さんだ。
うわあ久しぶりですね門松さん!柳さん!
『…よっし。でかいヤマを見事に乗り越えたお前に!、焼肉を奢ってやろうな?』
『! …あ、いや、…いいっすよ。』
『遠慮すんなっての。
そこの焼肉屋、結構有名でな?、ウマイぞ?
俺ん家すぐ近くでな。酒飲んでたらふく食ったらそのまま俺ん家で寝ちまえ?』
『あの…焼肉…は、………』
『嫌いなのか焼肉!?』
『あ、えっと、 …… …いえ。』
『?、んじゃ行くぞ柳!』
『………はい。』
…あれ?、僕が見えてない。…これは夢?
…にしても、違和感がある会話…だよな。
夢にしては凄くリアルだし、…??
『いらっしゃいませ二名様ですか?』
『はい。』
『こちらにどうぞ!』
…柳さん、顔色悪い。
それにこの焼肉屋、よく行ってたお店だ。
…それなのに柳さんは初めてここに来た感じ。
…!
『ヤバイ…どうしよ。……焼肉…は…』
…柳さんの心が、流れ込んでくる。
凄く動揺してる。…焼肉が、…怖い?
そんな素振り一度も見たことないのに。
『卒業おめでとう楓!、今日なに食べたい?』
『いーよ普通で。』
『焼肉にするか!』
『いや聞けよ!』
『なんだ、寿司にするか?』
『……焼肉♪』
『そう言うと思って予約してんよ!』
『ハハ!、なんだよそれ!』
キキイ…!!!
……これ、これは、…例の日…?
これは…柳さんの、…過去?
『親父…? 親父!!!
誰か…誰か…!!!』
…卒業式の事故。 ……
目の前で…お父さんが。 こんな…の…!
『…どした柳。本当に焼肉嫌いだったんか?』
『……いえ。』
……そうか。…柳さん、焼肉が食べられなくなっちゃったんだ。
お父さんとの約束が…、その日に交わした約束が叶わなくて。
…本当は大好きな御馳走だったのに。
お父さんと食べられなかった事が悲しくて、事故から一度も食べていなかったんだ。
…門松さんはそうとは知らず。
ただ善意でこの店に連れてきて。
柳さんは門松さんの厚意を無下に出来ずに。
『にしても、お前はスゲーな?』
『…何がすか?』
『よく俺と真田のシゴキに付いてきてるよ。
真田毎日楽しそうだぞ?
『あのクソガキ叩いても潰れねえマジウケる』ってよ。』
『なんすかソレ。』
…そうか。亡くなってしまったチームメイト、真田さんていうんだ。
なんか、柳さんと少し似てるような印象だな。
…柳さん、食べれてない。
『折角門松さんが奢ってくれてるのに……』
…ん?
『味、しなかったら、……どうしよ。』
!!
『…食べなきゃ。…こんな失礼な事ない。
食べろ…俺。…大丈夫だって。味感じるって。
大丈…大丈夫だから、…食え。……食え!!』
…っ、……そうだったのか。
柳さん、味覚障害だったんだ。
…伝わってくる。
家でも職場でも、…何の味もしていない。
…っ、なんて、…辛いんだろう。
『…頂きます。』
『……ん。』
本当に震えてる。
門松さんも流石に訝しんでる。
…柳さん、無理しないで。
辛いんでしょ?…お願い、無理しないで!
『!』
『………』
『…ウマ…イ。』
『ほれみろー!!
ここはウマイって言ったろ~?
肉が臭くて苦手な奴もここのは食えるんだよ!』
『…ウマイ…です。……はは。 …ハハ!』
味、感じた。
本当に…何年ぶりに味を感じてる!!
