第124話 一年生同士、頑張ろうね!?
ザワザワ…
王都に着いたヤマトは首を傾げた。
いつものように賑わっているが、その賑わいがいつもと違う気がしたのだ。
よく観察してみると、慌ただしいのは自分のような制服達で、王都に住む者や観光客などの一般人はその無言の慌ただしさに違和感を抱いているような印象を受けた。
(…何かあったのか?)
経験上、制服が慌ただしいのは悪い兆候だ。
ヤマトは頭を切り替え、急ぎ王宮へ向かった。
「お早う御座います。」
「来たかヤマト!」
王宮一階、正面玄関のすぐ側にある自分達王宮付きの控え室兼執務室に入ると、すぐに上官が立ち上がりヤマトに駆け寄ってきた。
『ほれみろトラブルだ』と更に気を引き締めると、上官は『凄いじゃないか!』とヤマトを激励し、腕をバシバシと叩いた。
「流石は期待のルーキーだな!」
(…?)
「…失礼ですが上官殿。私には何の事だか」
「とぼけるなよ!」
『オルカ様を発見したそうじゃないか!』
そう言われた途端、ヤマトはカチンと固まった。
「…え… あ ……はは。」
「もうあちこちてんてこまいさワハハハ!!
今夜からお祭りだぞ!?」
「……楽しみで…ありますね。」
なんとか返したが、胃はズドンと重くなった。
『どういうつもりだよオルカ』と笑顔の裏で固まっていると、上官はヤマトを急かした。
「早く長官の執務室へ!
特別な褒美があるそうだぞっ!?」
(うっ…わぁぁぁ…。)
「ほらほら早く!
ジル様もオルカ様の帰還に元気を出されて今は長官と共に執務室だ!!
全てお前のお陰だヤマト!!」
(ひぇぇ…。)
ヤマトはただ苦笑いするしかなかった。
こうして移動を開始したヤマトは、本当に足が地に付かずフラフラしながら移動した。
上官はああ言っていたが、ジルとギルトとオルカ。この3セットとの謁見には嫌な予感しかしなかった。
(せめてスパンと首を落としてくれ…。
水に沈まされるのとかは…ちょっと。)
王宮の一階は執行議会の三階に繋がっていてショートカット出来る。
故にすぐに長官の執務室に到着してしまった。
ヤマトは己の死を覚悟する為、目を閉じた。
(…ごめんな、モエ。)
そして短く息を吐くと、顔を上げノックした。
コンコン… ガチャン!
「やあ!」
(う"っ…!?)
「待ってたよ!?」
ノックした途端に扉が開き、オルカが血走った目でニ"ッコリと見上げてきた。
口もニ"ッと上げられ、朝のままのブチギレ顔だ。
「初めまして!、ヤマト!」
「…💧」
「今日が王宮付き初日なんだってね?
