第121話 『友達シリーズ』
ヤマトの誕生日パーティーを終えると、オルカとヤマトは二人で外に出た。
もうこの頃には二人は昔のようにテンポよくテンション高く話せていた。
「…! …星。」
「ああそうそう。…不思議な光だよな。
…あっちではもっと多かったん?」
「うん。」
王都に近付けば近付く程、カファロベアロは元の世界に近くなった。
恐らくはコアが、この世界の力の根元が王宮にある故だろうとオルカは推測した。
ヤマトは、空を見て考え深げな顔をしたオルカの服装をまじまじと観察してしまった。
「…あっちって、皆そんな服着てんの?」
「ん?、…ううん?」
「…ん?」
「あっちは皆好きに着てるよ?
僕のはロックとかV系で、あんまり着てる人は多くなかった。
柳さん曰く、人を選ぶんだってさ?」
「ハハ!、…確かに?、パパがそんなん着てたら引くわ!」
「あはは!」
癖のように赤ピンに触れるオルカ。
その仕草だけで、柳と門松という人物がオルカに多大な影響を及ぼしたのが理解できた。
二人はポツポツと言葉を交わしながら夜の街を散歩したが、オルカは違和感を抱いていた。
ヤマトからは流石に茂の話が出るのではと思っていたのに、出ないからだ。
「…ねえヤマト。」
「んー?」
「アイランド、地震で壊れちゃったの?」
「…!」
ヤマトは足を止め、『見たのか』と溢すように囁いた。
オルカは頷き、王都にも一度入りイルとロバートと再会した事を告げた。
何故ヤマトが急に顔を強張らせたのか、分からないまま。
「でもまだジルさんには会ってないんだ。
王宮に戻ったって海堂さんに聞いただけ。」
「っ…」
「ヤマトは政府でしょ?
だったら皆と顔を合わせたりとか」
「してない。」
「……え…?」
それだけ吐き捨てるように溢し、ふと顔を逸らしてしまったヤマト。
オルカは眉を寄せながらも、素直に心を口にした。
「でも良かった。
…政府に入ったってことは、ヤマトも海堂さんと同じようにギルトと和解したんだね?」
「…は?」
「僕は三年前から…、ずっとギルトと話したかったんだ。
ちゃんと彼は話してくれるって言っていた。
…僕も、ちゃんと聞きたかった。」
「…ツ!!」
『誰があんな奴と和解なんかッ!!!』
そう怒鳴ったヤマトの声は、辺り一帯に響いた。
「どうかしてんだろお前!?あいつはお前の母ちゃんの首を…跳ね飛ばしたんだぞ!!」
「……でも、」
「そんな奴と…会話!?、対話!?
お前までそこらのバカ共と同じなのかよ!?
…頭腐ってんじゃねえのかッ!!!」
「っ、……なんでそこまでヤマトに言われなきゃいけないの。
…確かに僕もそう思ってたよ。
でも!、ギルトには事情があったんだ!!」
オルカが強く言い返したが、ヤマトは愕然とした顔をオルカに向けた。
「理由があれば許されるのかよ。」
「…!」
「マスターは最後まであいつに怒ってたぞ。」
「…… …ん?、何の話?」
「あいつは背後からマスターを刺した。」
「…刺し… え?、…待ってヤマト。順を追って」
「マスターは長官に殺されたんだ。」
「ツ…!!!」
オルカが激しく息を飲み口を押さえ、ヤマトはハッとした顔をして首のネックレスを出し、見つめた。
「…そういう事か。」
「茂さん…が、…死ん…だ…?」
「お前、法石割って名字持ちに飛ばしたな?」
「!、なんでそれを…ヤマトが知って…」
チャリン…!
