第127話 同じ痛みを知っていた
綺麗な首だとオルカは思った。
彼に恐れが無いのは、きっと彼の魂が本当に罪を受け入れ、そしてこの結末を受け入れ続けた結果だろうと思った。
…ス。
オルカはサーベルを受け取ったが、テーブルの上に置いた。
ギルトはハッと目を開け、じっとオルカと目を合わせた。
「…そうだったんですね。」
「……」
「母さんも、知っていた…のか。」
「! …まさか、オルカ様も?」
「僕のは…、ここ最近で見付けた憶測で。
…ですがこうまで、ハッキリと。…真実なんだと突き付けられると、…キツイですね。」
「…!」
「…一番苛つくのは、コアから満足感が伝わってくることかな。」
「!」
ギルトが眉を寄せる中、オルカはため息をつきギルトを向かいに座らせた。
母の首を飛ばしたサーベルを中心に、二人は向かい合った。
「僕はこの三年間、母の言った本当の世界に居たんです。」
「な!?」
「…とても長くなります。…ですが、聞いて下さい。
貴方には全てを知る権利がある。」
「…勿論ですオルカ様。」
オルカはゆっくりと話し聞かせた。
物心付いた頃から抱いていた疑問も、ジルと茂とヤマトとの生活も。
海堂との一夜も、どうして石林の中でギルトと再会したのかも。
そして、門松と柳との三年間を。最後の大冒険を。
ギルトは驚愕しつつも、納得しながら話を聞いた。
コアへの不信感ならばギルトも抱いていたのだ。
そして先王の言葉とオルカの話、全てを聞き終えると、頭の中で全てが繋がった。
「ではここは、オーストラリアなる国の果て。」
「…そうなってしまいました。」
「…では、凜殿が仰っていた『何か』とは、……
陛下が僕に見せた…あの、光…?」
「…多分ですが。
そう…だよな。…目線を変えないと。
僕にとっては当たり前のこの『石で出来た世界』。
けれど元はオーストラリアなんだ。……
『何故こんな石の世界になってしまったのか』。
…僕はここにフォーカスせねばならなかったんだ。」
「……オルカ様は、…どうお考えなのですか。」
「…!」
「カファロベアロを…この国を、……
未来…を。……どうお考えなのでしょうか。」
不安を見せないように問いかけたのだろう。
だがオルカにはギルトの不安が見て取れる気がした。
オルカは苦笑いし、そっとギルトの頬に手を伸ばした。
ギルトは驚き、少し目を大きくした。
「!」
「…残酷な天秤だよ。……余りにも。」
「……」
「コアが僕を本当の世界に送ったのは…
どれ程本当の世界が美しく、価値あるものなのかを体感する為だったんだと思う。
…事実僕は、体感した後と前とでは、やっぱり違う考え方をしてたと思う。」
「……」
「沢山の動物達と直に触れ合った。
…みんなみんな、……生きていた。」
瞳をキラキラと輝かせて。
息をして、食べて、子供を作って。
確かに生きていた。営みという輝きだった。
「でもそれは、……僕らだって同じ筈だ。」
「!」
「僕は炭素で出来ているらしいけど、柳さんは怒ってくれた。
血は赤いし熱を出せば吐くんだって。
…それと同じだよね?
僕らは確かに生きていて。…2503年の営みの先に僕らが居て。
…それなのに、僕らは物扱いで、あっちの生物だけが尊重されるなんて、…間違ってる。」
「…オルカ様。」
「…どちらも尊重すべき、素晴らしい世界だ。
…どっちかを取るなんて、……僕には出来ない。」
オルカは首を振り椅子を立った。
窓辺に歩むと、もう外は暗くなりかけていた。
「……でもごめん。…分からないんです。」
「っ、…」
「自分でもどうしたらいいのか、…分からない。
どっちも大切で、…どうにもならない。
答えなんか…出せなかったんです。」
「オルカ様!」
「!」
後ろから大きな体に抱き締められると温かすぎて…、勝手に腹が上擦った。
ギルトが抱えた苦悩が、痛みが辛くて。
答えなんか出せない自分も、辛くて。
「ごめんな…さい!」
「謝らないで下さいオルカ様。
…貴方は何も悪くないのです。」
「何か…は!、起きてしまった…!!
凜さん…柳さん…は、無事…なのかなって!」
「っ、はい。…心配です。当たり前です。
…私だって心配です。貴方の恩人は等しく私の恩人です。」
「どうして…こんな事に…!!」
オルカは勢いよく振り返り、叫ぶようにギルトを抱いた。
「辛かったね…!」
「! …っ、」
「もう…いいから!」
「~~っ…!」
「もう自分を責めないで!
もう二度と自殺なんてしようとしないで!
僕は…!、ギルトが居なきゃ嫌なんだ!!」
「オルカ…様!」
「カファロベアロを……ありがとう!!」
「つ…! っ、…うっ…!」
「この国を一番愛しているのは…貴方だ!!」
ヒュゥ… ドン! …ドン!
二人は花火の中、抱き合い泣いた。
互いの苦悩を想い、泣いた。
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