…そっか。…ああそうだったのか。
だから柳さんは門松さんとはちゃんとご飯を食べるけど、家だと全く作ってなかったんだ。
僕に料理を教えてくれるのに、なんで自分では絶対に作らないのか…、謎だったけど。
…そうか。門松さんが居なきゃ味を感じないから家では作れなかったんだ。
知らなかった。
柳さんは本当に、…奥深い。
こんな辛さや苦悩なんて、本当に見たことなかったもん。
…強い人だ。柳さんは…本当に強い。
『あ、オルカ!』
!
『柳さん、どうしたんですか?』
『偶然だよ偶然!、…乗ってくか?
ついでに飯でも食おうぜ?』
『はい!』
…僕だ。
これは…、いつだったか。
肌寒くて、まだ家まで距離があって。
歩いていたら車が横付けしてきて。…柳さんで。
…確か二人で定食屋に入って……
『……しょうが焼き定食、豚汁で。』
『いつもお肉ですね柳さん。
僕は…お刺身定食、あさり味噌汁で。』
そう。僕は海の幸が好きで。
でも柳さんはいつも肉で。
しょうが焼きだの酢豚だの、カルビ弁当だので。
『……年齢的にキツくないんですか?』
『なんだとお前💢!?
こういうのはな、好きなの食った方がいいんだよ!』
『…うーん。でも心配ですよ?』
『いいんだっての!』
…そうか。そうだったのか。
柳さんは僕と居る時も味を感じてくれてたのか。
…やばい泣きそう。ちょっとこんな…後出しがキツイよ!
僕と門松さんが居る時しか味を感じないなら、好きな物を食べたいですよね…?
…とっておきの思い出の、門松さんが塗り替えてくれたお肉を…食べたくなりますよね…?
『午後も頑張って下さいね?』
『おう!、お前はこれから学校だろ?
…車に気ぃ付けてな?』
『はい。』
…いま、ようやく。
ようやく柳さんの心が知れた。
なんてことない会話に、柳さんの優しさがこんなに込められていたなんて。
…僕は何も知らず、ただその愛情を貰って。
『お前なら絶対、絶対に!…大丈夫だから!!』
…最後だって、僕を信じて送り出してくれた。
……あの後、いつ『何か』は起きたのだろう。
柳さんは、……どうなったのだろう。
「……オルカ様?」
!
パチ…と目を開けると、ギルトが優しく笑っていた。
オルカは体を起こし、眩しい朝日にパチパチと瞬きをした。
「……え。」
「フフ!、よく眠れたようですね?」
『しまった寝過ごした!』と今更後悔してももう遅い。
オルカは寝惚け眼を擦り、バサッと毛布をはたいたギルトの姿に…
「…え?」
「…?」
柳を見た。
「……うわ。ビックリしました。」
「…どうされましたオルカ様。」
「今、ギルトさんが柳さんに見えて。」
「!」
ギルトはキョトッと目を大きくし、クスクスと笑った。
オルカは『いや二人とも綺麗な顔だけど、似てはないよね』と自分のホームシックと思われる症状にげんなりした。
「ではその柳とは、余程綺麗な顔をしていたのですね?」
「はい。 …って(笑)!」
「ふふ!、冗談が通じて何よりです。」
ギルトは上機嫌に笑いながらカーテンを開け、気持ちのいい風を部屋に入れた。
その立ち姿が今日も素晴らしくカッコよく見えて、オルカは朝から『あ~幸せ。』と萌えた。
「さ!、祭りはまだまだ続きます。
お仕度を開始しませんと。」
「…え?、昨日だけじゃないんですか?」
「まさか!、貴方様の帰還を祝す祭りがたった一夜で終わる筈がないでしょう。」
「…はは。」
祭りは嬉しい。…が、それはそれで恥ずかしかった。
バチャ…バチャ…
豪華でだだっ広い洗面所で顔を洗いながらオルカはふと疑問に思った。
何故突然、柳の心にリンクしたような過去を見たのかと。
オルカのリンクの能力は、カファロベアロ限定の能力だ。
だが柳は本当の世界の人間。
オルカがどう足掻いても、心や過去にリンク出来る筈がない存在だ。
「…不思議な事。…で、済ませるしかないか。」
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