ヤマトが見せてきたネックレスのチャームは、間違いなくオルカが割った法石の欠片だった。
眉を寄せたオルカに、ヤマトは目を細め淡々と話した。
「第二期大崩壊後、これは突然俺の前に現れた。
本当に目の前に、何処からともなく。
最初は何だったのかと思ったよ。
…どう見てもお前の法石と同じだったから。」
「………」
「でも最近、あいつもこれと同じ物を持っていたと知った。…聞けば第二期直後、突然現れて自分を救ってくれたとかで。
…俺の前に欠片が出現したのもほぼ同時期。
間違いなくお前が寄越した物だって確信した。
…でも分からなかった。何故俺なのか。
パパもロバートも受け取っていないのに、何故俺とあいつは持っているのか。」
「………」
「…お前は名字持ちにこれを飛ばしたんだ。
だから一つは俺の元に来た。
……濃すぎた血に反応したんだ。」
ヤマトの言葉の節々が理解出来ず、オルカはお願いだから順を追って説明してくれと頼んだ。
するとヤマトは、冷たい瞳でオルカを見据えた。
「マスターは俺をあいつから逃がすために、貫かれた心臓から血を飲ませたのさ。」
「つ…!!」
「…妙な感覚だったよ。今でも鮮明に思い出せる。
心臓が大きく鳴って…突然、まるで自分が無敵になったような感覚がしたんだ。
高いところからも平気で飛び下りられた。
だって平気だって分かってたから!」
「…ヤマト。」
オルカが歯を食い縛り涙を落とす前で、ヤマトはまた鮮明に思い出してしまった。
下から突き上げるように地震が起き、体が浮き…。茂が自分を抱き締め、ガラスが次々に割れる音が遠退き…
右頬に一瞬熱さを感じ、腕が開くと……
『俺の血を飲め。』
優しく笑う茂の胸を、剣が貫いていて……
「~~ツ!!!
あの卑怯者に!!、お前まで騙されちまうのかよッ!?」
「っ…!」
「フザケんなよッ!!!
何が和解だ…!!、そんなの出来るか!!
あいつは只の…大量殺人鬼だ!!!
ロバートの家族もマスターの家族も!!、モエの親もパパの家族もっ…皆あいつが殺したんだ!!!
それなのに…っ、どうして!!!
なんで!!、どうしてあいつを許せるってんだよ!?、どいつもこいつもッ、どうかしてる!!」
叫び散らすヤマトから、伝わってきた。
その日の映像がクリアに頭に流れ込んできた。
茂は最期までヤマトに笑顔を向け続けた。
それは、門松に貰い続けた笑顔と同じだった。
「…… …っ……」
オルカは勝手に溢れ出た涙にうつ向き、歯を食い縛り悲しみに堪えた。
ヤマトはそんなオルカに『分かってくれた』と安堵し、深呼吸して自分を落ち着かせた。
「……ごめん。…知らなかった…よな。」
「っ、……う…!」
「なあ、…オルカ?」
「な…に…!」
『俺達、兄弟だよな?』
この台詞に、オルカの涙は消し飛んだ。
ゆっくりと、異様に静かになった頭で顔を上げると、ヤマトは奥に狂気を秘めた笑顔でオルカに言った。
「俺らは実の兄弟よりも固い絆で結ばれた、兄弟であり友人、だよな?」
「………」
「だからさ、…協力してほしいんだ。」
「………」
「お前は俺を裏切らないだろ?
だから話すよ。俺の秘密。
…だから協力してほしい。だってお前、この世界なら無敵だろ?」
「………」
『『俺ら友達だろ?』…つってお願いしてきたらNG。
要求はエスカレートし、利用されていく。』
「俺が政府になったのは、…あいつを殺すため。」
「…!!」
「あいつの行いを…罪を国民に知らしめ、そして殺すため。
…だって何人がそれを望んでる?
誰も彼もが失わされたんだあいつに!
お前の母ちゃんだって、お前を産んだばっかだったんだぞ。
肉親殺しは重罪だ。お前にはあいつを裁く権利がある!」
…ああ。…そんな。
どうしよう柳さん。門松さん。
…まさか自分に本当に、こんな事が起こるなんて。
「だからオルカ。
俺と一緒に、…あいつを殺そう。」
『本当に難しいのは親しすぎる人間の頼みを断ること。だぜ?』
『人間なんて生きてりゃ嫌でも変わるんだ。
…お前も精々気を付けな。』
柳の言葉が嫌って程脳裏に響いた。
まさかヤマトから、ギルト殺害を持ち掛けられるなんて思いもしていなかった。
それも、『俺ら兄弟だろ?』『お前は俺を裏切らないよな?』…という、情に訴えかけた脅迫で。
「……ヤマト…。」
「あ。…なんならお前を発見したのは俺ってことにしてくんねえ?、そしたらあいつの側近まで上がれるかも!その方が効率いいよなっ?」
…お願いだから、流暢に喋らないで。
本気で殴りたくなる。
「なあ、…いいだろオルカ?