僕も王様初日みたいなモンだから一緒だね!?」
「……はい。」
「お互いに頑張ろう!?」
「…はい。」
ジルはギルトの隣で堪えきれず吹き出し笑ってしまった。
『今さっきまで普通だったのにどうした!』と。
ギルトは目を細めながら口元で指を組み、じっとヤマトを見詰めていた。
ヤマトはただタジタジで…、青い顔で固まった苦笑いを続けるしかなかった。
「さあヤマト!、お互い王宮一年生同士、先ずは道案内を頼めるかな!?」 ←キレすぎて声張り気味
「…は?」
「『は?』?」
「いえ!、…承知致しました。」
「それじゃあ行ってきますねジルさん!ギルト!」
無理矢理外に出され、ヤマトは困りつつもチラッと中に目線を送った。
白いドレスを着たジルは、腰に手を突き『行ってこい?』と口パクで言い、笑ってくれた。
ギルトに目線を向けると、彼は美しい紫のつり目で真っ直ぐに自分を見ていた。
まるで自分の行動に、何かを求めるように。
…パタン。
扉が閉まると、『いいの?』とジルはギルトの肩に手を乗せた。
ギルトはゆっくりと息を吐き、姿勢を崩し椅子に深く腰かけた。
「構わんさ。オルカ様の申し出だ。」
「…そうじゃなくて。」
「……」
「オルカと話すのあんなに楽しみにしてたじゃん。
…ううん、違う。
アンタだけが…オルカを諦めなかった。」
「…そんなことはないさ。」
「あるよ。」
「……」
「私もイルも、ロバートも。
いつの間にかあの子の事、口にしなくなったのに。
…いや、それも違うな。
オルカが帰ってくる事が少し怖かったんだ、私とイルは。
…でもアンタはいつだってオルカを想ってた。
いつだって、どんな時だって。
『この光景をオルカ様に見せて差し上げたい。』
『オルカ様がおられたならこうする筈だ。』
『オルカ様のもたらして下さった世界だ。』って。
……アンタこそ、真の忠臣だよ。」
「…!」
「…昔からそうだった。
私達の中で誰よりも陛下を愛していた。」
ギルトは微かに目を大きくし、嬉しそうに笑った。
「それは、最大の誉だな?」
カツンカツンカツンカツン!
足早に行くオルカを追うように廊下を行くヤマト。
先の発言にも現状にも戸惑い、ついいつも通り声をかけてしまった。
「おい…オルカ?」
「不敬では?」
「!」
グルンとオルカが振り返った瞬間、廊下の角で制服とすれ違った。
彼らは『オルカ様だ!?』と一瞬慌てたが、必死にそれを隠しながら頭を深く下げ、行ってしまった。
「……『僕の兄弟だから出世した』。」
「!」
「そんな風にヤマトが言われるのなんて御免だ。」
「!!」
またフイッと踵を返し廊下を進んだオルカ。
その背に思うところなら山程あった。
ヤマトの案内など不要だった。
何度もリンクして誰かの記憶を見て、オルカは既に王宮内部を知り尽くしていた。
無言で一階に辿り着いたオルカに『一体何処に?』と思っていると、オルカはスッと飾り柱の下へ。
「…!」
「………」
彼はヤマトと共に茂の墓参りに来たのだ。
途端にヤマトの胸にぐっと込み上げるものがあり、ヤマトはうつ向いた。
オルカは静かに墓の前に膝を突き、静かに項垂れた。
広い世界を吹き抜ける風と、沢山の十字架達が、それを見守っていた。
「………」
なんと声をかけてあげれば、茂が喜ぶのか。
それをひたすら心の中に探した。
「……」
ねえ店長。
僕がここに帰るの、…嫌だった?
「………」
うん。違うよね。
店長は僕が無理矢理に王位を継承させられる事。
周りが僕の力に妄信的に頼り、僕に何かを強制するのが嫌だったんだよね…?