これは皆の為なんだって。…分かんだろ?」
なんだよ今の…お前の顔。
…無理して平然を装ってさ。
自分の本当の気持ちに蓋をして無理矢理笑ってさ。
そこまでしなきゃ出来ないからだろ。
そこまでしなきゃいけない程辛いなら、止めろよ。
素直になればいいだけの話だろ。
「…………」
「…まさかお前、……嫌なの?」
「…………」
「……告発でもする気かよ。
三年ぶりに会ったと思ったら、…裏切るのかよ。」
裏切ったのはどっちだ。
「……なんとか言えよ。イイコちゃん。」
「さっきっから聞いてれば。」
「…!」
「好き勝手に。…自分の要求ばっかり。」
「…ああなんだそんなこと?
勿論お前の要求だって飲むぜ。…言えよ。」
「今すぐその口縛れ。」
「…あ?」
腰に手を突いたヤマト。
彼ではないかのようにヤマトを睨み上げたオルカ。
一触即発の雰囲気を漂わせながら、オルカはハッキリと突き付けた。
「世のため人のためと言いながら、結局は全部自分のためだろ。」
「…話聞こえてた?、耳腐ってんのかお前。」
「人殺しなんかしたことない癖に。」
「あるかよ!、俺は制服だぜ…?」
「……そうやって、ギルトを奪って。」
「そうさ世界のためさ!!
勿論、俺とお前のためは大前提だ。」
「そうやってまた、誰かから奪うんだ。」
「…!」
「己の復讐心を充たしたいだけ。
…失った人の気持ちなら、さっきっから何度も口にしてるじゃない。」
「………」
「…ジルさんが王宮に戻ったなら。
海堂さんが和解したなら。
それはギルトの理由に納得したからだ。」
「つ、じゃあどんな理由でマスターを殺したんだよ!!!」
「同じ死でも罪の重さは違うんだッ!!!」
そう。僕は知っている。
素晴らしい刑事二人に育てられた僕は…知ってる。
この世にはどうにもならないことと、意図的に引き起こされた…重罪と呼ぶに相応しいものがあることを!!
「お前がやろうとしてるのはただの殺人だ!!
それこそ最も醜い犯罪だ!!!」
「ツ、あんな大量殺人鬼をのさばらしてる方がよっぽどタチが悪い!!!」
「違う!!、大崩壊は災害だ。
例えスイッチを入れたのが人であっても!、ギルトが意図的に洪水を…地震を起こした訳じゃない!!!」
「同じ事だろ!!、あいつが入れたスイッチだ!!
お前の!母親は!!、殺されたんだぞッ!!!」
「それでもギルトには理由があったんだ…!!!」
「っ、……バカじゃねえの。」
「憎しみの連鎖を…何処かで断ち切らなくてはと、そうは思わないの!?」
「…っ!」
「このままじゃ永遠に繰り返す!!
それじゃ駄目だってことくらい…っ、ヤマトは分かってる筈だ!!」
「……っ、」
「…無理して笑うくらいなら、笑うなよ。」
「!!」
「お前が疲れ果ててたのなんて!!
顔を見た瞬間には分かってたよ…!!!」
いつの間にか怒りは深い悲しみに。
オルカは腕を目に押し当て肩を揺らし、ヤマトはギュッと口を縛った。
「……もう、…遅えよ。」
「勝手に…決め付ける…な!」
「お前は良い人に会ったよ。」
「…!」
「…でもお前が俺だったら。
この腹から突き上げてくるドス黒いモンに、とっくに殺されてたよ。」
「……ヤマト。」
ヤマトはふいっと踵を返した。
オルカは慌ててヤマトの腕を掴んだが、ヤマトはバッと振りほどいた。
ヤマトはオルカに背中を向けたまま、鋭く何処かを睨み付けた。
「だったらお前が止めてみろよ。」
「…話してヤマト。
ちゃんと僕と向き合って。
…僕は君から逃げはしない。」
「…ハ。…俺の気持ちならちゃんと話しただろ。」
『寄り添わなかったのは、お前だろ。』
そのままヤマトは行ってしまった。
オルカは立ち尽くし、今度は悔し涙が込み上げてきて、また腕に目を埋めた。
「お前はそんなものに寄り添われたって…嬉しくないだろ…!!」
ヤマトを説得出来なかった自分、冷静でいられなかった自分が悔しかった。
どうすればいいのかすら分からず、オルカはその場から動けなかった。
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