今なら、あの時の店長の気持ちが分かるんだ。
「…もう僕は、誰にも惑わされないよ。」
貴方がくれた優しさ、大きな心。
全てを抱きしめて、生きていきます。
「ありがとう。…ゲイル・コランダム。」
沢山の愛をありがとう。
…だから僕は、絶対にヤマトを助けます。
貴方が心の底から愛した、貴方の息子。
その親友であり兄弟で居続けます。
オルカはしっかりと手を合わせ、足を崩しあぐらをかいた。
そしてトントンと隣を叩き、ヤマトに座るように促した。
…ストン。
「……」
「…なんかさ?」
「……」
「僕は…とても中途半端だったな。…って。」
「?」
オルカは遠くに手を翳し、浮石を引き寄せた。
そして手の上で石をサラサラと削りながら、ヤマトに話した。
「誰かに言われるまま、促されるまま。
壁にぶつかったらすぐ誰かに助けを求めて。
…自分の意見より他人の意見を優先して。
実際、多くの助けが僕にはあった。
シスター、ジルさん、茂さん。
彼等が僕をずっとずっと守ってくれていた。
…そして僕は無意識に、そんな優しさに甘えていた。」
「……」
「…あっちに行って良かった。
僕は本当の甘え方を教わったし、甘やかし方の見本を見せてもらった。
…自分の意志こそが、自分を決める。
自分の決定の先に未来がある。
…こんな簡単な事を、いざちゃんと理解して、実践して。そうやって生きていく事を…誰もが出来ているようで、出来てなくて。
…汚い甘え方をする人間を沢山見た。
教育なんて当たり前だと、子供達は皆思っていた。
それこそが豊かさの象徴であるけど、それを知る子なんて殆ど居なかった。」
「……」
「だから僕は、僕である事を求めた柳さんに。
そして、本当に相手を守るとは…、一体どういう事なのか。
…それを教えてくれた門松さん、二人に心から感謝してる。」
だから絶対に譲らない。譲れない。
オルカは目を閉じ、浮石で作った薔薇を茂の墓の上に浮かせた。
なんて綺麗なのだろうとヤマトは思った。
「…聞いたよ。ジルさんとギルトから。」
「!」
「リンクして血を飲んだ時の効果も知った。
…大変だったねヤマト。」
「っ!」
オルカがそっと自分の腕に触れ、ヤマトはぐっと涙を堪えうつ向いた。
だがどうしても、ポタポタと雨のように涙を落としてしまった。
「死にた…い!」
「! ……」
「もうっ…何がなんだか…分からない!!」
「…うん。」
「自分が恐い!…あ…アネさん…を、…また」
「それは無いよ。」
「分かんねえだろ!!」
「無いように、努力するんだ。」
「っ、」
「大切なのは、ヤマトが『どうなりたいか』だ。
…君は茂さんになりたいの?
それとも自分として生きたいの…?」
「……」
「大切なのはヤマトの意志。それだけなんだ。」
ヤマトがぐっと口を結び、涙はポタポタと落ち続け。
オルカの目まで涙が滲んでしまった。
「…約束する。
君が止まれなくなったなら、僕が止める。」
「……オルカ。」
「そして、茂さんに振り回されなくなっても。
どうしたってギルトへの憎悪と決別出来ないのなら。…君が自分で、どうしてもギルトを殺したいなら。」
「……」
「僕はそれを受け入れる。」
「!」
大きく開かれたヤマトの目に、オルカはフッと微笑んだ。
悲しそうに。けれど、本気の目で。
「受け入れるからって許容はしないけどね?
…でも、どうしても憎いなら…仕方ないから。
止めるよ?、絶対に。
けれど、君の気持ちを否定なんてしない。」
「………」
ヤマトの胸は、この一言に軽くなった。
自分でさえ無理矢理に憎しみに従っていた事が何故か突然分かり、信じられない程に胸が軽くなった。
憎しみを否定されなかっただけなのに、それこそが欲しかったものなのだと理解した。
オルカはヤマトとじっと目を合わせると、足を崩し空を見上げた。
「ギルトの代わりに君に言い渡す。」
「…!」
「君は今日からジルさんに血のコントロールを学ぶこと。
王宮付きの仕事は一旦保留。
これまで同様、担当地域の治安維持と血のコントロールに集中せよ。」
ヤマトは涙を拭い、『はい』と答えた。
オルカは満足そうに笑うと、『ここが僕の実家か~!』とわざと声を張った。
ヤマトはそんなオルカの優しさを受け取り、口角を上げた。
「…初めて歩いたよ。」
「流石に言い過ぎだろ。」
「いや本当に。三年前、僕は王都すぐの道から理の間に飛んだから。」
「! …そうだったな?」
「うん。……広いねぇ?」
「はは!、この国で一番デケー家だよ。」
二人は笑い合った。
初めての本気の喧嘩が、やっと終わった。
そしてこの夜、カファロベアロに王の帰還が報された。
国民は大英勇の帰還に沸き、明日の朝一番に行われるオルカ王の顔見世の儀式になんとしても参列しようと王都に赴き、深夜から場所取りをした。
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